認知症の心理検査(CDT・WMS-R・FAB・Mini-Cog)

この記事は検査の内容を含むため、
結果に影響を与える可能性があります。
検査を受ける本人でない場合のみ、お進みください。

目次

認知症の心理検査

認知症の心理検査は、認知症やその傾向のある患者さんに対して、どの機能が低下しているのかを判断するために行います。たとえば「記憶が障害されているのか」「判断力や理解力が低下しているのか」などです。

そこから、認知症の早期発見や治療内容、治療効果の判定などに活用します。[1]

この記事では、以下の認知症心理検査を紹介します。

 他の認知症心理検査は下記の記事をご覧ください。 

時計描画検査(CDT:Clock Drawing Test)

時計描画検査(CDT)は、時計の絵や指定された時刻に針を配置する描画検査です。

MMSEと組み合わせて行うことで、認知症の診断精度が高くなると報告されています。[2]

B5用紙に時計を描いてもらい、その描いた時計を評価するだけなため、年齢や教育歴の影響を受けにくく難聴の方でも紙に指示を書くことで検査可能です。

視空間認知機能以外にも、視覚記憶・プラニング・運動遂行・数字の認識・抽象概要・注意力などの前頭葉機能の評価にも活用できます。[3]

前頭葉機能検査にも使用できます

検査内容

用意するものは以下のとおりです。[4]

  • B5サイズの紙3種類
     書式A:白紙
     書式B:直径8㎝の円を中央に描いておく
     書式C:直径8㎝の円を中央に描き文字盤も記入しておく
  • えんぴつ

それぞれの用紙の使い方を下記で解説します。[4]

(書式A)
患者さんに書式Aを見せ「鉛筆で時計の絵を描いてください」と指示します。
数字は12個だと伝えてはいけません。「どんな数字ですか?」と聞く患者さんは認知症の可能性があります。

(書式B)
書式Bに「それでは、今度は円が描かれてありますので、もう一度時計の数字を全部描いてください」と指示します。
何も描けないままでは困るため、原則としてヒントを出してはいけませんが、少しヒントを出す場合もあります。その場合は、採点時に0.5点減点して備考欄に記入しましょう。

(書式C)
書式Cに「完成された文字盤です。ここに10時10分の針を描いてください」と指示します。
ここで針は2本と言ってはいけません。3本描く患者さんも多くいます。

採点方法

3枚の書式の合計が9点満点で8.5点までが正常です。[4]

(書式A)

  • 適応な大きさ=1点
  • 小さすぎる(直径2.8㎝以下)、大きすぎる(直径13㎝以上)=0.5点
  • 正方形や円以外でも数字が収まっている=1点

(書式B)

  • 数字が12個、正しい位置、適当な間隔=6点
  • 正しい数字が2つ描けている=1点(2個で1点)
  • 異常がある=-0.5点(2種類以上あっても-0.5点まで)

(書式C)

  • 指示通り描けている=2点
  • 針が3本=-0.5点

注意点

CDTの注意点は、以下の4つが挙げられます。[4]

  • カンニングをする
  • 患者さんを励ます
  • 消しゴムは使わない
  • ヒントは与えてはいけない

部屋の時計を隠していても、患者さんが時計を隠し持っているケースが稀にあります。長袖を着用している患者さんは、腕時計を持っていることもあるのです。検査をはじめて「時計の絵を描いてください」と指示したあとに時計を見る行動だけでも認知症の可能性は高くなります。合計得点から0.5点引き備考欄に「カンニング」と記載します。

検査中に患者さんが「間違えました」と言うときは「隣に書き直して大丈夫ですよ」と、間違ったものはそのまま検査用に保存します。

また、描くように指示しても何も描けない患者さんもいます。検査で落ち込まないように、どのような絵を描いても「すばらしいですね」と褒めるようにしましょう。

ウエクスラー記憶検査(WMS-R)

ウエクスラー記憶検査は、16才~74才11ヶ月を対象に国際的によく使われている総合的な記憶検査です。[5]

言葉を介した問題と図形を用いた問題で構成された45~60分の検査で、認知症を含むさまざまな記憶障害を評価できます。[6]

時間が限られている場合は、短縮版を用いることで約30分で実施可能です。[6]

検査内容

検査内容は以下の13項目です。[6]

