「何度注意しても同じミスを繰り返す」
「話が通じなくて疲れた」
「もしかして発達障害なのでは…」
部下や同僚とのコミュニケーションで、このようなイライラを抱えていませんか。
あなたの指導力不足を責めてしまうこともあるかもしれませんが、そう感じてしまうのは、あなたが相手と真剣に向き合っているからこそです。
この記事では、何度言っても伝わらない背景にある5つの原因と、3つの指示方法について解説します。
相手に伝わらない原因が脳の特性にあることを知り、お互いにストレスの少ないかかわり方を見つけるためのヒントになりますと幸いです。
おおかみこころのクリニックは新宿・秋葉原・横浜・大阪梅田・博多にある精神科です。職場の人間関係で悩んだとき「ちょっと相談してみようかな」とお気軽にお越しください。
この記事の内容
「何度言っても分からない」の背景にある発達障害の特性とは
発達障害の傾向がある大人に指示が伝わらないのは、おもに以下の5つの原因が考えられます。
これらは、本人のやる気や性格の問題だけでなく、脳の特性によるものです。
また、正式な診断がついていなくても、こうした特性をいくつか持っている「グレーゾーン」と呼ばれる状態の人も少なくありません。
診断の有無にかかわらず、これから紹介する原因と対策を知ることで、本人を理解するヒントが見つかるかもしれません。あてはまる特性がないかチェックしてみましょう。
大人の発達障害グレーゾーンについては、下記の記事でも詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
気が散って話に集中できない
ADHD(注意欠如・多動症)の特性のひとつに、本人にとって重要でない刺激も無意識に拾ってしまう傾向があります。[1]
そのため、以下のようなことが生じがちです。
- 周りの話し声や窓の外の景色、頭に浮かんだ考えなどに気が散って話の内容が頭に入らない
- 「提出前に見直して」と伝えられたときに、手元のスマホの通知が鳴り気が逸れて指示されたことを忘れる
表面的には話を聞いているように見えますが、本人の頭の中では別のものごとに意識が逸れている状態です。
その結果、話が伝わっておらず「何度言っても分からない」という状況が生じてしまいます。
一度に複数のことを覚えられない
脳には、覚えたことを一時的に記憶しておく「ワーキングメモリ」という作業机のような機能があります。
発達障害の傾向があると、ワーキングメモリがうまく働かず、一度に複数のものごとを覚えられないことがあります。[2]
そのため、新しい指示が来ると、直前に受けた指示が机から押し出されて落ちてしまうため忘れてしまうのです。
たとえば、「○社にメールをして、そのあと資料をコピーして会議室に置いておいて」と3つの指示を同時に伝えられると、メールを送る間に資料のコピーを忘れてしまうようなことが生じます。
これはやる気の問題ではなく、ワーキングメモリがいっぱいになり、情報が処理しきれなくなっている状態です。

頭の中がいっぱいになっちゃうんですね
時間の感覚や段取りがつかめない
ADHDの傾向がある人は、時間の見通しを持つことが苦手なケースがあります。[1]
作業にかかる時間の見積もりが甘くなったり、優先順位をつけることが苦手だったりします。
そのため「今やるべきこと」よりも「今目に入ったこと」を優先してしまう傾向があるでしょう。
たとえば、次のような困りごとが生じがちです。
- 「なるべく早めに」と伝えても、期限ギリギリまで手をつけない
- あまり大切ではない作業に何時間もこだわってしまい、期限に間に合わない
サボっているわけではなく「あとどれくらい時間があるか」「なにに時間を使うべきか」の計算がうまくできていない状態といえます。そのため、周りからは何度言っても分からないように見えてしまいます。
仕事ができないと思われやすい発達障害の特徴については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
あいまいな表現をうまく理解できない
ASD(自閉スペクトラム症)では、言葉を文字通りに受け取る特性があります。
そのため「いい感じで」「適当に」などの、状況や文脈によって意味が変わるあいまいな指示を理解するのが苦手です。[3]
あいまいな表現を理解しにくいことから、以下のようなすれ違いが起きる可能性があります。
- 「適当に整理しておいて」と頼んだら、本当に必要な書類まで捨ててしまう
- 「手が空いたら手伝って」と伝えると、仕事が完全に終わるまで手伝わない
融通が利かないのではなく、言葉の裏にある意図や文脈を読み取ることが難しいため、何度言っても分からないというすれ違いが起きてしまいます。
音は聞こえているのに言葉として届かない
何度言っても分からないのは、口頭での指示を理解しにくい聴覚情報処理障害(APD)という特性の可能性があります。
聴力検査では異常がないのに、雑音の中での会話や口頭での指示を聞き取るのが難しい状態のことです。[4]
聴覚情報処理障害の特性があると、次のようなすれ違いが起きることがあります。
- 騒がしいオフィスで指示を聞くと、何度も聞き返す
- 電話対応で分かったふりをして間違った対応をしてしまう
耳が悪いわけではなく、脳が聞いた音を「意味のある言葉」として変換する機能がうまく働かず、言葉として伝わりづらい状態です。
何度言っても分からない大人に伝わる3つの指示方法
何度言っても分からない大人に合わせた指示方法は以下の3つです。
相手の脳の特性に合わせた伝え方をしましょう。
具体的に伝える
あいまいな表現の苦手さと段取りの弱さをカバーするために、具体的かつ明確な言葉を選びましょう。
形容詞(早く・きれいに・なるべく)や指示語(あれ・これ・それ)を使わず、誰が聞いても同じ意味になる数字や固有名詞で伝えます。
たとえば、以下のように言い換えて伝えてみましょう。
| あいまいな指示(NG) | 具体的な指示や工夫(OK) |
| 「なるべく早くやって」 | 「今日の15:00までに提出して」 |
| 「時間のあるときにやって」 | 「急ぎではないけれど、今週中にやって」 |
