うつ病の心理検査(BDI-2・HAM-D・PHQ-9・MADR・QIDS-J)
この記事は検査の内容を含むため、
結果に影響を与える可能性があります。
検査を受ける本人でない場合のみ、お進みください。
うつ病の心理検査
うつ病の心理検査は、うつ状態を客観的に把握するために行います。
うつ病は採血や心電図などの数値だけでは測れないため、心理検査に答えることで心の状態を見える化するのです。
うつ病の心理検査は数多くあるため、どの検査をするかは医師の判断によります。
ただ、心理検査はあくまで補助的なもので「検査の結果が○○だったら必ずうつ病」とはなりません。
心理検査の結果を参考に医師が診察し、うつ病といえる状態か診断します。
この記事で解説する検査は、BDI-2、HAM-D、PHQ-9、MADR、QIDS-Jです。
うつ病の他の検査については、下記の記事からご覧ください。
BDI-2(ベック抑うつ質問票)
BDI-II(ベック抑うつ質問票)は、13〜80歳を対象に抑うつ症状の有無や重症度を評価する検査です。
5〜10分程度の短時間で抑うつ症状をチェックできるため、世界的に広く使用されています。
活用場面
活用場面として挙げられるのは、以下のとおりです。[1]
- 治療前と治療開始後の比較
- 企業における従業員のメンタルヘルス管理
- 医療機関での診断やスクリーニング(病気の疑いがある人を見つける検査)
短時間で簡単に実施できる検査のため、多くの場面で活用されています。
質問項目
BDI-2では、過去2週間の状態について以下の21問に回答します。[2]
質問1
0 憂うつではない
1 憂うつである
2 いつも憂うつから逃れることができない
3 耐えがたいほど,憂うつで不幸である
質問2
0 将来について悲観してはいない
1 将来について悲観している
2 将来に希望がない
3 将来に何の希望もなく,良くなる可能性もない
質問3
0 それほど失敗するようには感じない
1 普通より,よく失敗するように思う
2 過去のことをふりかえれば,失敗のことばかり思い出す
3 人間として全く失敗だと思う
質問4
0 以前と同じように満足している
1 以前のようにものごとが楽しめなくなった
2 もう本当の意味で満足することなどできない
3 何もかもうんざりする
質問5
0 罪の意識など感じない
1 ときどき罪の意識を感じる
2 ほとんどいつも罪の意識を感じる
3 いつも罪の意識を感じる
質問6
0 罰を受けるとは思わない
1 罰を受けるかもしれない
2 罰を受けると思う
3 今,罰を受けていると思う
質問7
0 自分自身に失望してはいない
1 自分自身に失望している
2 自分自身にうんざりする
3 自分自身を憎む
質問8
0 他の人より自分が劣っているとは思わない
1 自分の欠点やあやまちに対し批判的である
2 自分の失敗に対していつも自らを責める
3 何か悪いことが起こると,自分のせいだと自らを責める
質問9
0 自殺しようと全く思わない
1 死にたいと思うことはあるが,自殺を実行しようとは思わない
2 自殺したいと思う
3 チャンスがあれば自殺するつもりである
質問10
0 いつも以上に泣くことはない
1 以前よりも泣く
2 いつも泣いてばかりいる
3 以前は泣くことができたが,今はそうしたくても泣くこともできない
質問11
0 イライラしていない
1 いつもより少しイライラしている
2 しょっちゅうイライラしている
3 現在はたえずイライラしている
質問12
0 他の人に対する関心を失っていない
1 以前より他の人に対する関心がなくなった
2 他の人に対する関心をほとんど失った
3 他の人に対する関心を全く失った
質問13
0 いつもと同じように決断することができる
1 以前より決断をのばす
2 以前より決断がはるかに難しい
3 もはや全く決断することができない
質問14
0 以前より醜いとは思わない
1 老けて見えるのでないか,魅力がないのではないかと心配である
2 もう自分には魅力がなくなったように感じる
3 自分は醜いにちがいないと思う
質問15
0 いつもどおりに働ける
1 何かやり始めるのにいつもより努力が必要である
2 何をやるのにも大変な努力がいる
3 何をすることもできない
質問16
0 いつもどおりよく眠れる
1 いつもよりも眠れない
2 いつもより1~2時間早く目が覚め,再び寝つくことが難しい
3 いつもより数時間も早く目が覚め,再び寝つくことができない
質問17
0 いつもより疲れた感じはしない
1 以前より疲れやすい
2 ほとんど何をやるのにも疲れる
3 疲れて何もできない
質問18
0 いつもどおり食欲はある
1 いつもより食欲がない
2 ほとんど食欲がない
3 全く食欲がない
質問19
0 最近それほどやせたということはない
1 最近2kg 以上やせた
2 最近4kg 以上やせた
3 最近6kg 以上やせた
