自分が自分じゃない感覚や、現実感がなくてふわふわした感覚があるんです
それは『離人症』の症状かもしれないね!
現実世界で生きている感覚が乏しくなる「離人症」。
自分の症状に苦痛を感じていても、言葉で説明しづらかったり周囲に理解されなかったりして、1人で抱え込む傾向のある病気です。
今回は、離人症の概要や具体的症状、悪化するとどうなるのかについて解説します。
記事の最後では受診の目安についても解説しているため、自分の状態について理解を深める参考にしてください。
自分が自分じゃない感覚=離人症とは
離人症は解離性障害の一種で、自分が自分じゃない感覚や夢の中にいるような非現実的な感覚にとらわれるものです。
- 現実世界で生活している感じがしない
- 非常にリアルな夢を見て現実との区別がつかない
本人からは上記のような訴えが聞かれます。
離人症は「離人感」と「現実感消失」に分けて考えられます。
離人感
自分の心と体が離れ、何かに動かされているような感覚です。
離人感を持つ方は以下のような感覚を持っています。
- 離れた場所から自分を見ている感覚
- 自分が幽霊になった感覚
健康な人もストレスや疲労が重なると、一過性の離人感を経験するといわれています。
すぐに症状がおさまり日常生活への影響がなければ、治療の必要はありません。
離人感が長期間持続したり、反復したりして生活に支障をきたすようになると、離人症として治療の対象となります。
長かったり、何回も繰り返すと自分もツライですね💦
現実感消失
現実感消失は、自分が現実から切り離されたように感じる状態です。
夢の中にいるようだったり、自分と現実の間にガラスや薄い膜があるように感じたりします。
以下のように、感覚の変化を自覚する場合もあります。
- 世界から色彩や生命力が失われたように感じる
- 物がぼやけて(または異様に明瞭に)見える
- 音が実際よりも大きく(または小さく)聞こえる
上記は本人に強い苦痛をもたらし、抑うつや不安の原因となります。
本人も自分の症状をうまく説明できず、「自分がおかしくなってしまったのではないか」と抱え込んでしまうケースもあります。
下記の記事では、離人症のセルフチェックについて解説しています。気になる方はご覧ください。
【症例あり】離人症の具体的症状
離人症の具体的な症状として以下の3つを解説します。
「生と死」では、Bさんの症例を紹介します。
離人症の症状をイメージする一助としてください。
現実と夢
離人症の方は日常生活での現実感に欠ける一方で、非常にリアルな夢を見ます。
そのため、「現実で起きたこと」か「夢で見たこと」かわからなくなるときがあります。
たとえば「自分が襲われるリアルな夢を見て、日常生活も怖くなる」というようなケースです。
非現実的な出来事でも夢だと確信が持てないため、日常生活の生きづらさにつながります。
過去と現在
時間の感覚がおかしくなる方もいます。
過去と現在が重なっている感じがして、今がいつなのかわからなくなってしまいます。
例として以下の体験をみてみましょう。
「時間がバラバラになって前に進んでいかない。
つながりのない無数の『今』が今、今、今、今と無茶苦茶に出てくるだけ」[1]
このように、離人症では健康な人が当たり前に捉えている「過去」「現在」「未来」という感覚が障害されてしまうのです。
物事に連続性がなくなったり、記憶が抜けてしまったりするため大きな苦痛を伴います。
ひゃ~!ツラいときは、早めに先生に相談しましょうね💦
生と死
「生きている感覚がない」という訴えもみられます。
自分が幽霊になったように感じる方もいれば、ロボットのようなモノになったと感じている方もいます。
「自分と他人は違う生き物」と感じてしまい、現実世界で生きている実感を持てません。
以下では、生と死の感覚に違和感を抱くBさんの例を紹介します。
Bさん(26歳 女性)
海外旅行中にレイプされ、妊娠・中絶した。
それ以来、意識が飛んだような感覚になり、体から魂が抜けたようで生きている実感が持てなくなる。
「死んでいる自分の姿がぼんやり見える」
「私は死んでいる」
と涙ながらに訴えることがある。
このように自分の存在自体が危うくなるため、大きな精神的苦痛を感じます。
自分が自分じゃない感覚が生じる原因
自分が自分じゃない感覚が生じる原因には以下の3点があげられます。
ひとつずつ解説します。
ストレス
自分が自分じゃない感覚が生じる原因として、ストレスがあげられます。
ストレスを感じると「落ち込み」「イライラ」などの反応が出るように、強いストレスを受けると「離人感」も現れるのです。
たとえば、事故を起こしたときに焦る自分と、他人事のようにみている自分がいるような感覚です。
離人感が出ているときは「強いストレスがかかっている」という心のサインとして受け取りましょう。
心の病気の原因はストレスが関係しているものが多くあります。
トラウマ体験
離人症と診断されている方では、多くの場合で以下のようなトラウマ体験が影響しています。
- 幼少期に虐待を受けた(身体的・心理的・精神的)
- 親しい人(家族やパートナー、友人など)が突然亡くなった
- いじめ、レイプの被害を受けた