| 「資料を作って」 | 「この資料作成は30分で切り上げて」 |
| 「これやっておいて」 | 「①準備②入力③確認」 手順リストを作成し、それを毎回同じリストで指示する |
このように伝えることで、「いつまでに」「なにを」「どの程度」すればよいかが明確になり、相手が動きやすくなります。
理解した内容を復唱してもらう
集中力が続かず聞いていないときの理解のズレを確認するため、復唱してもらうことが有効です。
一方的に指示を出して「分かりました」と返事をもらうだけでは、実際は理解していないことを見逃してしまいます。
たとえば、次のように伝えて、本人の口から説明してもらいましょう。
- 「まずなにから始めるか教えて」
- 「今伝えたことをあなたの言葉で説明してみて」
確認することで「実は聞いていなかった」「言葉の意味を取り違えていた」という誤解を修正できます。
ただし「間違っていても大丈夫だから確認させてね」と伝え、本人が安心して復唱できるようにしましょう。
本人が「間違ったことを言ったら怒られるかもしれない」と不安を感じていると、分かっていなくても「分かっています」と答えてしまう可能性があるためです。

やさしく確認しましょう
口頭だけでなく目で見える形で残す
ワーキングメモリの狭さと聴覚情報処理の弱さをカバーするために、視覚的な情報を活用します。
本人の記憶力に頼るのではなく、指示を見える形で残すようにしましょう。
たとえば、以下のような方法が挙げられます。
- 録音や音声入力でのメモを許可する
- 複雑な手順をマニュアル(図解)で見せる
- 口頭で伝えた後に必ずチャットやメールを送る
見える形で残すことで何度でも確認可能になるため、ミスを減らせます。
指示方法を工夫してもうまくいかないときの対処法
どんなに指示を工夫しても伝わらないとき、これ以上踏み込むのはお互いのためになりません。
以下のような考え方を取り入れて、あなたの負担を減らしましょう。
- 見守りながら距離を保つ:冷たく突き放すのではなく、必要なサポートをしたら後は相手に任せる。
- 責任を切り分ける:「相手をなんとかしたい」「改善してもらわなければ」と思いすぎず、「ここからは本人の責任」と心の中で線引きをする。
- よかれと思っても口出ししない:相手に独自のこだわりがあると、アドバイスが否定や批判だと受け取られ、パニックになることがあるため控える。
あなたのこころを守るためには、相手との間に適切な距離を保つことが必要です。
何度言っても分からない人に困ったときの相談先
現場の工夫だけで解決しないときは、ひとりで抱えこまずに専門家や第三者の力を借りることも考えてみてください。
たとえば、以下のような相談先があります。
- 上司・人事
- 「本人の特性に応じた配置転換」や「環境調整」が可能かを相談します。具体的なミスの記録とともに「聞き取りが苦手なので、電話対応のない部署の方が能力を発揮しやすい」と前向きな提案として伝えるとスムーズです。
- 産業医・保健師
- 対応に疲れたあなた自身の相談を行うことが可能です。守秘義務があり、医学的な視点からアドバイスを受けられます。
- 精神科・心療内科
- 気分の落ち込みや不安などが続くときに、薬物療法やカウンセリングを受けられます。
とくに、同僚や部下のフォローで疲れてしまい、動悸や不眠、気分の落ち込みなどが続くなら、迷わず医療機関に受診することも選択肢のひとつです。
専門家に話を聞いてもらうことで気持ちが楽になることがあります。
まとめ
何度言っても伝わらない原因は、本人のやる気やあなたの教え方の問題ではなく、脳の情報処理の特徴も関係している可能性があります。
これまで、言葉を変えたりマニュアルを作ったりと試行錯誤されてきたあなたの努力は、決してムダではありません。「自分のせいかもしれない」と責めず、まずは「今日までよく耐えてきた」とあなた自身をねぎらってください。
職場での対応に限界を感じたり心身の不調が続いたりするときは、ひとりで抱え込まずいつでも精神科や心療内科で相談しましょう。
おおかみこころのクリニックは新宿・秋葉原・横浜・大阪梅田・博多にある精神科です。通院の負担をできるだけ減らせるよう、利便性のよい立地で通院しやすさも大切にしています。
また、休日診療や22時までの夜間診療、オンライン診療を行っております。お気軽にご相談ください。
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【参考文献】
[1]中島美鈴,大人の注意欠如多動症の認知行動療法,総合病院精神医学, 2024, 36 巻, 3 号, p. 200-210
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjghp/36/3/36_200/_article/-char/ja
[2]湯澤 正通, ワーキングメモリの発達と児童生徒の学習:読み書き・算数障害への支援, 発達心理学研究, 2019, 30 巻, 4 号, p. 188-201,
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjdp/30/4/30_188/_article/-char/ja
[3]小渕 千絵, 聴覚情報処理障害(auditory processing disorders, APD)の評価と支援, 音声言語医学, 2015, 56 巻, 4 号, p. 301-307
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjlp/56/4/56_301/_article/-char/ja
[4]こころの耳(厚生労働省)「No.1 職域で問題となる大人の自閉症スペクトラム障害」
https://kokoro.mhlw.go.jp/mental-health-pro-topics/mh-pro-topics001
- この記事の執筆者
- 片桐 はじめ
公認心理師、臨床心理士として精神科病院・クリニックで精神疾患を抱える方のカウンセリングや心理検査に従事。臨床経験をもとに、身近な例からわかりやすく説明する文章を心がけています。









