双極性障害の心理検査(MDQ・BSDS・YMRS・WBI)

この記事は検査の内容を含むため、
結果に影響を与える可能性があります。
検査を受ける本人でない場合のみ、お進みください。

目次

双極性障害の心理検査とは

双極性障害の心理検査は、双極性障害の有無を客観的に調べることを目的としています。

双極性障害は抑うつ気分にばかり注目され発見されにくく、軽躁エピソードがない限りうつ病と診断されることが少なくありません。[1]そのため、心理検査を診断の補助として活用するのです。

ただし、心理検査の結果のみで双極性障害を診断することはできません。医師が診察して診断します。心理検査は、あくまで双極性障害か判断する補助的な役割なのです。 

双極性障害の心理検査の種類は以下のとおりです。

それぞれ詳しく解説します。

Mood Disorder Questionnaire(MDQ)

MDQは2000年に開発された心理検査で、双極性障害のスクリーニングツール(病気の有無を見つける目的の検査)として活用されている、もっとも研究されている心理検査です。[1]

躁状態に関する13項目の質問で構成され、症状の程度を評価する質問もあり同時に評価できます。

自分で質問用紙に記入する簡易的な心理検査で、外来で使いやすいのが特徴です。[2]

アメリカの調査では、双極Ⅰ型障害に対して高い感度を示すという報告もあります。

検査内容

MDQの検査内容は3つのセクションに分かれています。[3]

🔳セクション1
13項目の質問で構成され、それぞれの質問に「はい/いいえ」で回答します。

🔳セクション2
セクション1で「はい」と回答した質問に対して、2症状以上が同じ期間に生じたかを「はい/いいえ」で回答します。

🔳セクション3
セクション1・2によって生じた問題の程度を「まったくない」から「深刻な問題」の4段階で回答します。

MDQ海外版質問用紙はこちらからご覧ください。

結果

MDQ原典版の陽性判定は以下のとおりです。感度73%、特異度90%と報告されています。[3]

セクション1:7つ以上のチェック
セクション2:同時に症状が出現
セクション3:中等度以上の問題

日本語版の原典版と同じカットオフ値での感度と特異度は明らかにされていません。[3]

現在分かっている最適カットオフ値は以下のとおりです。感度65%、特異度94%と報告されています。

セクション1:5つ以上のチェック
セクション2:同時に2項目以上の出現
セクション3:軽度以上の問題 

ただし、原著者への認証を受けたものではなく、MDQ日本語版の信頼性・妥当性の検討は現在もすすめられている状況です。[3]

Bipolar Spectrum Diagnostic Scale(BSDS)

BSDSは2005年に作られた、双極性障害をスクリーニングするための検査です。
19項目の物語文章に対して、4段階で回答し0~6点で評価します。[2][3]

自己記入式で質問数が少ないため、外来で使用しやすいのが特徴です。

MDQとBSDSの両方を行い、どちらかで陽性結果が出た場合に「スクリーニング陽性」とすることが有用だと報告されています。[2]また、双極Ⅱ型に対して高い感度を得られています。[3]

検査内容

BSDSは、19問の記述的物語文が自分にどの程度あてはまるかを回答します。[3]

「本当に全く私に当てはまらない」から「非常に良く、あるいは、ほぼ完璧に私に当てはまる」の4段階で答え、各質問のうち自分に当てはまるものをチェックするのです。

結果

19問の質問に対して各1点を配点し、自分にどの程度あてはまるかを0点・2点・4点・6点に配点し、合計23点で評価します。[3]

原典版のカットオフ値は13点以上です。日本語版の最適カットオフ値は11点以上とされています。

ヤング躁病評価尺度日本語版(YMRS)

YMRSは、躁病のエピソードが日常生活にどのように関係しているのかを評価する検査です。

11項目で構成されており、訓練を受けた医師による15~30分ほどの検査で、患者さんの面接時の行動や回答を評価します。[4]

検査内容

検査内容は以下の11項目です。[5]

  • 気分高揚
  • 活動の量的-質的増加
  • 性的関心
  • 睡眠
  • 易怒性
  • 会話(速度と量)
  • 言語-思考障害
  • 思考内容
  • 破壊的-攻撃的行為
  • 身なり
  • 病識

それぞれの項目ごとに面接して点数を付けます。[5]

検査内容には、性的関心のような病院であまり確認しない項目も含まれているため、はっきりと検査目的を伝えることが大切です。[4]