質問20
0 自分の健康のことをいつも以上に心配することはない
1 どこかが痛いとか,胃が悪いとか,便秘など自分の身体の調子を気遣う
2 自分の身体の具合のことばかり心配し,他のことがあまり考えられない
3 自分の身体の具合のことばかり心配し,他のことを全く考えられない
質問21
0 性欲はいつもとかわりない
1 以前と比べて性欲がない
2 性欲がほとんどない
3 性欲が全くない
結果
結果の採点は、選択肢0:0点、選択肢1:1点、選択肢2:2点、選択肢3:3点として合計得点を計算します。
点数に応じたうつ状態のレベルは以下のとおりです。
- 1〜10点:この程度の落ち込みは正常範囲
- 11〜16点:軽いうつ状態
- 17〜20点:臨床的な意味でのうつ状態との境界
- 21〜30点:中程度のうつ状態
- 31〜40点:重いうつ状態
- 40点以上:極度のうつ状態
引用:「いやな気分よ さようなら」コンパクト版
※結果にかかわらず、質問9で「自殺したいと思う」「チャンスがあれば自殺するつもりである」 にチェックをつけた方は要注意です。
早めに医師の診察を受け「死にたい気持ちになることがある」と相談しましょう。
HAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)
HAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度)では、うつ症状の程度を調べられます。
患者さんが質問票に回答する形式ではなく、医師や臨床心理士などの質問に答える検査です。
うつ病の重症度をあらわす17項目と追加された4項目による21項目版が主に使用されています。[3]
質問項目
HAM-Dの質問項目は以下のとおりです。[4]
- 抑うつ
- 仕事と活動
- 生殖器症状
- 身体症状、消化器系
- 体重減少
- 入眠障害
- 熟眠障害
- 早朝睡眠障害
- 身体症状、一般的
- 罪業感
- 自殺
- 精神的不安
- 身体的不安
- 心気症
- 病識、洞察
- 精神運動抑制
- 精神運動興奮、激越
- 日内変動
- 現実感喪失、離人症
- 妄想症状
- 強迫症状
専門家は質問をしながら回答の明確さや内容、口調、表情、身振りを観察します。
結果
HAM-Dの結果は0〜52点で算出されます。
点数による分類は以下のとおりです。
- 0点~7点:正常(Normal)
- 8点~13点:軽症(Mild Depression)
- 14点~18点:中等症(Moderate Depression)
- 19点~22点:重症(Severe Depression)
- 23点以上:最重症(Very Severe Depression)
患者さん本人に元気がなく自分自身の状況を把握できないときや、うつ病の自覚がない方に有用です。
うつ病かも?と気づくきっかけにもなります
PHQ-9
PHQ-9は、うつ病治療のガイドライン(英国の国立医療技術評価機構ガイドライン)や、DSM-5(米国精神医学会)に推奨されているうつ病の評価尺度です。[5]
全部で9項目の質問(参考:日本不安症学会)に「過去2週間にどのくらい生じたか」を答えます。
質問には「まったく生じない:0点」、「数日:1点」、「半分以上:2点」、「ほとんど毎日:3点」で回答し、0〜27点の合計得点によりうつ病の重症度を測定するのです。
結果
PHQ-9の結果は以下のように判断されます。
- 1~4点:軽微
- 5~9点:軽度
- 10~14点:中等度
- 15~19点:中等度~重症
- 20~27点:重症
簡易アセスメントツールキットとしてPHQ-9日本語版「こころとからだの質問票」が発行されています(参考:こころの陽だまり)。
MADRS(モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度)
MADRSは質問に自分で回答する形式の検査で、うつ病の重症度を評価できます。
包括的精神病理学評価尺度の65項目から、うつ病の重症度と関連が強いとされる10項目を抜き出したものです。[6]
質問項目
MADRSの質問項目として、以下の10項目が挙げられます。
過去7日間の様子を0~6点のスコア(得点が高いほど症状が重い)で回答する形式です。[7]
- 外見に表出される悲しみ
- 言葉で表現された悲しみ
- 内的緊張
- 睡眠減少
- 食欲減退
- 集中困難
- 静止
- 感情を持てないこと
- 悲観的思考
- 自殺思考
結果
MADRSの回答は0〜60点で採点され、結果は以下のように分類されます。
- 7~19点:軽症
- 20~34点:中等症
- 34点以上:重症
うつ病の重症度を評価するための構造化面接ガイドである「SIGMA」を用いることで、信頼性が高まることが報告されています。
気になる症状があるときは、受診して医師に相談してくださいね!
