解離性障害にはどんな症状があるの?
テレビや本で取り上げられるのは多重人格だね。それ以外にもさまざまな症状があるから一緒に確認していこう
解離性障害とは「自分」と「記憶や意識」が分離してしまう病気です。
解離性障害というと、多重人格のような劇的な症状を思い浮かべるかもしれません。
しかし、半数以上を占めるのはその他の症状で、本人は理解されない「不思議な体験」に不安を抱いています。
今回は、日常生活に及ぼす影響や解離性障害の方への対応についても解説するので、ぜひ最後まで目を通してください。
解離性障害の症状
解離性障害の症状には以下の5つがあげられます。
ひとつずつ解説していきます。
解離性同一性障害
解離性同一性障害は「多重人格」と呼ばれ、強いストレスにより別人格が形成されるものです。[1]
- 日常生活に適応する人格
- 子ども人格
- 身代わり人格
このような人格が現れます。
別人格が表に出ている間の記憶は欠落することがあり、性格の多面性とは明らかに異なります。
離人症
離人症とは、自分の精神や身体から遊離して傍観者であるような感覚を抱くものです。[2]
- 体から離れた場所で自分の姿を見る感覚
- 自分が世界からふわっと浮いている感覚
このような訴えがみられます。
自分が「存在者」と「眼差し」に分かれ、両者の間を行ったり来たりするのが特徴です。
解離性健忘
ストレスが強い記憶や過去の記憶を思い出せない状態です。
記憶の一部が抜け落ち、自分の中に空白が生じます。
- 買った覚えのないものが家にある
- 心当たりのないメールやLINEの送信履歴がある
- 自分や家族のことを忘れてしまう
解離性健忘のきっかけは、以下のようなものです。[3]
- 事件、事故、災害
- 失恋、離婚
- 借金、貧困
これらの強いストレスから心を守るために、記憶の一部を飛ばした状態が持続します。
自己防衛みたいな感じですね!
解離性遁走
突然遠く離れた場所へ行き、名前や職業などの重要事項を思い出せなくなります。
解離性健忘との違いは、本人に忘れている感覚がないことです。
解離性遁走の背景には、社会的な問題や仕事上のトラブルを抱え、窮地に追い込まれている状況があります。
遁走の期間は2-3日程度ですが、時には長期間に及びます。
解離性混迷
光や音などの外的刺激への反応が弱まり、自発的な運動や発語がなくなる状態です。
呼吸や筋肉の緊張は保たれているため、意識を失っているわけではありません。
周囲の人から見ると「話しかけても反応がなく、ぼーっとしている状態」に見えるでしょう。
解離性昏迷のきっかけは、大災害や暴力被害、大切な人の喪失など人によりさまざまです。
日常における解離症状の具体例
普段の生活ではどんな症状がみられるんだろう?
幻聴、転換性障害、体感異常、イマジナリーフレンドがあげられるよ。ひとつずつ見ていこう!
幻聴
誰もいないところから声が聞こえる現象を「幻聴」といいます。
解離性障害における幻聴の特徴は、意味のある短い言葉が聞こえることです。
- 「死ね」「邪魔だ」と自殺や自傷をそそのかす言葉
- 「外に出して」「一緒に行こう」と話しかけてくる言葉
子どもの泣き声やドアをノックする音などのノイズが聞こえることもあります。
解離性同一性障害(多重人格)では、頭の中で大勢が話し合う声がしたり、別人が話しかけてくる声が聞こえたりします。
転換性障害
強いストレスがきっかけとなり、身体の機能が失われることです。
以下のような症状がみられます。
- 全身が脱力し歩けなくなる
- 耳が聞こえなくなる
- 声が出なくなる
内科や整形外科などを受診しても問題なく、病院を転々とする場合もあります。
体感異常
感覚の異常を「体感異常」といいます。
以下のような訴えがみられます。
- 頭の中をかき混ぜられる感じ
- 身体に虫が這っている感じ
- 手がねじれている感じ
解離性障害における体感異常の特徴は、異様な「感じがする」という点です。
「身体に虫が這っている」と確信している場合は、統合失調症などの別の疾患を考えます。
イマジナリーフレンド
イマジナリーフレンドとは、想像上の友人です。
この「友人」は、本人をよく理解し孤独や不安を癒してくれる存在です。
幼稚園でいつも遊んでいた子が突然来なくなったため、先生や親に聞いたが「そんな子はいない」と言われた
解離性障害では、このような経験を持つ方がいます。
「友人」について話すと親に叱られたり、周囲に変な人だと思われたりすることで、体験を話さなくなる方も多くいます。
イマジナリーフレンドは、本人の成長とともに姿を見せなくなるのも特徴です。
おおかみこころのクリニックの先生も友達みたいに話し聞きますよ~♪
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解離性障害の原因
解離性障害の原因として以下のようなものがあげられます。
ひとつずつみていきましょう。
トラウマ体験
心に深い傷を受けた体験が発症の原因となります。
耐えられない苦痛を自分から切り離し、心を守ろうとするためです。
原因となる出来事は「家庭内外傷」と「家庭外外傷」に分けられます。
- 家庭内外傷
- ・虐待(身体的、心理的、性的)
・親の不仲、離婚
・家庭内の居場所の喪失
- 家庭外外傷
- ・いじめ
・交通事故
・レイプなどの性的外傷体験
つらい気持ちを切り離し健康な心を守ろうとした結果、自分の中に空白が生じます。
苦痛への対処
解離性障害の方は、苦痛に対して特徴的な対処法を取ります。
それは、辛い体験をしたときに「心を遠くに飛ばす」ことです。
例えば、虐待を受けているときに意識を飛ばし、遠くから自分を眺めるような感覚です。
周囲に助けてくれる人がいないと、このような方法で苦痛をやり過ごします。
その結果、心と身体が分離し解離性障害が発症します。
心のバリア機能みたいですね!
