自分の行動や考えに現実味を感じられなくなる離人症。
今のところ有効な治療法は確立されていません。
しかし「治らないんだ」と諦めないでください。
離人症の特効薬はないものの、適切な治療を受ければ少しずつ改善していきます。
今回は、離人症の治療に役立つ方法や自分でできることについて解説します。
自分と向き合いコツコツと治療に取り組めば、今よりもしなやかな心と「楽に生きられる」という実感を手に入れられるはずです。
あきらめずに一緒に治療していきましょう。
下記の記事では離人症のセルフチェックを解説しています。「ちょっと気になるな」と思う方はご覧ください。
離人症の治し方
離人症の治療に効果的とされているのは以下の3つです。
ひとつずつ解説します
下記の記事では、離人症の具体的な症状について紹介しています。気になる方は合わせてご覧ください。
ストレスマネジメント
離人症の状態を落ち着かせるためには、ストレスマネジメントが必要です。
離人症は、過度のストレスから自分を守るために心と体を切り離している状態です。
症状が現れたときは「心が疲れているサイン」と受け止め、積極的に心を休ませましょう。
以下の方法を参考にしてください。
- ストレスから距離を置く
- 運動してストレス解消ホルモンの分泌を促す
- 漸進的筋弛緩法でリラックス状態を作り出す
漸進的筋弛緩法とは、筋肉の緊張と緩和を利用し意図的にリラックス状態を作る方法です。
「手を握って開く」「力こぶを作って緩める」「肩をすぼめて下ろす」と身体の緊張と緩和を繰り返し、じわっとした余韻を感じましょう。[1]
繰り返すことで自分の緊張状態に気づけるようになり「身体をコントロールできる」という自信につながります。
心のお守りを作るような気持ちで、自分に合ったストレスマネジメントを取り入れましょう。
心にお守りを作ると少し安心できますね!
カウンセリング
カウンセリングも回復の助けとなります。
これまで話してこなかったトラウマや信じてもらえなかった体験を治療者に伝え、ありのままを受け止めてもらう安心感は回復への大きな一歩となります。
カウンセリングで「生と死」「現実と夢」「過去と現在」などを区切ることは、現実の世界に足をつける手がかりとなります。
薬物療法
うつ状態や不安症に伴う離人感は、薬物療法による改善が期待できます。
特に「リアルな夢を見て現実と区別がつかない」「悪夢により日常生活でも恐怖を感じる」などの症状には、抗うつ薬や抗不安薬が有効とされています。
自分が離人症のどんな症状に苦しんでいるのかを医師に伝え、薬との相性を見ながら治療を進めていきましょう。
離人症を周囲の人にうまく伝える方法
病状を安定させるためには、自分の状態を言葉にする必要があります。
今回は「医師」と「周囲の人」の2パターンに分けて解説します。
医師
自分の症状を医師に伝えるときは、まず「今いちばん困っていること」を伝えましょう。
以下の例を参考にしてください。
「ときどき、夢と現実が混ざってしまいます。変なことを言ってしまいそうで、友人との会話でビクビク、オドオドしてしまうのがいちばんの苦痛です」
いちばん困っていること(主訴)が改善されないと苦痛は解消されず、医師との信頼関係や治療のモチベーションに悪影響を及ぼします。
診察時に何を話せばよいかわからない方は「自分が一番困っていることは何だろう?」と考えてみてください。
また、インターネットや本を見て「もしかしたらこの病気かもしれない」と自分なりの予測を持つこともあるでしょう。
そのようなときは、以下のように伝えてみましょう。
「離人症の『現実感がない』『夢と現実が入り交ざる』という症状がある一方で、うつ病の『無気力』『わけもなく涙が出る』という症状もあります。離人症やうつ病かもしれないと心配しています」
診察室という非日常空間で緊張しそうな方は、症状や伝えたいこと、聞きたいことを事前にメモしておきましょう。
伝えるのが苦手な方は、受付の方や先生にメモのまま渡しても大丈夫ですよ!