QIDS -J(簡易抑うつ症状尺度)
QIDS-J(簡易抑うつ症状尺度)は、うつ病の重症度を評価する検査です。
睡眠、気分、食事、行動に関する16項目の質問に自分で回答します。[8]
質問項目
QIDS-Jの質問項目は以下の16項目です。
1.寝つき
0.問題ない(または、寝付くのに30分以上かかったことは一度もない)
1.寝つくのに30分以上かかったこともあるが、一週間の半分以下である
2.寝つくのに30分以上かかったことが、週の半分以上ある
3.寝つくのに60分以上かかったことが、(1週間の)半分以上ある
2.夜間の睡眠
0.問題ない(夜間に目が覚めたことはない)
1.落ち着かない、浅い眠りで、何回か短く目が覚めたことがある
2.毎晩少なくとも1回は目が覚めるが、難なくまた眠ることができる
3.毎晩1回以上目が覚め、そのまま20分以上眠れないことが、(1週間の)半分以上ある
3.早く目が覚めすぎる
0.問題ない(または、ほとんどの場合、目が覚めるのは、起きなくてはいけない時間の、せいぜい30分前である)
1.週の半分以上、起きなくてはならない時間より30分以上早く目が覚める
2.ほとんどいつも、起きなくてはならない時間より1時間早く目が覚めてしまうが、最終的にはまた眠ることができる。
3.起きなくてはならない時間よりも1時間以上早く起きてしまい、もう一度眠ることができない
4.眠りすぎる
0.問題ない(夜間、眠りすぎることはなく、日中に昼寝をすることもない)
1.24時間のうち、眠っている時間は、昼寝を含めて10時間ほどである
2.24時間のうち、眠っている時間は、昼寝を含めて12時間ほどである
3.24時間のうち、昼寝を含めて12時間以上眠っている
5.悲しい気持ち
0.悲しいとは思わない
1.悲しいと思うことは、半分以下の時間である
2.悲しいと思うことが半分以上の時間ある
3.ほとんどすべての時間、悲しいと感じている
6.食欲低下
0.普段の食欲とかわらない、または、食欲が増えた
1.普段よりいくぶん食べる回数が少ないか、量が少ない
2.普段よりかなり食べる量が少なく、食べるよう努めないといけない
3.まる1日(24時間)ほとんどものを食べず、食べるのは極めて強く食べようと努めたり、誰かに食べるよう説得されたときだけである
7.食欲増進
0.普段の食欲とかわらない、または、食欲が減った
1.普段より頻回に食べないといけないように感じる
2.普段とくらべて、常に食べる回数が多かったり、量が多かったりする
3.食事の時も、食事と食事の間も、食べ過ぎる衝動にかられている
8.体重減少(最近2週間で)
0.体重は変わっていない、または、体重は増えた
1.少し体重が減った気がする
2.1キロ以上やせた
3.2キロ以上やせた
9.体重増加(最近2週間で)
0.体重は変わっていない、または、体重は減った
1.少し体重が増えた気がする
2.1キロ以上太った
3.2キロ以上太った
10.集中力/決断
0.集中力や決断力は普段とかわりない
1.ときどき決断しづらくなっているように感じたり、注意が散漫になるように感じる
2.ほとんどの時間、注意を集中したり、決断を下すのに苦労する
3.ものを読むこともじゅうぶんにできなかったり、小さなことですら決断できないほど集中力が落ちている
11.自分についての見方
0.自分のことを、他の人と同じくらい価値があって、援助に値する人間だと思う
1.普段よりも自分を責めがちである
2.自分が他の人に迷惑をかけているとかなり信じている
3.自分の大小の欠陥について、ほとんど常に考えている
12.死や自殺についての考え
0.死や自殺について考えることはない
1.人生が空っぽに感じ、生きている価値があるかどうか疑問に思う
2.自殺や死について、1週間に数回、数分間にわたって考えることがある
3.自殺や死について1日に何回か細部にわたって考える、または、具体的な自殺の計画を立てたり、実際に死のうとしたりしたことがあった
13.一般的な興味
0.他人のことやいろいろな活動についての興味は普段と変わ らない
1.人々や活動について、普段より興味が薄れていると感じる
2.以前好んでいた活動のうち、一つか二つのことにしか興味がなくなっていると感じる