結果

YMRSは、各項目の回答や面接中の患者さんの様子を評価します。[4]

総合得点は60点で、以下の4項目は0~8点の2点刻みの5段階です。

  • 易怒性
  • 会話(速度と量)
  • 思考内容
  • 破壊的-攻撃的行為

以下の7項目は0~4点の5段階で評価します。

  • 気分高揚
  • 活動の量的-質的増加
  • 性的関心
  • 睡眠
  • 言語-思考障害
  • 身なり
  • 病識

双極性障害スクリーニング尺度(WBI)

WBIは、双極性障害のスクリーニングを目的としてます。

質問Aと質問Bの9つの質問で構成され「はい/いいえ」で回答する簡単な検査です。

WBIは以下のようなケースでの使用が推奨されています。[6]

  • 職場で他の職員ともめ事が多い
  • うつ症状で休職をくり返している
  • 一方的に口をはさめないほど話して、職場の産業医が対応が難しいと感じた

質問数も少なく「はい/いいえ」で答えやすいですね!

検査内容

WBIは、質問に対して「はい/いいえ」で回答します。

検査内容は以下のとおりです。[6]

質問A.これまでに、以下のような変化を、数日以上続けて経験したことがありますか?

  1. 周囲の人(家族、友人、同僚など)からハイテンションだと指摘されるくらいにテンションが上がっていた。
  2. テンションが上がっているのが自分でも分かるくらい、気分が高揚していた。
  3. とても開放的な気分になって、普段ならしないようなことをした。
  4. 普段より簡単にイライラしたり、我慢がきかなかったりした。
  5. 何気ない些細なことで人と口論になりやすかった。

質問B.【質問A】で、ひとつでも『はい』と答えた方は、以下の質問にお答え下さい。
そのような期間中に、以下の質問のような変化を経験しましたか?

  1. いつもよりずっとおしゃべりになったり、ずっと話し続けなくてはならないと感じたりした。
  2. とても落ち着かず、そわそわした気分になって、うろうろ歩きまわったり、じっとしていられなかった。
  3. 例えば、普通は秘密にしておくようなことについてしゃべってしまったり、普通なら決まり悪く思うようなやりかたで行動してしまったりといったように、普段なら適切でないと考えるようなやり方で行動した。
  4. 過剰に人と親しくなったり、社交的になったりした。

引用文献:厚生労働科学研究成果データベース

結果

WBIは、質問に当てはまる「はい」の数で双極性障害のスクリーニングを行います。[6]

  • 「はい」が6項目以上:双極性障害の可能性が50%以上
  • 「はい」が3項目以上:家族や会社の人などから話を聞き、躁症状のエピソードがあった場合、双極性障害の可能性が高い
  • 「はい」は2項目以下:双極性障害の可能性は低い

まとめ

双極性障害はうつ症状にばかり注目され見逃されることが多いため、双極性障害の有無を客観的に調べるために心理検査が行われます。ただし、心理検査のみで双極性障害だと診断するわけではありません。

双極性障害は、医師が診察で本人や家族などに話を聞いたり、心理検査を補助的な役割で活用したりして診断します。

治療方針や診断が「あっているのかな…」と気になるときは、主治医に直接相談して大丈夫です。もし相談しにくい場合は、おおかみこころのクリニックへ相談にきてくださいね。わたしたちはいつでも相談をお待ちしております。

【参考文献】
[1]双極性障害の早期診断と治療|田中 輝明、小山 司
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/49/9/49_KJ00005703406/_pdf/-char/ja

[2]心療内科通院患者の双極スペクトラムの併存に関するスクリーニ ング調査|菅さくら/端詰勝敬/藤田欣也/坪井康次
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/55/8/55_KJ00010004617/_pdf/-char/ja

[3]厚生労働科学研究成果データベース
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2009/093151/200935028A/200935028A0003.pdf

[4]稲田 俊也(2012)『YMRSを使いこなす 改訂版ヤング躁病評価尺度日本語版(YMRS-J)による躁病の臨床評価』株式会社 じほう
https://www.jiho.co.jp/products/43426

[5]YMRS (Young Mania Rating Scale)ヤング躁病評価尺度|日本精神科評価尺度研究会
http://jsprs.org/scales/ymrs.html

[6]双極性障害スクリーニング尺度(WBI)使用マニュアル|厚生労働科研究成果データベース
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2010/103101/201027052B/201027052B0004.pdf

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