認知症の心理検査(HDS-R・MMSE・MoCA)

この記事は検査の内容を含むため、
結果に影響を与える可能性があります。
検査を受ける本人でない場合のみ、お進みください。

目次

認知症の心理検査

認知症の心理検査は、認知症の早期発見記憶のどの部分が障害されているのか症状の進行具合などを調べるために行います。

心理検査の結果によって、認知症と診断されるわけではありません。認知症の診断には、問診・画像検査・血液検査・心理検査などさまざまな検査を用いた医師の総合的な判断が必要です。[1]

認知症の心理検査は種類が多く、どの症状を評価するかによって用いる心理検査が異なります。[2]

心理検査は、医師や心理士によって行われることが多いため「先生がしなかったけど大丈夫なのかな?」と心配しなくて大丈夫です。

この記事では、以下の認知症心理検査を紹介します。

 他の認知症心理検査は下記の記事をご覧ください。 

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は、認知症の早期発見を目指した日本でもっとも広く使われているスクリーニング検査(認知症の可能性や認知症傾向の人を見つけること)です。[3][4]

おもに、記憶力を中心とした認知機能障害の有無を評価します。

質問形式の9問で、検査時間は5~10分程度です。本人への負担も少なく、生年月日さえ確認できれば検査可能です。

また、HDS-Rは必ず順番通りに行う必要はありません。日常会話から検査へ導入することで、リラックスした状態で検査を行えます。

リラックスした状態の方が正確な結果がでます

検査内容

HDS-Rでは9問の質問に答えます。

問題と測定する内容は以下のとおりです。[4]

問題測定する内容
1年齢自己に関する見当識
2年・月・日・曜日 日時の見当識
3今いる場所場所の見当識
43つの言葉の記銘短期記憶(即時記憶)
5計算問題計算能力と短期記憶、ワーキングメモリー
6数字の逆唱ワーキングメモリー
73つの言葉の遅延再生数分前の近時記憶
85つの物品記名短期記憶、視覚記銘力
9野菜の名前言語の流ちょう性

検査用紙はこちらからご覧いただけます。

最高得点は30点で、20点以下を認知症疑いがあると判断します。

HDS-Rで重症度の判断は行いませんが、得点により各重症度の有意差は認められるため以下を参考にしてください。[5]

  • 非認知症:24±4
  • 軽度:19±5
  • 中等度:15±4
  • やや高度:11±5
  • 非常に高度:4±3

ただし、この点数のみで診断されるわけではありません。あくまで、スクリーニング検査として使用しましょう。

注意点

HDS-Rの注意点は以下のとおりです。[4]

  • 検査は検査室や相談室で行う
  • うつ状態の人は低い点数になりやすい
  • もともと知能レベルが高い人は高得点になりやすい

大勢の人がいる場所での検査は避けましょう。周囲の様子が気になって検査に集中できなくなり、検査結果が変わる可能性があります。

また、うつ状態の人は低い点数を出すことが多く、安易にHDS-Rの結果のみで判断できません。

質問に対して「わかりません」「できません」と答える人もいるため、検査者は患者さんをはげまして答えてもらう工夫をしましょう。

もともとの知能レベルが高い人に対しては、検査を慎重に行う必要があります。
認知症の症状により日常生活に支障がでていても、検査では高い点数を出すことが多いためです。

Mini Mental State Examination (MMSE)

Mini Mental State Examination(MMSE)は、世界でもっとも多く使われていると言われている認知症のスクリーニング検査です。MMSE-Jは、2006年にMMSEの日本語版として作成されました。[6]

患者さんが質問用紙に記入する質問を含む11カテゴリーに分けられています。検査時間は約10~15分で対象年齢は18~85歳と幅広いため、手軽に取り組みやすく臨床場面で多く活用できるのです。[7]

口頭質問・記述・描画などの検査項目があり、記憶力に加えて、言語能力や知空間認知能力なども評価できます。[8]

検査内容

MMSEの検査内容は以下の11カテゴリーです。

  • 時間の見当識
  • 場所の見当識
  • 即時想起
  • 計算
  • 遅延再生
  • 物品呼称
  • 文の復唱
  • 口頭指示
  • 書字指示
  • 自発書字 
  • 図形模写

以下の一連の質問と課題から構成されています。[7]

スクロールできます
見当識<時に関する見当識> 「時」に関するいくつかの質問に答える
<場所に関する見当識>「場所」に関するいくつかの質問に答える
記銘いくつかの単語を繰り返して言う
注意と計算<シリアル7課題> 暗算で特定の条件の引き算をする
<逆唱課題> 特定の単語を後ろから言う
再生「記銘」で使用したいくつかの単語を言う
呼称日常的にありふれた物品の名称を言う
復唱教示された頻繁には使われることのない文を正確に繰り返す
理解教示されたいくつかの命令を理解し実行する
読字紙に書かれた文を理解し実行する
書字筋が通った任意の文を書く
描画提示された図形と同じ図形を書く

引用:MMSE-J精神状態短時間検査改訂日本版|日本文化科学社

MMSEは30点満点で、以下のように判断されます。[8][9]