3.以前好んでいた活動に、ほとんどまったく興味がなくなっている
14.エネルギーのレベル
0.普段のエネルギーのレベルと変わりない
1.普段よりも疲れやすい
2.普段の日常の活動(例えば、買い物、宿題、料理、出勤など)をやり始めたり、やりとげるのに、大きな努力が必要である
3.ただエネルギーがないという理由だけで、日常の活動のほとんどが実行できない
15.動きが遅くなった気がする
0.普段どおりの速さで考えたり、話したり、動いたりしている
1.頭の働きが遅くなっていたり、声が単調で平坦に感じる
2.ほとんどの質問に答えるのに何秒かかかり、考えが遅くなっているのがわかる
3.最大の努力をしないと、質問に答えられないことがしばしばである
16.落ち着かない
0.落ち着かない気持ちはない。
1.しばしばそわそわしていて、手をもんだり、座り直したりせずにはいられない
2.動き回りたい衝動があって、かなり落ち着かない。
3.ときどき、座っていられなくて歩き回らずにはいられないことがある
引用:厚生労働省
採点方法
QIDS-Jの採点方法は以下を参考にしてください。
■選択肢0:0点、選択肢1:1点、選択肢2:2点、選択肢3:3点として合計得点を計算する
■睡眠に関する項目(第1~4項目)、食欲/体重に関する項目(第6~9項目)、精神運動状態に関する2項目(第15、16項目)
→それぞれの項目で点数がもっとも高いものを1つだけ選んで点数化する
■上記以外の項目(第5、10,11,12,13,14項目)
→それぞれの点数を合計する
結果
QIDS-Jの結果は以下のとおりです。
- 0~5連:正常
- 6~10点:軽度
- 11~15点:中等度
- 16~20点:重度
- 21~27点:きわめて重度
6点以上の場合にはうつ病の可能性があるため、医療機関に相談しましょう。
まとめ
今回はうつ病の心理検査として、BDI-2、HAM-D、PHQ-9、MADR、QIDS-Jについて解説しました。
どの検査を受けるかは医師の判断によりますが、受けたい検査がある場合は「こちらで○○の検査を受けられますか?」と医療機関に確認しましょう。
心理検査はあくまで補助的な役割のため、うつ病の有無を確定できるものではありません。
「セルフチェックで大丈夫だったからうつ病ではない」と自己判断をせず、気になることがある場合は必ず医師の診察を受けましょう。
おおかみこころのクリニックではうつ病の診察・治療を行っています。どんなことでもお気軽に話しに来てください。
【参考資料】
[1]日本文化科学社
https://www.nichibun.co.jp/seek/kensa/bdi2.html
[2]嫌な気分よ さようなら コンパクト版|デビット・D・バーンズ 星和書店
[3]日本精神科評価尺度研究会
http://jsprs.org/scales/ham_d.html
[4]独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
https://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100076/79000500_22300AMX00517_K101_1.pdf
[5]Patient Health Questionnaire (PHQ-9, PHQ-15) 日本語版および Generalized Anxiety Disorder -7 日本語版 -up to date-
https://core.ac.uk/reader/70372800
[6]日本精神科評価尺度研究会
http://jsprs.org/scales/madrs.html
[7]独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
https://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100076/79000500_22300AMX00517_K101_1.pdf
[8]厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/02.pdf