周囲の人
離人症の症状安定のためには、家族や身近な人に症状を理解してもらいましょう。
周囲に理解してもらうことで、責められたり詮索されたりする状況を避けられます。
ただ、周囲の人は離人症の感覚を理解できない場合もあるため「症状により何に困っているのか」を伝えるとよいでしょう。
以下の例を参考にしてください。
「実は、ときどき夢か現実かわからなくなることがあるの。自分でも『これを話しても大丈夫?』と心配になるくらい困っているんだ。もし私が変なことを言っても、怒ったり笑ったりしないでくれる?」
このように伝えておくことで、周囲の人も本人の言動を理解しやすくなりお互いのストレスの軽減につながります。
【NG要素】離人症を悪化させる要因
ストレスと抑うつ状態の悪化により、離人症の症状はあらわれやすくなります。[2][3]
以下で詳しく解説していきます。
ストレス
離人症は、ストレスから心を守るための防衛反応としてあらわれます。
そのため、ストレス源となる人、物、出来事から距離を置いたり、睡眠や休息を十分にとったりしましょう。
刺激が多い環境では、ストレスを敏感に感じ症状が悪化するおそれがあります。
状況によっては上司や先生に相談し、環境調整が必要です。
一緒にあなたに合った環境を探していきましょう
「どんなふうに相談したらよいかわからない」という方は、お気軽に当院にご相談ください。
あなたにとって心地よい環境を整える方法を一緒に考えていきましょう。
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抑うつ状態の悪化
「意欲の低下」「気分の落ち込み」などの抑うつ状態の悪化に伴い、離人症の症状も現れやすくなります。
抑うつ状態になると脳内のエネルギーが少なくなるため「何をしても現実感がない」という離人症の症状が顕著になるのです。
「離人症」と「抑うつ状態」が影響し合う悪循環を防ぐため、早めに医療機関を受診しましょう。
離人症を治すために自分でできること
離人症を治すためには「自分で治そう」という意識も必要です。
「治してもらおう」という気持ちでは、治療の効果はなかなか現れません。
日々の生活のなかで、以下のことを意識してみてください。
ひとつずつ解説します。
自分の症状を理解する
離人症の状態を安定させるためには、自分の症状理解が大切です。
- どんなときに離人感が出やすいのか(例:苦手な人と話すとき)
- そのときにどんな反応がでるのか(例:自分で話している感覚がなくなる)
- どんなことを考えているのか(例:思ってもいない口約束をするのではないか)
- どんな気持ちになるのか(例:怖くなる、みじめな気持ちになる)
このように、症状と心身の反応を理解しておきましょう。
自己理解が深まることで、離人症の得体のしれない恐怖感が少しずつ軽減されていきます。
考えるとつらくなってしまう方は、無理せず休息を優先してください。
負担にならない範囲で症状理解に取り組んでみてくださいね。
無理はダメですよ💦
ストレス対処法を身につける
自分に合ったストレス解消方法でストレスを積極的に逃がし、症状改善を目指しましょう。
診察やカウンセリングで学んだストレス対処法も、自宅でコツコツと練習していくことが大切です。
少しずつ練習を重ねることで、ストレスに直面したときに効果を実感したり、ストレスを跳ね返す心のしなやかさが身についたりします。
生活に無理なく取り入れられる方法を見つけ、少しずつ身につけていきましょう。
下記の記事では、自分で簡単にできる認知行動療法の方法を紹介しています。気になる方はご覧ください。
グラウンディングを実践する
現実感を取り戻すためには、グラウンディングという方法も有効です。
グラウンディングとは、触覚や聴覚などの五感を使って自分の体が「いま、ここ」にあると実感するものです。
例として、足裏の感覚を利用する方法を解説します。
足つぼを刺激するマットを踏み、身体の感覚に注目します。
マットに乗っているときに何も感じない方は、降りてから身体の内部の感覚を探ってみましょう。
じわっと心地よい感覚や血が巡る感覚を感じ「生きている身体」「今、ここにいる感覚」を感じられるようになります。[2]
このように、グラウンディングを繰り返すことで「生きている感覚」を取り戻す突破口となる可能性が期待できます。
離人症から回復して良くなった症例
ここまで読んでくださった方の中には「離人症って本当に治るの?」と不安に思っている方もいるかもしれません。
離人症をはじめとした解離性障害は、治療を投げ出さずカウンセリングや薬物療法を継続すれば治る病気です。
ここで、離人症からの回復の例を見てみましょう。
Cさん(28歳、女性)
中学に入って不登校になり、父親との関係が悪化。
父親は同時期に急死している。
父親の死をきっかけに生活に現実感を感じられなくなり、生きている感覚を取り戻すために自傷や多量の飲酒を繰り返すようになった。
薬物療法をしながらカウンセリングで過去に区切りをつけたり、ストレスマネジメントを学んだりして少しずつ症状が落ち着き、自分がどこにいて何をしているのかわかるようになってきた。
今はまだひとりで外出できないが、家事もできるようになってきている。
このように、離人症は少しずつ状態が落ち着いていきます。
劇的な変化を期待せず、自分のペースでゆっくりと治療に取り組んでいくことが大切です。
焦らず、無理せず、自分のペースを大切にしましょう
まとめ
離人症には特効薬がなく、有効な治療法も確立されていないため治療が難しいとされています。
しかし、カウンセリングや薬物治療を継続することで、少しずつ症状が改善されていきます。
治療にあたり大切なのは、「治してもらおう」という意識ではなく「自分で治そう」という意識を持つことです。
離人症からの回復には時間がかかりますが、時間をかけて身につけたストレス対処法や自己理解は、その後の人生にも大いに役立つはずです。
回復をあきらめず、マイペースに治療に取り組んでいきましょう。
おおかみこころのクリニックでは、あなたが生き生きと毎日を過ごせるようお手伝いさせていただきます。
ぜひお気軽にご相談ください。
24時間予約受付中
参考文献
[1]漸進的筋弛緩法|障害者職業総合センターhttps://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/h3iskd000000257r-att/rirakusiryou7-2.pdf
[2]現実世界からの逃走|問題と目的
https://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/15/3/15_3_362/_pdf
[3]不安障害の過去・現在・未来|解離性障害https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/47/9/47_KJ00009649416/_pdf/-char/ja
[4]複雑性PTSDの心理療法における身体|6.足裏感覚から青竹踏みへhttps://www.tiu.ac.jp/about/research_promotion/ronsou/pdf/8_humanities_2.pdf
- この記事の執筆者
- とだ ゆず
メンタルヘルスの記事を中心に執筆する看護師・保健師ライター。 精神科勤務での患者さんとの関わりや自身のうつ病経験から「人の心についてもっと知りたい」と思い、上級心理カウンセラーの資格を取得。 エビデンスに基づいた読者の心に寄り添う記事を心がけている。