夕方の時間帯になると、行動が落ち着かなくなったり話が通じなくなったりする夕暮れ症候群(sundown syndrome)。
おもに認知症の高齢者にあらわれ、日常生活に支障をきたしたり介護を担っている家族に影響したりする恐れがあります。
この記事では、夕暮れ症候群の原因やその対応方法を解説しました。家族が認知症で夕暮れ症候群への対応方法に悩んでいるあなたの手助けになれると幸いです。
夕暮れ症候群はアルツハイマー型認知症の症状のひとつ
夕暮れ症候群は、アルツハイマー型認知症(AD)の方にあらわれる症状のひとつです。
ある研究によると、介護施設に入居しているアルツハイマー型認知症の方の10〜25%に夕暮れ症候群の症状がみられました。[1]
夕暮れ症候群の症状があらわれると、家族の睡眠の妨げになります。さらに、認知症の方が自分や家族に危害をくわえたりする恐れがあります。
夕暮れ症候群は認知症の方に起こる可能性があり、発症する原因や症状を知っておくことで早めに対処できるでしょう。
さっそく症状をチェックしてみましょう。
夕暮れ症候群の症状
夕暮れ症候群は、おもに以下のような症状があらわれやすいです。[2]
- 焦り
- 徘徊
- 暴言・暴力
- 妄想的な言動
「家に帰らないといけない」と夕方になると行動が落ち着かなくなったり、些細なことでも声を荒げるようになったりします。
こういった症状があらわれるときは、認知症の状態が悪化している恐れがあるため、まずは病院を受診してみてくださいね。
夕暮れ症候群の原因
夕暮れ症候群の原因ははっきりと分かっていませんが、以下のような原因があると言われています。
それぞれの原因を知ると、夕暮れ症候群の症状がみられる認知症の方に早く対応できますよ。
認知機能の低下
認知機能が低下すると、時間や場所、人間関係などの情報を正しく理解できなくなります(見当識障害)。また記憶障害によって、なぜ自分がここにいるのか、自分が置かれている状況がわからなくなるため混乱します。
たとえば、自宅にいるにも関わらず夕方になったときに「早く家に帰ろう」と言い、行動が落ち着かなくなる場合があります。
認知機能が低下して、見当識障害や記憶障害などによって現状をうまく把握できなくなるため、夕暮れ症候群の症状があらわれます。
身体の不快な症状
身体の症状によりストレスや不安が大きくなり、夕暮れ症候群の引き金となることがあります。
たとえば、便秘によるお腹の不快感、腰痛や膝痛などの痛みがきっかけで夕暮れ症候群の症状があらわれます。
ほかにも、一日の終わりで疲れが溜まっているときにも夕暮れ症候群が起こる恐れがあります。
疲れがたまっている様子がある場合は、音楽を聞いてゆっくり過ごしたり、お風呂に入ってリラックスできるように声をかけましょう。
生活リズムの乱れ
高齢になると生活のリズムが乱れやすくなります。
生活リズムを調整する脳の神経細胞が減少し、不規則な生活になりやすいからです。[2]
さらに、高齢者は定年退職を迎えたり家族と離れて生活したりなど外に出る機会が少なくなりやすいため、太陽の光を浴びる時間が減ります。
この太陽の光を浴びることは「昼は活動して夜は寝る」という覚醒と睡眠のリズムをコントロールするためには欠かせません。[3]
とくに、認知症の方は生活のリズムが乱れやすいことにくわえて、覚醒と睡眠のリズムをうまく調整できないことが、夕暮れ症候群を引き起こす原因です。[4]
不安な気持ちの増強
夕方になって外が暗くなり始めることで、認知症の方は不安や焦り、寂しさなどのネガティブな気持ちを抱きやすいです。
さらに、子どもの迎えに行ったり、夕食やお風呂の準備をしたりなど、介護を担っている家族が慌ただしくなることが多いです。
このような周りの落ち着かない様子を認知症の方が感じとることで、不安な気持ちが強くなるため、夕暮れ症候群の症状があらわれる恐れがあります。
薬の副作用による影響
認知症の治療薬やほかの病気の薬の副作用により、夕暮れ症候群の症状があらわれる可能性があります。
薬の副作用には不安や混乱、睡眠障害を起こすこともあるからです。
新しい薬を飲み始めたり、薬を飲む量が変わったりしたタイミングで夕暮れ症候群の症状があらわれたときは、薬の副作用による影響が考えられます。
そのため、すぐに主治医に相談して薬の種類を変更したり量を調整したりしましょう。
夕暮れ症候群の診断基準
夕暮れ症候群には、はっきりとした定義や診断基準がないため、ほかの心の病気との違いがわかりにくいです。[3]
たとえば、せん妄とは時間や場所が分からなくなったり、注意力が低下したりなど精神状態に異常をきたす状態のことであり、症状が夕暮れ症候群と似ています。実際に、夕暮れ症候群とされるケースの中には、せん妄と考えられるものもあります。
