友人から『多重人格かもしれない』と相談され、びっくりしてしまいました。
接し方で気をつけることはありますか?
多重人格の方と接するときは、安心感を与えることが大切だよ。
記事の中で詳しく解説するね
多重人格は「解離性同一性障害」といわれる病気です。
本来とはまったく異なる人格が現れるため、接し方に困難を感じる方も多いでしょう。
しかし、特別な技術や専門的な知識は必要ありません。
記事の中では、すぐに実践できる具体的な注意点や大切なポイントを解説しています。
きっと「そんなに難しく考えなくても大丈夫そう」と安心していただけるはずですよ。
困ったときの相談先も紹介しているので、ぜひ最後まで目を通してくださいね。
解離性同一性障害が治るのか気になる方は、下記の記事もご覧ください。
解離性同一性障害の方との接し方
解離性同一性障害の方と接するときは、下記の3つを意識しましょう。
ひとつずつ解説します。
安心できる環境を整える
解離性同一性障害の方にとって、安心できる環境は非常に大切です。
ストレスから離れて過ごす時間が病状の回復につながるためです。
多重人格に関する情報や興味本位での詮索は本人の症状に悪影響を与えるため、不要に病気の話を持ち出すのは控えましょう。
ときには「学校や仕事に行きたくない」「他の人格が…」と不調を訴えることがあるかもしれません。
そのようなときは「今は休養が必要な時間」と捉え、心身を休ませてあげましょう。
くれぐれも「怠けている」「多重人格なんて演技だ」と本人を追い詰めたり疑ったりするようなことはしないでください。
症状の裏にある苦痛や生きづらさに焦点を当て、本人の気持ちに寄り添うことを心がけましょう。
自己評価の低下を防ぐ
本人の自己評価を下げない関わりを意識しましょう。
解離症状を持つ方は内向的な性格を持つことが多く、叱責や罰が苦手とされています。
人格交代(代わる代わる他の人格が現れる症状)や記憶の消失などの解離症状は、ネガティブな感情や自分の弱さをカバーするための手段です。[1]
そのため「病気なんて甘えだ」「また仕事を休んだのか」などの言葉は症状を悪化させる恐れがあります。
「交代人格を作り出さなければならないくらい、過酷な環境で頑張っていたんだね」
「もうひとりで頑張らなくても大丈夫」
このようなメッセージを通して、自分を責めなくてもよいことを伝えてください。
やさしく寄り添うといいでしょう
他の人格を責めない
特定の人格を責めないよう注意しましょう。
交代人格は症状でありながら本人の一部であり、協力者、理解者です。
特定の人格を責めたり悪口を言ったりすると、人格同士が攻撃し合うリスクがあります。
「自分だけが辛い目にあっている」という不満を抱いた人格が他の人格を攻撃し、自傷行為や自殺企図(実際に自殺を計画すること)をさせるケースがあるのです。[2]
「目の前にいない人格も後ろで聞いている」という意識を持ち、特定の人格を責めないようにしましょう。
解離性同一性障害の方と接するうえで大切なこと
解離性同一性障害の方と接するにあたり、交代人格は本人の防衛規制であるという理解が大切です。
防衛規制とは、耐えがたい不安や罪悪感などから自分を保護するための心の働きです。[3]
交代人格の存在意義については、以下のような考えを持ちましょう。
- 子どもの人格で自分を癒す必要があったんだ
- 攻撃的な人格で必死に闘っていたんだ
- 交代人格は本人を助けているんだ
交代人格の否定は本人なりの「生きるための工夫」を奪うことになり、大きなストレスを与えます。
治療が進むと交代人格に頼らず不安や葛藤を許容できるようになるため、「今は交代人格が本人を助けている」という理解が必要です。
解離性同一性障害の特性について知っておくのも大切ですね
解離性同一性障害の方と接するときの注意点
解離性同一性障害の方と接するときは、下記のことに注意しましょう。
ひとつずつ解説します。
否定しない
解離性同一性障害の症状を否定したり、疑ったりしないことが大切です。
心の病気を患っているときは、極端な考えに至る傾向があります。
たとえば、以下のような影響があらわれます。
・「みんな多重人格を嘘だと思っている」と周囲への不信感につながる
・「みんな自分の症状を甘えだと思っている」と周囲に相談できる機会を奪う
否定的な言葉は回復の妨げになります。「相手の症状は相手の課題」と理解し、必要以上に踏み込まないようにしましょう。
無視しない