  1. 情報と見当識
  2. 精神統制
  3. 図形の記憶
  4. 論理的記憶I
  5. 視覚性対連合I
  6. 言語性対連合I
  7. 視覚性再生I
  8. 数唱
  9. 視覚性記憶範囲
  10. 論理的記憶II
  11. 視覚性対連合II
  12. 言語性対連合II
  13. 視覚性再生II

検査項目により下記の指標を得ることができます。[5]

一般的記憶
(言語性記憶)
  ・論理的記憶I
  ・言語性対連合I
(視覚性記憶)
  ・図形の記憶
  ・視覚性対連合I
  ・視覚性再生I

注意/集中力
  ・精神統制
  ・数唱
  ・視覚性記憶範囲

遅延再生
  ・論理的記憶II
  ・視覚性対連合II
  ・言語性対連合II
  ・視覚性再生II

それぞれの項目の内容をみて、どの記憶が障害されているのか判断します。

Frontal Assessment Battery (FAB)

FABは、前頭葉機能を評価できる検査のため、認知症だけでなく高次脳機能障害の患者さんにも有効です。ベッドサイドにて約10分で手軽に行え、小児から高齢者まで幅広い年齢層で活用できます。[7]

検査内容

FABは下記の6項目で構成されています。[8]

  1. 類似性
  2. 語の流暢性
  3. 運動系列
  4. 葛藤指示
  5. GO-NO-GO課題
  6. 把握行動

採点方法は、各3点ずつの合計18点満点です。

前頭葉機能低下の判断は11点とし、年齢の影響を受けるため60代では12点以下70代では10点以下と設定されています。[9][10]

検査用紙は、Frontal Assessment Battery(FAB)厚生労働科学研究データベースにあります。

Mini-Cog

Mini-Cogは、3つの言葉の即時再生・遅延再生・時計描画を組み合わせた認知症のスクリーニング検査(認知症の疑いがあるかを見つける検査)です。

約2分で実施でき、MMSEと同様の適切さを示しています。[11]

具体的な検査内容はMini-Cogのサイトよりご覧ください。

まとめ

この記事では認知症の心理検査として、CDT、WMS-R、FAB、Mini-Cogについて解説しました。

認知症は、記憶や遂行機能、前頭葉機能など脳のさまざまな機能が低下するため、患者さんに必要な検査を実施することで適切な治療方針を立てることができます。

日常生活の中で「物忘れが多いな…」と不安に思ったら、おおかみこころのクリニックにお気軽にご相談ください。あなたが安心して検査できるようにサポートします。

【参考文献】
[1]物忘れ外来における神経心理検査について|関 美 雪
https://www.ohashi.med.toho-u.ac.jp/iryokan/vk7ie40000000l26-att/rhlvl80000001e8x.pdf

[2]痴呆症臨床における時計描画検査(The Clock Drawing Test, CDT )の有用性|河野 和彦
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbfsa/6/1/6_KJ00003250466/_pdf/-char/ja

[3]Clock Drawing Test(CDT)の評価法に関する臨床的検討|吉村 貴子 、 前島 伸一郎 、大沢 愛子 、 関口 恵利
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/28/4/28_4_361/_pdf

[4]コウノメソッド式CDT|日本医事新報社
https://www.jmedj.co.jp/files/item/books%20PDF/978-4-7849-4587-0.pdf

[5]WMS™-Rウエクスラー記憶検査|日本文化科学社
https://www.nichibun.co.jp/seek/kensa/wms_r.html

[6]WMS-R ウエクスラー記憶検査|千葉テストセンター 心理検査専門所
https://www.chibatc.co.jp/cgi/web/index.cgi?c=catalogue-zoom&pk=166

[7]ベッドサイドでのFAB A前頭葉評価バッテリー
https://www.neurology.org/doi/10.1212/WNL.55.11.1621

[8]アルツハイマー病患者におけるFrontal Assessment Battery(FAB)スコア低下と妄想的観念の関連性|永田智行、品川俊一郎、笠原洋勇、中山和彦
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1120030199.pdf

[9]認知症高齢者に対するボール拾い課題の認知・前頭葉・注意機能に対する効果
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282680552185472

[10]小児の前頭葉機能評価法|相原 正男
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/11/1/11_1_44/_pdf/-char/ja

[11]認知機能の評価法と認知症の診断|一般社団法人 日本老年医学会
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_02.html

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