そのため、気になる症状があらわれたときや対応に困ったときなどは、主治医に相談してみてくださいね。
夕暮れ症候群の対応方法
夕暮れ症候群の症状があらわれ、どのように対応すべきか悩んでいる方も多いでしょう。ここでは、下記9つの対応方法を紹介します。
それぞれの対応方法を理解して、夕暮れ症候群の症状を和らげられるように認知症の方の手助けをしましょう。
近所を散歩する
夕暮れ症候群の症状があらわれると、認知症の方は気持ちや行動が落ち着かなくなります。
「ここはあなたの家ですよ」「子どもはもう巣立って別のところで生活しているから大丈夫ですよ」などと説明しても、認知症の方が納得することは難しいです。
このような場合は、認知症の方と近所を一緒に散歩して気を紛らすと症状が落ち着くでしょう。
役割を持ってもらう
年を重ねると、認知症の方は子どもが巣立ったり、会社を退職したりするため家庭や社会での役割を失いやすいです。
自宅でやることがなく行動や言動が落ち着かない場合は、何か役割を持ってもらうことも一手です。
というのも、認知症の方の意欲が向上したり、人の役に立っていると感じたりすると生きがいになるからです。
たとえば「洗濯物をたたんでくれませんか?」「ご飯の作り方を教えてくれませんか?」など認知症の方は得意なことを頼んでみてください。
認知症の方が自分の居場所があると実感したり安心できたりすると夕暮れ症候群の症状が和らぐでしょう。
照明の明るさを調整する
外が暗くなって不安を感じることで夕暮れ症候群の症状があらわれるため、照明の明るさを調整すると、その症状に対応できる場合もあります。
たとえば、暗くなる前に照明をつけて部屋を明るくしたり、早めにカーテンを閉めて外が見えないようにするなどの工夫が必要です。
認知症の方の性格や意向に合わせて明るめの色のインテリアをそろえると、症状が軽くなることもありますよ。
軽食やおやつを用意する
夕方になって小腹が空き、夕暮れ症候群の症状があらわれることもあります。
空腹による不快感が、夕暮れ症候群の症状があらわれるきっかけとなるため、軽食やおやつを用意して小腹を満たしてもらいましょう。
このとき、一緒に家族もテーブルにつきおやつを食べたりお茶を飲んだりすると、認知症の方の気持ちが落ち着くでしょう。
好きなことができるように見守る
夕暮れ症候群の症状があらわれているときは、認知症の方が好きなことをできるように見守ることも大切です。
たとえば、以下のようなものがおすすめです。
- 写真を見る
- 折り紙で作品を作る
- 草花の手入れをする
- パズルやあやとりをする
認知症の方が好きな活動を取り入れて、完成した作品を家族が褒めたり一緒に喜んだりすることで心が満たされることもあります。
生活リズムを整えるように促す
生活リズムを整えるように促すことで、夕暮れ症候群の症状の緩和に期待できます。具体的には、以下のように規則正しい生活ができるようにしましょう。
- 朝は決まった時間に起きて太陽の光を浴びる
- 日中は昼寝をしすぎず運動する
- 夜は早めに就寝する
本人とその家族の方が一緒に活動することで、症状が落ち着きます。
さらに、デイサービスやデイケアなどを利用することで、決まった時間に施設に出かけたりサービスを受けたりするため、生活リズムが整うきっかけになる場合もあります。
介護サービスを活用できるのか、ケアマネジャーや市区町村の担当窓口で相談してみましょう。
気持ちをわかったうえで声をかける
認知症の方は、最近の出来事は忘れてしまいますが、昔のことは覚えています。
そのため、現在の家は昔と雰囲気が変わっているため他人の家であると感じたり、親を心配させたくないという思いから自宅に帰りたい気持ちになったりします。周りの方は、この気持ちを理解することが大切です。
認知症の方が一人ぼっちであると感じさせないように家族が話しかけることは重要です。
ただし、家族が急いでいる姿を見ることで認知症の方は不安が強くなるため、立ち止まって話したり会話のスピードをゆっくりしたりしてくださいね。
カフェインやアルコールの摂取を控える
カフェインやアルコールを摂取すると寝つきが悪くなり、睡眠と覚醒のリズムが狂う恐れがあります。
たとえば、夕方以降はコーヒーや紅茶などを飲まないようにしたり、寝酒や深酒は控えたりしてください。[5]また、日中に水分をしっかり摂り、夕方以降の飲み物の量を減らすことで、睡眠の質を向上させることができます。
飲む時間や量を考えたうえで夜間はしっかり寝て、昼間は活動しましょう。