交代人格の存在を無視しないようにしましょう。
多重人格の背景として、幼少期に複雑なトラウマを抱えているケースが多いようです。
交代人格を無視すると、必死に大人に助けを求めても相手にされなかった記憶を思い出させてしまいます。
その人格も本人の一部であることを忘れないようにましょう
別人格の出現に気づかないふりをしても、なにかのきっかけでストレスやトラウマは吹き出すため、病状の改善や問題の解決には至りません。[4]
すべての人格に全力で対応すると疲れてしまうため、メリハリをつけて接すると対応の負担も軽くなります。
根掘り葉掘り聞かない
別人格を問い詰めるような質問は避けましょう。以下、具体例です。
「何歳なの?」
「性格は?」
「名前は?」
本人が語っていないことまで掘り下げると、交代人格の形成が強化されます。
その結果、人格の深みが増して登場時間が長くなり、本人の不安や混乱が大きくなります。
多重人格と聞くと「もっと知りたい」と興味を持つ方もいるかもしれません。
しかし、詳細な質問は本人の同一性(自分が自分である感覚)に混乱を生むため、軽い気持ちで話題に出すのはやめましょう。
接し方に悩んだときは第三者に相談する
解離性同一性障害の方と関わる中で、攻撃的な人格により怖い思いをしたり、サポートする側が疲れてしまったりするかもしれません。
そのようなときは、医療機関などの第三者に相談しましょう。
- 本人、家族はどのような状況なのか
- どのような人格の対応に苦慮しているのか
- 日常生活にどのような支障が出ているのか
具体的に困っていることを相談することで、医師からより詳しいアドバイスをもらえます。相手が感じている苦労への理解が深まり、接し方のヒントが得られるでしょう。
対応が難しい場合には、入院治療も選択肢のひとつです。
環境の変化が軽快のきっかけになることもあります。
他にも「こころの相談窓口」に問い合わせる方法もあります。
こころの相談窓口とは、地域の保健所や保健センター、精神保健福祉センターによる相談受付です。
こころの専門医の意見も聞けるため、ひとりで抱えきれない悩みが軽くなるでしょう。
問い合わせ先はお住まいの市区町村役場のホームページで確認できます。
「困ったときは誰かに相談できる」という安心感や心の余裕は、本人の症状安定にもつながります。
対応にお困りの方やサポートに疲れが出てきた方は、ひとりで悩まず第三者に相談してくださいね。
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まとめ
解離性同一性障害の方への接し方では、安心できる環境作りや自己評価の低下を防ぐ対応を意識しましょう。
交代人格はストレスや葛藤を乗り切るための工夫であるという認識も大切です。
他の人格も話を聞いていると意識し、特定の人格を否定したり悪口を言ったりしないようにしてください。
興味本位での詮索は症状悪化につながるため避けましょう。
相手のサポートを優先しすぎると対応者の疲労感につながるため、困難を感じたときは医療機関や市町村の相談窓口に相談してください。
自分も相手も大切にしながら、無理のないようにサポートしていきましょう。
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参考文献
[1] TIPI-J 性格尺度による自傷傾向者の性格の検討|考察https://www.jstage.jst.go.jp/article/opa/68/0/68_31/_pdf/-char/ja
[2] 解離性障害のことがよくわかる本|講談社 柴山雅俊監修
[3] 防衛機制の概念と測定|1.防衛規制の概念
https://www.jstage.jst.go.jp/article/sjpr/42/3/42_261/_pdf/-char/ja
[4] 自我状態療法―多重人格のための精神療法 4.「蓋をする」治療では多重人格は治らないhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/73/1/73_62/_pdf/-char/ja
- この記事の執筆者
- とだ ゆず
メンタルヘルスの記事を中心に執筆する看護師・保健師ライター。 精神科勤務での患者さんとの関わりや自身のうつ病経験から「人の心についてもっと知りたい」と思い、上級心理カウンセラーの資格を取得。 エビデンスに基づいた読者の心に寄り添う記事を心がけている。