「授業についていけてない……」
「クラスに馴染めていない気がする……」
中学生の子どもが上記のようなことで悩んでいたり、まわりと違うと感じたりすることがあるかもしれません。
中学生になると社会性が身につき始め、徐々に人間関係の構築や他人とのコミュニケーションが上手になります。しかし中には、発達障害を持っていることで、周りと同じような振る舞いができない子どももいるでしょう。
発達障害とは、生まれつき知能や社会性に関係する脳機能の発達が遅れる障害です。中学生では交友関係が広がり、他人との人間関係や学業において、周囲との違いや知能の遅れが目立ってくる時期でもあります。「私たちの関わり方の問題なのでは?」と不安になるかもしれませんが、決して「親の育て方の問題」ではありません。
この記事では、中学生で見られやすい発達障害や中学生の進路や就職について解説しています。中学生のうちに発達障害の診断を受けられれば、早めに進学や就職への対策が考えられるでしょう。
この記事の内容
中学生で見られるおもな発達障害|チェックリスト付き
中学生で見られやすいとされる発達障害は、おもに以下の3つがあります。
【発達障害の種類と特徴】[1]
発達障害の種類 | 特徴 |
自閉症スペクトラム(ASD) | ・人とのコミュニケーションが苦手 ・興味の幅が狭い ・こだわりが強い |
注意欠陥・多動症(ADHD) | ・忘れ物が多い ・じっとしていられない ・集中できない |
学習障害(LD) | ・「読む」「書く」などの特定の能力が低い |
発達障害を持つ中学生は、「学校で人と上手く喋れない」「授業に集中できない」などといった特徴が見られます。ほかにも、読み書きなどの能力が低いことで、授業についていけず苦労するかもしれません。
発達障害は中学校の間だけの問題ではありません。高校進学後や社会に出てからも苦労することもあるでしょう。早めに診断を受けることで、発達障害と上手に付き合いながら生活を送ることができます。
この章では、中学生の発達障害の判断に役立つチェックリストを紹介します。自分の子どもが発達障害の傾向があるのかを確認してみましょう。
なお、チェックリストはあくまでも目安であり、診断を下せるものではありません。当てはまる項目が多い場合は、精神科や専門機関で検査を受けましょう。
チェックリストは受診するきっかけぐらいに考えましょう。
自閉症スペクトラム(ASD)
自閉症スペクトラム(以下ASD)を持つ中学生は、自分の興味があること以外に目が向きにくく、こだわりが強い傾向があります。変化を嫌うため、自分の好きなことや慣れたこと以外になかなか手をつけられません。また、他人とのコミュニケーションが苦手で、友達との関係をうまく築けないこともあるでしょう。
ASDを持つ中学生には、以下のような特徴が見られます。[1][2]
▢ 極端に得意な科目と不得意な科目がある
▢ 友達の感情が理解できないときがある
▢ 人の気持ちを配慮しない言葉を使う
▢ 部活動や学校行事で人と協力できない
▢ 特定のものに執着する
▢ 独特の日課や手順がある
▢ 特定の知識にとても詳しい
▢ 物事を計画的に進めるのが苦手である
▢ 一人で遊ぶことが多い
▢ 自分の気持ちをコントロールしにくい
▢ 自分一人で決断するのが苦手である
ASDの子どもは、自分がなぜ人と上手く話せず友達ができないのか、理解できずにストレスを抱えることがあります。また、特定のことに強い興味を持つため、得意科目と苦手科目が極端にあらわれるのも特徴的です。
注意欠如・多動症(ADHD)
注意欠如・多動症(以下ADHD)を持つ中学生は集中力が続かず、勉強や集団での生活に支障が出ます。
ADHDを持つ中学生には、以下のような特徴が見られます。[1][2]