上記のような衝撃的な体験を受け止めるのは難しいことです。
そのため、自分を守る反応として心と身体を切り離し、離人感が生じます。
他疾患の影響
自分が自分じゃない感覚は、離人症以外の疾患が原因の場合もあります。
例として以下のようなケースがあります。
- 知的障害や境界知能
- 発達障害
上記は、ストレスを言葉にして消化するのが苦手な特性を持つ病気です。
また、普段と状況が違うとパニックになるなど、ストレスへの敏感さも持ち合わせています。
このように「ストレス対処スキルの低さ」と「ストレスへ過敏性」が合わさり、離人症が出やすい傾向があります。
【悪化したらどうなる?】日常生活への影響
自分が自分じゃない感覚や現実感が乏しい感覚が悪化すると、日常生活に以下のような影響を及ぼします。
ひとつずつ解説します。
無気力になる
生きている実感がなくなると、周囲の出来事に無関心、無感動になります。
趣味や好き嫌いもなくなり、誰かに体を動かされているようで、何に対する意欲も湧かなくなってしまうのです。
この状況に苦痛を感じて精神科を受診しても、自分の症状についてうまく説明できず「うつ病」と誤診されるケースもあります。
周囲と話がかみ合わなくなる
離人症の状態が進み「夢と現実」や「過去と現在」が混ざりあってくると、周囲と話がかみ合わなくなります。
- 現実の出来事だと思ったのに、夢の話で周囲に伝わらない
- 話の時系列がバラバラで、会話に混乱が生じる
このような事態が生じるためです。
その結果、対人関係に不安を抱くようになったり周囲に距離を置かれたりして、孤立しやすい傾向があります。
自傷行為をする
離人症が悪化すると、自傷行為につながるおそれがあります。
痛みの感覚や生きている実感がなくなるため、確認行為として自傷行為に及ぶのです。
以下は、自傷行為をするCさんの例です。
Cさん(30歳 女性)
持続する離人感に悩み、精神科に通院中。
冷静な自分がいなくなると、世界がぼんやりとして怖くなるため手首を切る。
世界がくっきりとして安心するため、何度も繰り返してしまう。
診察時に自傷行為に注目すると、うつ病と誤診されてしまうことがあります。
自分の症状を正確に医師に伝えることが、適切な治療につながります。
詳しい伝え方に関しては、こちらの記事を参考にしてください。
病院を受診する目安
病院を受診する目安として、以下の2点をポイントにしましょう。
ひとつずつみていきましょう。
反復性、持続性
離人感が何度も繰り返したり長期にわたって続いたりしている方は、精神科を受診しましょう。
一過性の離人感は多くの方が経験するため、問題にはなりません。
しかし、長期間持続したり何度も反復したりするときは医療機関の受診が必要です。
目安として「〇日以上続いたら」「〇回以上反復したら」という規定はありません。
離人感が身近なものとなり、その存在に恐怖を感じるようになったときは当院にお気軽にご相談ください。
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日常生活への影響
離人感が一過性のものではなく、日常生活への影響が大きい場合はすぐに治療が必要です。
自分が自分じゃない感覚や現実感の乏しさにより、以下のような影響が出ている場合は注意しましょう。
- 無気力になり仕事や学業が手につかない
- 対人関係がうまくいかず、人と関わるのが怖い
- 自傷行為や多量の飲酒、性的逸脱により生きている実感を取り戻している
このような場合は、放置するとより深刻な状態に向かう可能性があります。
離人感は周囲に理解されにくいため、1人で抱え込んでしまう傾向があります。
しかし、当院ではあなたのどんな経験や感じ方も否定したり疑ったりしません。
「こんなこと話して大丈夫?」ということでも、気軽な気持ちで話してみてくださいね。
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まとめ
自分が自分じゃない感覚に陥る離人症。
状態が悪化すると、無気力や対人不安、自傷行為につながり危険です。
一過性の離人感は大きな問題ではありませんが、反復したり持続したりする場合は医療機関を受診しましょう。
離人症の症状は言葉にしづらかったり、他人に理解されづらい病気です。話すのが怖い気持ちがあるかもしれませんが、当院にお気軽にご相談ください。
話したいことがまとまっていなくても、自分の症状がよくわかっていなくても大丈夫です。
あなたが生き生きとした日常を取り戻す方法を一緒に考えていきましょう。
24時間予約受付中
参考文献
[1]精神病理学的時間と物理学的時間の比較を通じた考察|3.精神病理学的な時間概念の検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbfsa/13/2/13_KJ00007628558/_pdf
- この記事の執筆者
- とだ ゆず
メンタルヘルスの記事を中心に執筆する看護師・保健師ライター。 精神科勤務での患者さんとの関わりや自身のうつ病経験から「人の心についてもっと知りたい」と思い、上級心理カウンセラーの資格を取得。 エビデンスに基づいた読者の心に寄り添う記事を心がけている。