解離性同一性障害は思い込みなのか|思い込みと言われる理由と注意点

先生、解離性同一性障害は思い込みなのでしょうか?

自分の症状を周囲に信じてもらえず辛いです

浅田先生
浅田先生

一概に思い込みとは言えないよ。でも、思い込みという指摘があるのも事実なんだ。記事の中で解説していくね!

多重人格とも言われる「解離性同一性障害」。

映画や漫画の話のようで、周囲に信じてもらえず苦痛を伴うこともあります。

解離性同一性障害の方の中には、自分の苦しみが「甘えかも」「病気に逃げているのかも」と悩む方もいるかもしれません。

しかし、自分の感情を疑ったり責めたりしなくても大丈夫です。

今回は、解離性同一性障害が思い込みとは言えない理由や、なぜ思い込みと言われてしまうのかについて解説します。

解離性同一性障害の概要もわかりやすく解説するので、気楽な気持ちで読んでくださいね。

そもそも、解離性同一性障害は治るのかが気になる方は、下記の記事も合わせてご覧ください。

解離性同一性障害=思い込みとは言い切れない

解離性障害は、一概に「思い込み」とは言えません。

世界保健機関(WHO)が定めた病気の分類「ICD‐10」では、解離性同一性障害の発生は稀とされていました。

しかし、改訂版であるICD‐11では独立した分類として認められており、少しずつ認知が広がっています。[1]

その一方で、解離性同一性障害の診断に批判的な意見を持つ医療者や研究者がいるのも事実です。

批判の根拠としては、診察により症状が強化されるのではないかという点や、診断基準が曖昧な点などがあげられます。[2]

実際に精神科を受診する方の中には「別の病院を受診したら『ふざけないで』『多重人格など存在しない』と言われた」と泣きながら訴える方がいるのが現実です。[3]

客観的には事実ではないと思われても、本人にとっては現実味を持って多重人格が現れているという「心的現実」を重視しましょう。[4]

つらい気持ちや苦しい気持ちを抱えている本人に「嘘だ」「病気のせいにしたいだけだ」と追いつめることを言うのは避けてください。

こころちゃん
こころちゃん

本人にとっては現実なんですよね💦

本当に解離性同一性障害かどうかを判別するのは、経験を積んだ精神科医にも難しいことです。

真偽の追求よりも、「別の人格を作り上げなければいけないくらい苦しい状況なのだ」と理解しましょう。

下記の記事では、解離性同一性障害の実例を紹介しています。気になる方はご覧ください。

解離性同一性障害とは

解離性同一性障害とは、ひとりの人間の中にまったく別の人格が現れる神経症です。

ここでは以下の3つについて解説します。

原因

解離性同一性障害の原因は、耐えがたいストレスや心的外傷となる衝撃的な出来事です。

とくに幼少期に適応能力を超えた苦痛(虐待が多い)を受けた場合に生じやすいとされています。

長期間にわたって激しい苦痛を受けたり繰り返し衝撃的な体験をしたりすると、苦痛を引き受ける別の人格が形成されます。

その間の記憶や意識を別の人格が引き受けるため、もとの人格には記憶が残りません

その結果、それぞれの人格が独立した記憶を持つようになり、自分が自分であるという感覚が保てなくなってしまいます。[5]

こころちゃん
こころちゃん

「記憶にないことが起きている」や「最近なんだか違和感がある」と感じるときは専門家に相談しましょう。

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現れる人格の例[6]

解離性同一性障害が軽度の段階では、交代人格の形成や役割分担はまだ未熟です。

本人は「別の人格がいるかもしれない」と存在を感じ始める程度でしょう。

解離性同一性障害で現れる人格の例としては、以下のようなものがあげられます。

日常生活に適応する人格
本音を押し殺して他者に合わせる
穏やかに対応して日常生活に適応する役割がある
攻撃的な人格
日常生活に適応する人格とは真逆で、ズバズバと本音を言う
怯えている人格を守る役割がある
子ども人格
現在の本人より幼い人格で、不安や強いストレスから逃れる役割がある
解離症状のある方は安心できる居場所や相手を求めていることが多く、子ども返りをしてその欲求を満たそうとする

日常生活への影響

解離性同一性障害の段階が進むと、日常生活への影響が大きくなります。

交代人格の役割や行動が明確化し、人格の深みも増すためです。

出現する時間が増えるため「自分が自分である」という同一性に混乱が生じたり、記憶が途切れる時間が増えたりします。

思考や行動がひとりの人間としてのまとまりを持たなくなるため、自分の心と身体をコントロールできなくなり、学校や仕事、家庭生活などに悪影響を及ぼします。

こころちゃん
こころちゃん

早めの受診と治療が大切です

解離性同一性障害が思い込みと言われる理由

解離性同一性障害に特徴的な傾向として、下記のような特徴があげられます。

解離性同一性障害のすべての方に当てはまるわけではありませんが、多くの方が似たような特徴を持つとされています。[7]