▢ テストや宿題のケアレスミスが多い
▢ 授業や自主学習に集中できない
▢ 勉強中常にそわそわしている
▢ 先生や指導者の指示を正しく聞けない
▢ 忘れ物や失くしものが多い
▢ 人の言葉に被せて喋ってしまう
▢ 注意力が散漫である
▢ 突発的な行動が見られる
▢ 順番を待つのが苦手である
ADHDは、落ち着きがなく集団生活になじむのを苦手とする発達障害です。相手の話や授業に集中できないことから、社会活動や学業に影響をきたす場面が多くなります。
学習障害(LD)
学習障害(以下LD)を持つ中学生は、知能の発達には問題がないものの、「読む」「書く」「計算する」「聞く」「話す」「推論する」など特定の能力が伸びにくい特徴があります。読み書きや会話能力の発達が遅れることで、コミュニケーションや成績に影響することもあるでしょう。
LDを持つ中学生には、以下のような特徴が見られます。[1][2]
▢ 授業中の聞き間違いや聞き漏らしが多い
▢ 話を理解するのが難しい
▢ 話し方がたどたどしく伝わりにくい
▢ とても早口で喋ってしまう
▢ 文章は読めるが頭に入りにくい
▢ 文章の要点を捉えるのが苦手
▢ 文法の間違いが目立つ
▢ 漢字を使わずに文章を書く
▢ 簡単な暗算が素早くできない
▢ 図形の違いや共通点を理解できない
全体的な授業内容は理解できるものの、表出や頭にインプットするのが難しく、成績が伸びにくい傾向にあります。成績はよくても会話が苦手で、面接や実技試験で苦労するなど、苦手な分野は人それぞれです。
LDの特徴は、ASDやADHDと似ている部分もあります。それぞれのチェックリストを参考にしたうえで、どの発達障害の傾向が強いのかをみてみましょう。
中学生の発達障害とグレーゾーンの特徴
発達障害の診断を受けるうえで「グレーゾーン」といわれる方もいます。
グレーゾーンとは、発達障害の特性が一部見られるものの、診断基準を満たさない方を指します。確定診断が受けられないため表向きには「問題がない」と判断されることもありますが、一部の特性によって「生きづらさ」を感じてしまうことも。
グレーゾーンといわれても、本人の特性や苦手なことを理解し、すごしやすく工夫することはできます。少しでも日常生活や学校生活を楽しく過ごせるよう支えてあげましょう。
子どもとの関わり方に悩んでいるなら、発達障害をあつかう医療機関や児童発達支援センターなどに相談してみよう。
発達障害の疑いがある中学生は診断を受けるべきか
「うちの子、発達障害かもしれない」と思ったら、早めに診断を受けることが大切です。早くに正しい診断を受けることで、学校や地域からのサポートを受けられるようになるからです。
文部科学省は、中学校をはじめとする教育機関に対し、障害を持つ生徒へ配慮した教育体制の整備を呼びかけています。[3]これにより、発達障害のある生徒の特性に合わせた学習環境や、人間関係に関するサポートを受けることが可能です。
各自治体にある「児童発達支援センター」や「発達障害者支援センター」などの相談窓口を利用するのもよいでしょう。まずは、担任の先生に話をしてみて、学校生活での様子を聞いてみるのもよいですね。教育や福祉、将来の仕事についての不安などを相談できるため、ぜひ活用して悩みの解決へお役立てください。
また、発達障害の診断を受けた方は「精神障害者保健福祉手帳」を取得できる場合があります。[4]精神障害者保健福祉手帳を所持すると、医療費や公共料金の割引、就労支援などのサービスを受けることが可能です。事前に持っておくことで、将来自立して生活する際に役立つこともあるでしょう。
役立つ制度があることを頭の片隅に入れておくと、必要になった時に活用しやすいですね!
