PARS‐TRでわかる5つのこと|結果の見方や受検するメリットとは
この記事は検査の内容を含むため、
結果に影響を与える可能性があります。
検査を受ける本人でない場合のみ、お進みください。
PARS-TRとは
PARS-TRとは、自閉スペクトラム症のスクリーニング検査です。
検査により子どもの適応困難(環境にうまくなじめない、日常生活での困り感が強いなど)の背景に自閉スペクトラム症が存在するかを確認できます。
日常生活の悩みを明確にして支援を考えるための検査ですね
PARS-TRはスクリーニング検査の中でも「2次スクリーニング・ツール」に分類されます。
2次スクリーニングとは、健診や医療機関で「発達障害の特徴がある」とされた方を対象に「疾患の可能性」を判定する検査です。[1]
自閉スペクトラム症の他の検査は、下記の記事からご覧ください。
PARS‐TRの検査方法
PARS‐TRは、臨床心理士などの心理学の知識を有したスタッフとの面接形式の検査です。
面接では子どもの普段の様子を知る母親(以下、難しい場合は主な養育者とする)に、発達や行動の特徴について聞き取りを行います。
たとえば「後ろから名前を呼んでも振り向かないことがありましたか?」「視線が合わないと感じたことはありますか?」などです。
PARS-TRでわかること
PARS-TRでわかることを、以下の3つに分けて解説します。[2]
ひとつずつ見ていきましょう
自閉スペクトラム症に特徴的な行動の有無
PARS-TRの面接では、自閉スペクトラム症に特徴的な行動が対象者にもみられるか確認します。
たとえば「オウム返しの応答が目立つ」「同じ質問をしつこくする」などです。
自閉スペクトラム症の可能性
「学校に行けない」「友人と仲良く遊べない」などの適応困難の背景に自閉スペクトラム症があるかどうかを評価できます。
結果は「自閉スペクトラム症が強く示唆される」と「自閉スペクトラム症の可能性は低い」の2段階です。
支援の必要性
PARS-TRは面接形式のため、質問紙による検査よりも対象者の細かな部分まで把握可能です。
そのため、対象者がどのようなことで困っているのか、どのような支援を必要としているのかを明らかにできます。
PARS-TRの結果の見方
PARS‐TRでは、カットオフ値を基準として自閉スペクトラム症の可能性を判定します。
カットオフ値とは「〇点以上であれば病気の可能性が高い」のように、正常の範囲を区切る値のことです。
各年齢におけるカットオフ値
PARS‐TRのそれぞれの年齢におけるカットオフ値は以下の通りです。[3][4]
【幼児期ピーク得点】
・9点以上:自閉スペクトラム症の可能性が強く示唆される
・8点以下:自閉スペクトラム症の可能性は低い
【児童期得点】
・13点以上:自閉スペクトラム症の可能性が強く示唆される
・12点以下:自閉スペクトラム症の可能性は低い
【思春期・成人期得点】
・20点以上:自閉スペクトラム症の可能性が強く示唆される
・19点以下:自閉スペクトラム症の可能性は低い
PARS‐TRはあくまで病気の可能性を判定する検査のため、診断の確定には医師の診察が必要です。
引用:一般社団法人 発達障害支援のための評価研究会
(https://www.spectpub.com/PARS/PARS-TR-HP_Sample_R.pdf)
※図内のPDD=自閉スペクトラム症(ASD)です。2013年のDSM‐5により、PDDの用語がASDに変更されました[5]
幼児期ピーク得点とは
幼児期ピーク得点とは「症状がもっとも現れていた幼児期の得点」を意味します。
PARS‐TRの評価は「幼児期」「児童期」「思春期・成人期」に分かれているため、症状がピークであった幼児期と現在の比較が可能です。
たとえば、幼児期に比べ児童期の点数が大幅に減っているケースでは「保護者の関わりや療育による適切な支援ができている」ことを共有できるでしょう。
このように変化が数字として現れるため、養育者にとっても納得しやすい結果が得られます。[6]
納得できることは大切です
PARS‐TRを受けるメリット
PARS‐TRのメリットとして、養育者が子どもの自閉スペクトラム症を受け入れやすくなる点があげられます。
検査では日常生活についての質問が行われるため、養育者の不安や疑問が浮き彫りになることもあるでしょう。
その不安や困り感を検査者と共有したり詳しく聞いてもらったりすることで、子どもがなぜそのような行動をするのか、どのような気持ちでいるのかなどを理解しやすくなります。
情報を共有することで安心できますね
このように検査の時間を「支援の時間」にすることで、養育者が子どもの自閉スペクトラム症を受け入れる過程がスムーズになるのです。[6]
PARS‐TRの注意点
PARS-TRの注意点として以下の2点があげられます。
ひとつずつ解説します。
養育者の観察力により評価点が左右される
養育者の観察力により、結果に影響が出てしまう点に注意が必要です。
実際の現場では、PARS-TRの得点と子どもの様子が異なるケースも少なくありません。
養育者の聞き取りによる検査の得点は低くても、子どもには自閉スペクトラム症の特徴が現れているようなケースです。
そのようなときは、子どもの様子を正しく観察できるようなサポートを検討します。[6]
いつもと違う場所だと、様子が変わることは誰にでもあることです
内気なタイプは低得点になりやすい
受動的な性格の自閉スペクトラム症は発達面や行動面の特徴に乏しく、障害に気付かれにくいとされています。
このようなタイプはPARS-TRの得点が低い一方で「なんでもないものをひどくこわがる」「普段通りの状況や手順が急に変わると混乱する」などの項目が高得点になる傾向があります。
そのためPARS-TRの得点が低くても、不安や敏感さで本人が困っているようであれば、注意して様子を見ていく必要があるでしょう。[4]
まとめ
PARS-TRは、本人の生きづらさ(学校や職場に適応できない、日常生活でも困り感が強いなど)の背景に自閉スペクトラム症が存在するかを確認する検査です。
検査は母親が日常生活の様子について答える形で進んでいきます。
支援が必要なポイントが明らかになり、子どもへの理解が深まるきっかけとなるでしょう。
ただし「母親の観察力が不十分」「子どもが内向的な性格である」というケースでは、検査の結果を信用できないこともあります。このような場合は検査の数値が低くても、慎重に様子を見守らなくてはなりません。
PARS-TRの面接を通して、困り感の背景にある気持ちや症状、必要としているサポートを明らかにしましょう。
参考文献
[1]公益財団法人 日本心理学会|心理学的見方から なぜ知能検査だけではだめなのか ①スクリーニング
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2017/10/67-9-12.pdf
[2] 厚生労働省 平成 24 年度障害者総合福祉推進事業 特定非営利活動法人 アスペ・エルデの会
https://www.as-japan.jp/j/file/rinji/assessment_guideline2013.pdf
[3]一般社団法人 発達障害支援のための評価研究会 PARS‐TRについて
https://www.spectpub.com/PARS/PARS-TR-HP_Sample_R.pdf
[4]小児科診療におけるPARS‐TRの活用 2.既診断 PDD102例の PARS 結果と解釈https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/57/1/57_92/_pdf/-char/ja
[5]文部科学省 Ⅷ 自閉症 5 自閉症の理解と障害の状態の把握
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2014/06/13/1340247_13.pdf
[6]PARS-TR と Wechsler 知能検査を ASD 児者の支援につなぐ Ⅲ.PARS-TR(Parent-interviewASDRatingScale-TextRevision)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscap/60/1/60_15/_pdf