失声失歩
失声失歩とは、病気や心理的なストレスにより「声が出なくなる(失声)」「歩けなくなる(失歩)」という状態のことを指します。病気による場合、声を出すことや歩くことの機能が一時的に失われることがあり、治療によって改善されることがあります。一方、心理的なストレスが原因で発生する場合、これらの症状は通常、意味を持ちます。声が出なくなることは、話すことを避ける意向を示し、歩けなくなることは歩くことを避ける意志を示すことがあります。したがって、これらの症状はストレスの内容と関連しており、心理的なサインとして表れることが多いのです。
「失声」とは、声を失う状態を指します。通常、声は声帯の振動によって発生します。声が出ない症状は、一般的には喉や気管、声帯に関連する病気や障害によって引き起こされます。しかし、時折、これらの器官に明らかな異常がないにもかかわらず、「急に声が出なくなった」「前は普通に話せていたのに、今では声を出す方法がわからない」といった症状が現れることがあります。これは、心理的なストレスが原因で発生する「心因性の失声症」と考えられます。この症状は、声がかすれたりしわがれたりして、周囲の人に聞き取りにくい声が特徴です。心因性の失声症は、主に心理的な要因によるもので、人間関係の悪化、高いストレス負荷、重要な職務、孤独感などが強まると急に発症することがあります。女性に多く見られ、思春期から30歳前後の年齢層で発症しやすいとされています。
「失歩」とは、単独で歩行できない状態を指します。この症状は、通常、脳卒中や脳梗塞などの脳疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病、交通事故などの外傷によって引き起こされることが知られています。また、心理的なストレスによっても「失歩」が発生することがあります。心理的なストレスによる「失歩」は、立てなくなる(失立)だけでなく、歩くことができなくなる症状を含みます。この症状は、男女比で言うと女性の方が多く、発症年齢は10代から35歳までが主に該当します。心因性の失歩は、心理的な要因が主な原因であり、この症状が発生すると学校や職場、日常生活に大きな支障が生じます。したがって、周囲のサポートや専門的な医療機関の受診が重要です。
「失声」と「失歩」は、精神疾患の一つである転換性障害の症状として現れることがあります。転換性障害は、心理的な葛藤やストレスが身体の症状として表れる疾患で、身体表現性障害の一種です。この障害においては、生理的・器質的には異常がないにもかかわらず、失声、失歩、運動失調、運動鈍麻などの身体症状が発症します。
転換性障害における失声や失歩は、心理的要因によって引き起こされるもので、たとえば交通事故による外傷が原因で一時的に歩けない状態に陥り、その後も歩けない状態が続くことがあるとされています。
また、「失声」だけを症状とする精神疾患としては、「選択性緘黙」という疾患も存在します。この疾患では、特定の状況や場面で声が出なくなる特徴があり、転換性障害との鑑別が必要です。
失声失歩を引き起こす精神疾患は多岐にわたるため、症状の原因を明確にするためには、適切な医療機関での評価や診断が重要です。
失声や失歩の症状が出ている場合、まずは器質的な病気や障害が原因でないかを特定するための検査や診断が必要です。以下に、それぞれの症状について適切な検査や診断方法を解説します。
失声の場合、まず喉頭内視鏡や他の検査手段を用いて、声帯や喉にポリープ、炎症、腫瘍などの器質的な病変が存在しないかを確認します。特に器質的な疾患が見当たらない場合、患者の過去の医療経歴を詳しく尋ね、精神疾患の既往歴や現在の状態についての情報を収集します。
その後、専門家によるカウンセリングが行われ、心理的なテストや評価を通じて、失声の原因となるストレス要因を特定するための取り組みが行われます。声が全く発せられない場合、診察やカウンセリングは筆談を通じて行われることもあります。
このプロセスを経て、失声の原因が器質的な病気か心理的な要因かを明確に判別し、適切な治療やアプローチが選択されます。
失歩の原因を特定するためには、まず脳腫瘍、脳血管障害、てんかん、認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの器質的な脳疾患や神経難病による可能性を検査で排除します。特に器質的な病気が確認されない場合、患者の過去の精神疾患の歴史や現在のストレス要因について詳しく尋ねられます。
失歩が精神疾患によるものである場合、ほとんどが転換性障害に分類されます。このため、失歩以外にも他の身体症状が同時に現れることがあります。専門家によるカウンセリングを通じて、心理的なテストや評価が行われ、失歩の原因となるストレス要因が明らかにされます。
このプロセスを経て、失歩の原因が器質的な脳疾患ではなく転換性障害によるものであるかを判別し、適切な治療やアプローチが選択されます。
心理的な原因による失声失歩は、日常生活に大きな支障をもたらす症状です。他の疾患との鑑別診断や適切な治療のためには、早期に医療機関を受診することが非常に重要です。以下では、それぞれの治療法について詳しく説明します。
失声の治療方法は、患者さんの症状や状況に応じて心理療法、薬物治療、音声治療などが選択されます。
心理療法では、認知療法が一般的に行われます。これにより、失声までの心的な葛藤やストレスの原因を探求し、適切な対処法を学びます。感情や思考を深く理解し、適切なコピング戦略を習得することが目標です。
薬物治療は、失声がうつ症状や不安症状と関連している場合に考慮されます。抗不安薬や抗うつ薬の使用が検討され、心理療法と併用されることがあります。
音声治療は、声帯や発声器官に器質的な問題がない場合に行われます。この治療では、発声技巧や発声練習が行われ、徐々に声を取り戻すトレーニングが行われます。咳払いから始まり、ハミングや単語の発声練習を経て、正常な会話を再び行えるようにすることを目指します。
失歩の治療方法として、環境調整、心理療法、薬物治療が選択されます。
環境調整では、家族や周囲の人々からの理解とサポートが不可欠です。失歩が心理的なストレスによるものであることを理解し、本人に対して適切なサポートを提供します。心理療法を通じて、葛藤やストレスの要因を明らかにし、改善策を見つけ出すプロセスに取り組みます。
薬物治療は、失歩が転換性障害に関連してうつ病や不安障害といった精神疾患を引き起こしている可能性がある場合に検討されます。この場合、抗不安薬や抗うつ薬の服用が効果的であることがあります。
失声失歩の症状が心理的なストレスから発症する場合、予防のために日常生活でストレスを積極的に溜めないよう心がけることが重要です。特に強いストレスを感じる状況では、以下の生活習慣を意識することが役立つでしょう。
失声失歩のような症状を予防するために、ストレスの管理や心身の健康に配慮することが大切です。