精神科や心療内科の医師に相談する
新たな認知症の症状が見られるようになった場合は、病気が進行している可能性があります。
認知症は早めに発見して治療を始めると、症状の進行を遅らせたり認知機能を改善できたりするケースもあります。[6]
そのため、新たな症状があらわれたときや認知症の方の変化に気づいたときには、精神科や心療内科の医師に相談してみましょう。
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夕暮れ症候群の治療法
夕暮れ症候群の治療法は、おもに以下の2つとされています。
- 薬物療法
- 精神療法
ただし、薬物療法の効果は、現時点(2024年6月)では明らかにされていません。
そのため、症状が軽減することを目指した治療をおこないます。
具体的には、夕暮れ症候群の眠れない、怒りっぽくなるなどの症状に合わせて薬を飲むこともあります。
また、精神療法ではおもに認知行動療法が行われ、夕暮れ症候群の症状に影響している偏った考え方を変えられるように、医師やカウンセラーと面談します。
認知症の方それぞれで症状が異なるため、医師に相談しながら治療を進めることが重要です。
夕暮れ症候群の症状があらわれたときの注意点
夕暮れ症候群の症状があらわれたときの注意点を紹介します。注意点を踏まえないと、症状が悪化する恐れがあるため、認知症の方と接するときの参考にしてくださいね。
注意や叱責は控える
認知症の方は不安を抱えながら行動しているため、夕暮れ症候群の症状があらわれたときに、注意したり叱責したりすることは控えてください。
この注意や叱責により、認知症の方が混乱したりストレスが強くなったりして、症状が悪化する可能性があります。
不安な気持ちに寄り添ったうえで、手芸やパズルなど認知症の方が好きなことに集中してもらいましょう。
否定しないようにする
否定しないことも、夕暮れ症候群があらわれたときには大事です。
認知症の方が正しいと思い込んでいることを否定されると、不安な気持ちが強くなり自分を認められなくなるからです。
認知症の方が考えたり感じたりしていることなどを受け止めたうえで声をかけると、夕暮れ症候群の症状が落ち着くでしょう。
まとめ
夕暮れ症候群は、夕方の時間帯にアルツハイマー型認知症の方にみられる症状です。
認知機能が低下したり、生活のリズムが乱れたりすることが要因となり症状があらわれます。実際には、行動が落ち着かず些細なことで声を荒げることもあります。
このような症状にどのように対応すべきかわからず困っていませんか。早めに対応できると、症状を和らげられる可能性があります。おおかみこころのクリニックでは、心の病気に対応しています。ひとりで悩まず、不安な気持ちを相談しに来てくださいね。
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【参考文献・サイト】
[1]Circadian rhythms of agitation in institutionalized patients with Alzheimer’s disease
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10841213/
[2]夕暮れ時は忙しい|水戸市
https://www.city.mito.lg.jp/uploaded/attachment/15378.pdf P2
[3]第3章 健康なくらしに寄与する光 2 光の治療的応用―光による生体リズム調節―|文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/attach/1333542.htm
[4]認知症患者の夜間にみられる精神症状および行動症状|認知症神経科学の夜
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ninchishinkeikagaku/17/1/17_12/_pdf P3-4
[5]健康づくりのための睡眠ガイド2023|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf P31
[6]認知症 こころの情報サイト|厚生労働省
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=WwE9LLpYbVZTIDMI
- この記事の編集者
- 西川正太
看護師、保健師、保育士。 2009年大学を卒業後、大学病院や総合病院で勤務経験あり。現在はフリーライターとして医療を中心に執筆中。