中学生の発達障害を見つけるための診断テスト
中学生の発達障害を見分けるテストは複数あります。全般的な知能を見る検査や発達障害ごとのテストを受けることで、子どもの持つ特性や発達障害の傾向があるかを調べられるでしょう。
発達障害の診断に用いられるテストの一例を、以下にまとめました。
- 自閉症スペクトラム指数:AQ(ASDの検査)
- ADHD-RS(ADHDの評価テスト)
- 新版K式発達検査(発達状態の評価)
- WISC-Ⅳ(全般的な知能発達の検査)
これらのテストは、専門の医療機関や児童発達支援センターなどで受けられます。
ほかの心理検査(発達検査・知能検査・人格検査など)について気になる方は、こちらの記事もお読みください。
発達障害を持つ中学生の進路の決め方
中学生は、将来の夢や進路を決める大事な時期です。担任の先生や児童発達支援センターといった窓口に相談しつつ、子どもに合った今後の進路についてよく話し合いましょう。
この章では、発達障害を持つ中学生の進学や就職について、役立つ制度などを交えて解説します。
高校への進学について
発達障害を抱えていても、一般的な全日制の高校に通う子どももいます。受験では、障害をもつ生徒のために、別室で試験を実施したり問題文を読み上げたりしている高校もあります。高校生活に不安がある方は、担任の先生と相談してみましょう。
また、部分的に支援が必要な生徒をサポートする「通級制度」のある高校や、定時制・通信制の高校を選択すれば、特性に合った環境での学習が可能です。
子どもが「どこの高校に行きたいのか」も大切です。
高校卒業後の進路について
発達障害のある子どもも、大学や専門学校などへ進学できます。障害のある学生に対して支援してくれる大学や専門学校もあり、発達障害者をもつ在学生の数も増えてきています。
受け入れ支援の具体例としては「試験の時間を通常よりも長くする」「課題の提出期限を延長する」などです。教員への発達障害支援に関する研修や就労支援も行われているため、安心して就学できるでしょう。[6]
就職について
発達障害のある方も就職できます。ただし、障害があることで就職活動や就職後の業務に苦労することもあります。その際には、国が用意している就職支援サービスを利用することで、発達障害の特性に合った職場へ就職することも可能です。[7]
たとえば、地域障害支援センターの「就職支援・相談窓口」を利用すれば、自分が抱える特性に合う職場や働き方を見つけられます。また、ハローワークでは「障害者トライアル雇用」制度を用意しており、一定期間お試しで働くことも可能です。
このほかにも、就労のための訓練や支援を受けられる「就労移行支援制度」などがあり、発達障害者の就職をサポートしてくれます。
まとめ
中学生は社会性や学力の差が見られ始めるため、発達障害の兆候を確認しやすい時期といわれています。「もしかして発達障害かも?」と感じたら、専門の医療機関や各自治体の児童発達支援センターなどへ相談してみましょう。
発達障害の特性は周囲から理解されにくいため、診断を受けサポート体制ととのえることが大切です。学校やさまざまな機関と相談しながら、子どもが生活しやすいよう最適な方法を見つけましょう。
ひとりで悩まずに、専門機関に相談してみましょう。お子さん自身だけでなく家族をささえることも専門機関は大切にしています。
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【参考文献】
[1]厚生労働省/発達障害の理解
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000633453.pdf
[2]文部科学省/通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する 調査結果について
https://www.mext.go.jp/content/20230524-mext-tokubetu01-000026255_01.pdf
[3]文部科学省/発達障害を含む障害のある幼児児童生徒に対する教育支援体制整備ガイドライン
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/13/1383809_1.pdf
[4]厚生労働省/精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4615&dataType=1&pageNo=1
[5]厚生労働省/精神障害者保健福祉手帳実施要領について
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000617852.pdf
[6]独立行政法人日本学生支援機構/令和4年度 大学、短期大学および高等専門学校における障害のあるがk末井の就学支援に関する実態調査結果報告書
https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_shogai_syugaku/__icsFiles/afieldfile/2023/09/13/2022_houkoku3.pdf
[7]厚生労働省/障害者の方への施策
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shisaku/shougaisha/index.html
- この記事の編集者
- Yusa
大学病院にて約10年間病棟看護師として勤務。耳鼻科(周手術期管理)、腎臓外科(腎移植)、循環器小児科、脳神経外科・SCUの現場で培った経験と知識を活かし、現在は看護師ライターとして活動中。