育った環境
成長過程に安心できる居場所がないことも、解離性障害の原因です。
いじめや交通事故などの外傷体験があっても、傷を癒す場所があれば解離性障害は発症しません。
しかし、自分を守ってくれるはずの親や家族に傷つけられたり放置されたりすると、幼い子どもは逃げ場を失ってしまいます。
その結果、受けた傷が癒やされず解離性障害の原因となるのです。
生まれ持った気質
「過剰同調性」という気質も解離性障害に影響します。
これは、常に相手に合わせようとする性格傾向です。
虐待やいじめを受けた方に顕著にみられ、背景には「嫌われたくない」「怒らせたくない」という気持ちがあります。
この性格傾向を持つ方には、行動、感情、思考が自分のものであるという実感がありません。
その結果、「同調する自分」と「本音の自分」に分離してしまうのです。
解離性障害の悪化を招くNG行動
解離性障害の回復に必要なのは、本人が安心感を得られることです。
そのためには、以下の注意事項に気をつけましょう。
本人がしてはいけないこと
解離性障害の方は自己の確立が不安定なため、他者の影響を受けないよう注意しましょう。
病状の悪化を防ぐため、以下のような事は避けてください。
- 解離性同一性障害(多重人格)に関する本やテレビを見る
- 宗教、オカルトの領域に触れる
- 入院中や通院中に解離の患者さん同士で親密になる
上記に注意して刺激から距離を置きましょう。
周囲がしてはいけないこと
周囲の方は人格の交代やトラウマに敏感に反応しないことが大切です。
周囲の反応を本人が察知し、安心して療養ができなくなるためです。
以下のようなことは避けてください。
- 解離に関する本やテレビを見て、解離の世界に入り込む
- 交代人格の性格や反応について詳細に記録し、敏感に反応する
- 交代人格を無視したり、気付かぬふりをしたりする
周囲の方はなるべくいつも通りに生活し、本人が安心して療養できる環境を整えましょう。
安心できる場所って大切ですね♪
【実例あり】解離性障害の回復までの道のり
解離性障害の治療は、カウンセリングと薬物療法を用います。
今回は、病状が回復したAさんの実例を交えて紹介します。
カウンセリングと薬物療法が中心
解離性障害の治療は、カウンセリングと薬物療法が中心です。
カウンセリングは、抱えている苦痛や葛藤を表現する場となります。
「現実は現実」「過去は過去」と区切り、自分なりの決意をもって治療に臨むことで症状の改善が後押しされます。
本人に不安や衝動性、対人関係や気配への敏感さが見られる場合には、薬物療法を併用します。
回復の実例 ~Aさんの場合~
以下は、大学生の頃から解離の症状があったAさんの例です。
「結婚後も解離の症状は続いたが、妊娠を希望し婦人科に相談。
医師に『妊娠を望むなら薬をやめなさい。いつまでもこんなことではいけない』と言われ目が覚めた。
その後、症状が落ち着き薬を止めることができた」
Aさんの例は、現実から逃げない覚悟や自分なりの目標が定まることで、回復が促された例と言えます。
まとめ
今回は、解離性障害として以下の5つの症状を解説しました。
- 離人症:現実感や自分が自分である感覚が乏しくなる
- 解離性健忘:記憶の一部が抜け落ちる
- 解離性遁走:突然遠くへ移動し、自分の名前や家族などの重要事項を忘れる
- 解離性混迷:外的刺激の反応が弱まり、自発的な言動がみられなくなる
解離性障害の方は、日常生活でも幻聴や体感異常などの症状に苦しめられています。
影響を受けやすいため、解離性障害に関する情報を集めすぎたり、オカルトや宗教などの領域に触れないようにしましょう。
周囲の方は本人が安心できる環境を整え、治療に専念できるようにしてください。
焦らずマイペースに、自分を包み込むような気持ちで治療に取り組みましょう。
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参考文献
[2]現実世界からの逃走―離人症状の分類と回避傾向の関連についてhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/15/3/15_3_362/_pdf
[3]解離性健忘の神経基盤
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/31/3/31_319/_pdf
- この記事の執筆者
- とだ ゆず
メンタルヘルスの記事を中心に執筆する看護師・保健師ライター。 精神科勤務での患者さんとの関わりや自身のうつ病経験から「人の心についてもっと知りたい」と思い、上級心理カウンセラーの資格を取得。 エビデンスに基づいた読者の心に寄り添う記事を心がけている。