  • 28点以上:正常
  • 24点以上27点以下:軽度認知障害(MCI)
  • 23点以下:軽度認知症疑い
  • 19点以下:中等度
  • 10点以下:重度

得点が低いほど認知症の可能性があるため、医療機関に相談しましょう。

注意点

MMSEは「この文を読んで、この通りにしてください」や「この部分に何か文章を書いてください」など、見たり書いたりする検査内容が含まれています。そのため、文字が書けない場合や視覚障害者は検査ができません。その場合は、口頭での回答だけで行えるHDS- Rを用いるとよいでしょう。

また、MMSEの検査結果のみで認知症を確定させるものではありません。

患者さんや家族が不安にならないためにも「記憶のどの部分の機能が低下しているのか調べる検査なので、この検査で認知症と診断されるわけではありませんよ」とやさしく寄り添った声かけが大切になります。

Montreal Cognitive Assessment (MoCA)

MoCAは、軽度認知障害のスクリーニングを目的とした心理検査で、認知症の早期発見と介入に役立ちます。

約10分の短時間で、多領域な認知機能(視空間・遂行・注意・記憶・言語・見当識)について評価できます。[10]

検査者の質問に答えたり患者さん自身が記入したりする11の質問で構成されています。

HDS-RやMMSEとは領域ごとの配点が異なり、注意・遂行機能評価が多く盛り込まれている点や記憶評価課題の難易度が高いことが特徴的です。

記憶に不安がありHDS-RやMMSEでは正常値の患者さんも、MoCAを使用することで軽度認知障害を判断するきっかけとなるでしょう。[11]

他にも、MoCAはMMSEよりも糖尿病の方の認知機能障害を見出すことができます。[12]

検査内容

MoCAの検査内容は8項目からなる以下の11問です。[13]

  1. Trail Making
  2. 視空間認知機能(立方体)
  3. 視空間認知機能(時計描画)
  4. 命名
  5. 記憶
  6. 注意
  7. 復唱
  8. 語想起
  9. 抽象的思考
  10. 遅延再生
  11. 見当識

検査用紙の右側に記入した得点を全て合計します。合計得点は30点で、日本語版のカットオフ値は26点以上です。教育年数が12年以下の場合には1点を加えます。(最高 30 点)

まとめ

この記事では認知症の心理検査として、HDS-R、MMSE、MoCAについて解説しました。

この3つの検査はスクリーニング(認知症の疑いがあるかを見つける検査)として用いられます。

どの検査を受けるのかは医師が判断することが多いですが、受けたい検査がある場合は相談してみましょう。

また、心理検査は「あなたは認知症です」と診断するものではありません。診断の参考にするための検査であるため、点数が低い場合でも認知症ではないことがあります。

おおかみこころのクリニックは、あなたが安心して検査できるようにサポートしております。気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。

【参考文献】
[1]認知症の診断・治療|国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
https://www.ncgg.go.jp/dementia/cure

[2]認知症の検査|国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 認知症臨床研究・治験ネットワーク
https://www.ncgg.go.jp/hospital/ictr/crnd/general/general04.html

[3]HDS-R 長谷川式認知症スケール|千葉テストセンター心理検査専門所
https://www.chibatc.co.jp/cgi/web/index.cgi?c=catalogue-zoom&pk=160

[4]改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の理解と活用|加藤伸司
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcgp/4/0/4_47/_pdf/-char/ja

[5]改訂 長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)|岐阜県下呂温泉病院
https://www.gero-hp.jp/dementia/pdf/hasegawashiki.pdf

[6]MMSE-J(精神状態短時間検査-日本版)原法の妥当性と信頼性|杉下 守弘, 腰塚 洋介, 須藤 慎治, 杉下 和行, 逸見 功, 唐澤 秀治, 猪原 匡史, 朝田 隆, 美原 盤
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/20/2/20_91/_pdf

[7]MMSE-J精神状態短時間検査改訂日本版|日本文化科学社
https://www.nichibun.co.jp/seek/kensa/mmse_j.html

[8]今日からできる認知機能の評価|柏原 健一
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/36/3/36_198/_pdf/-char/ja

[9]MMSE-J(精神状態短時間検査-日本版)テクニカルレポート#3|保険学博士・医学博士 杉下 守弘
https://www.nichibun.co.jp/know/column/20220301_mmse.html

[10]認知機能低下の鑑別における日本語版 Montoreal Cognitive Assessment(MoCA-J)の特性|福田 雅子、中森 正博、今村 栄次、小川加菜美、西野真佐美、平田 明子、若林 伸一
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/69/4/69_20-8/_pdf/-char/en

[11]第3章 認知症の診断 4.認知機能検査|法益財団法人 長寿科学振興財団
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/ninchisho-yobo-care/h30-3-4.html

[12]認知機能の評価法と認知症の診断|一般社団法人 日本老年医学会
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_02.html

[13]日本語版MoCA(MoCAーJ)教示マニュアル|作成:鈴木宏幸 監修:藤原佳典
https://s50b45448262f1812.jimcontent.com/download/version/1558490455/module/11363501891/name/MoCA-Instructions-Japanese_2010.pdf

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