以下で詳しく見ていきましょう。

空想傾向が強い

解離症状を持つ方は、幼いころから想像力が豊かで現実と空想を混同しがちなところがあります。

  • 妖精や小人、幽霊を見たことがあり、本当に存在していると思っている
  • ぬいぐるみや人形にも人格があり、話したり遊んだりしたことがある
  • 実在しない想像上の友人と遊んでいたことがある

上記のような空想が長期間にわたって持続し、すべての人が同様の経験を持つと感じています。

そのため、何気なく自分の体験について話し「嘘つき」と言われた方や、親から二度と言わないよう叱られた方も多いでしょう。

このような空想傾向の強さと、ストレスや心的外傷による解離が重なることにより、別の人格が形成されることがあります

本人にとっては事実でも、周囲は「また変なことを言っている」「空想だ」という解釈にしか至りません。

そのため、思い込みだと言われ苦しみを周囲に理解してもらえないことがあります。

興味のあることに没頭しやすい

解離性同一性障害を持つ一部の人は、アスペルガー障害などの発達障害を持ちあわせることがあります。

発達障害の特性により、他者を理解できないとともに自己の確立も曖昧なため、周囲に馴染めずひとりになる傾向があるでしょう。

興味が限定されるとともに自己の世界に没頭するため、より空想の世界に入り込みやすくなります。

本人の世界観や孤独が他者に理解されないため、周囲とうまく付き合うことができません。

コミュニケーションの苦手さも相まって自分の症状や苦しみを上手く伝えられず、勇気を出して相談しても「嘘だ」「変わっている人」と言われてしまうことがあります。

こころちゃん
こころちゃん

受診のときは、ゆっくりあなたのペースでお悩みを聞かせてくださいね

解離性同一性障害の思い込みを防ぐポイント 

解離性同一性障害が病気として存在することは事実です。

しかし、周囲が別の人格を作り上げやすい点も否定できません。

以下では、本人の中に交代人格を作り上げないために周囲が気を付けるべきポイントを解説します。

興味本位で交代人格の話をしない

興味本位で交代人格について質問するのを避けましょう。

「どんな人格がいるの?」

「どんな性格なの?」

「他に何人くらいいるの?」

このような質問により、本人と周囲が交代人格の存在を承認し、新しい人格が次々に出現するリスクがあります。

また、本人の症状を把握したい気持ちから、交代人格の年齢や性格などを詳細に記録するのも避けてください。

こちらも存在の承認につながるため、本人の症状を加速させる原因になります。

こころちゃん
こころちゃん

周囲の人は交代人格には触れずに、専門家に任せましょう

解離性同一性障害の世界に入り込ませない

解離性同一性障害に関するテレビや書籍などになるべく触れさせないようにしましょう。

交代人格が出現するエピソードは強いインパクトを持つため、本人が持つ想像力との相乗効果により症状に悪影響を与えます。

本人が多重人格の情報にアンテナを張らないように、テレビや書籍などの影響を与えるものはなるべく近づけないようにしましょう。

まとめ

解離性同一性障害は、世界保健機構が定めた診断基準によって病気として認められています。

しかし、医療者や研究者の中にも批判的な意見を持つ方がいるのも事実です。

また、交代人格の出現という特殊な症状は、周囲の理解を得るのが難しい傾向があります。

周囲の人は興味本位で症状を詮索したり、解離性同一性障害の情報を集めすぎたりしないよう注意してください。

まずは「苦しいときは苦しい」「今はゆっくり休む時間だ」とありのままの感情を認めることが大切です。

解離性同一性障害の真偽よりも抱いている苦しみに焦点を当て、安心できる環境に身を置けるようにしましょう。

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参考文献

[1] CD‐11におけるストレス関連症群と解離症群の診断動向|はじめにhttps://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1230100676.pdf

[2] 解離性同一性障害(多重人格障害)’の精神病理学的・ 認知心理学的検討|問題https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpjspp/6/2/6_KJ00001287069/_pdf/-char/ja

[3] 解離性同一性障害(多重人格)の原因と治療について|はじめにhttps://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F8277634&contentNo=1

[4] 解離性同一性障害(多重人格障害)の精神病理学的・認知心理学的検討|解離一防衛メ カニズムから外傷性ストレス障害へ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpjspp/6/2/6_KJ00001287069/_pdf/-char/ja

[5] 解離性同一症 / 解離性同一性障害|e-ヘルスネット

[6][7] 解離性障害がよくわかる本|講談社 柴山雅俊監修

この記事の執筆者
とだ ゆず
メンタルヘルスの記事を中心に執筆する看護師・保健師ライター。 精神科勤務での患者さんとの関わりや自身のうつ病経験から「人の心についてもっと知りたい」と思い、上級心理カウンセラーの資格を取得。 エビデンスに基づいた読者の心に寄り添う記事を心がけている。
執筆者:浅田 愼太郎

監修者:浅田 愼太郎

新宿にあるおおかみこころのクリニックの診療部長です。心の悩みを気軽に相談できる環境を提供し、早期対応を重視しています。また、夜間診療にも力を入れており、患者の日常生活が快適になるようサポートしています。

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