「なぜか急に涙が止まらなくなる…」
「ささいなことでカッとして後悔してしまう…」
激しい感情の波にとまどって、つらい思いをしていませんか。
まるであなた自身の感情ではないかのようにコントロールできず「何か問題があるのでは」と、あなた自身を責めてしまうかもしれません。
感情のコントロールに苦しむ背景には、あなたの意志の弱さではなく脳の働きや思考のクセが隠れていることがあります。
この記事では、感情のコントロールができない原因や具体的な対処法を解説します。
この記事を通して、自分を責めてしまう苦しさから抜け出し、明日から試せる対処方法を見つけていきましょう。
この記事の内容
感情のコントロールができない3つの原因
感情のコントロールがうまくいかないのは、甘えや根気の問題とは限りません。
感情のコントロールができない原因として、以下の3つが挙げられます。
3つの原因について詳しく解説します。
睡眠不足
睡眠不足は、脳の働きを低下させて感情のコントロールができなくなる原因のひとつです。
ある研究では、慢性的な睡眠不足により「扁桃体(へんとうたい)」と「前頭前野」の連携を弱めてしまうことが示されています。[1]
扁桃体は、不安や恐怖などの感情処理を行う脳の「警報装置」のようなものです。
扁桃体が過敏になるとささいなことでイライラしたり、急に不安になったりします。
前頭前野は、理性や合理的な判断に関係する脳の部分です。
前頭前野の働きが低下すると、冷静な判断や捉え方をしにくくなります。
その結果、普段なら気にならないようなことにも過剰に反応してしまい、冷静に捉えられずに感情の波が大きくなってしまうのです。
考え方のクセ
感情が動く背景には、わたしたちが無意識のうちに身につけてきた「考え方のクセ」が関係しています。
同じできごとを経験しても、人によって感情の動き方が異なるのは考え方のクセによるものです。
ネガティブな考え方のクセは「認知の歪み」とも呼ばれます。
認知の歪みとは、物事の捉え方や解釈に偏りが生じている状態で、以下のようなパターンがあります。[2]
思考のパターン | 説明 |
全か無か思考 | 物事を白か黒か、完璧か失敗かと極端に捉える |
一般化のしすぎ | 一度のよくないできごとから「いつもこうだ」「絶対にうまくいかない」と結論づけてしまう。 |
心のフィルター | よいことを無視して、悪い部分にだけこだわってしまう。 |
マイナス化思考 | うまくいったことも「これは偶然だ」「たいしたことじゃない」と考えてしまう。 |
結論の飛躍 | 根拠もないのに、ネガティブな結論を下してしまう。 |
拡大解釈と過小評価 | 自分の失敗は重く捉え、成功はささいなことだと考える。 |
感情的決めつけ | 「こんなに不安だから、きっと悪いことが起きる」と、感情を根拠に事実を判断する。 |
すべき思考 | 「~すべきだ」「~でなければならない」という厳しいルールで自分や他人を縛る。 |
レッテル貼り | 一度の失敗で自分を「ダメな人間だ」と決めつけてしまう。 |
個人化 | 自分に関係のない悪いできごとまで「自分のせいだ」と考えてしまう。 |
このような認知の歪みをもつほど、日常的にイライラや緊張、落ち込み、疲れを経験しやすいことが研究で示されています。[3]

ついついマイナスに考えちゃうときあります💦
長引くストレス
仕事や人間関係などでストレスを感じ続けていると、脳の働きに変化が生じ、感情をコントロールしにくくなります。
ストレスを感じると「コルチゾール」というホルモンが分泌されます。
コルチゾールは身体をストレスから守る役割を果たすホルモンです。
ただ、コルチゾールが過剰に分泌され続けると脳の「扁桃体(へんとうたい)」が過敏になり「前頭前野」の働きが鈍くなります。[4][5]
つまり、ストレスが長引くとささいなできごとに反応しやすく、冷静な判断がしにくい状態になるのです。
そのため、感情がコントロールしにくくなります。
感情のコントロール|その場でできる対処法
感情の波に「飲み込まれそう…」と感じたとき、その場でできる応急処置を知っておくと、こころの負担をやわらげられます。
すぐに試せる感情コントロール方法は、以下の3つです。
それぞれの方法について詳しく解説します。
深くゆっくり呼吸をする
強いストレスや感情の高ぶりを感じたときは、まず呼吸に意識を向けてみましょう。とくに、深くゆっくりとした呼吸は、こころと身体を落ち着かせるのに有効です。
ゆっくりとした呼吸は、身体をリラックスさせる「副交感神経」を活性化させることがわかっています。[6]
以下の手順で腹式呼吸を行うことで、気持ちを落ち着かせられます。[7]
【腹式呼吸のやり方】
- 背筋を伸ばして、楽な姿勢で座ります。
- 鼻からゆっくりと息を吸い込みます。
- 口から息を吐き出します。吸うときよりも倍くらい長い時間をかけて息を吐ききります。
腹式呼吸を落ち着くまで繰り返すことで、高ぶった神経が静まり冷静さを取り戻す助けになります。
移動して気持ちを落ち着かせる
感情が揺さぶられる場所から移動することも有効な方法です。
環境を変えることで、感情を刺激する原因から距離を取れます。
たとえば、職場でカッとなったときはトイレに立つ、家族と口論になりそうなときは少し散歩に出るなど、数分間だけでもかまいません。
場所を変えることは、思考の切り替えを助け感情的になった状況を少し客観的に見つめ直すきっかけになります。
別のことに注意を向けてみる
その場を離れることが難しいときは「意識的に別のことに注意を向ける」と、こころが落ち着きます。
注射をされるときに、腕から目をそらして壁のポスターを見るのをイメージするとわかりやすいかもしれません。
感情を引き起こしている原因から、意識をそらすことで感情が高ぶるのを抑えられます。
たとえば、次のような方法があります。
- 目に見えるものをこころの中で数える(例:目の前にあるポスターの文字数を数える)
- 近くにあるものの感触を確かめる(例:机の木の質感、ペンの冷たさ)
- まったく違う楽しいことや好きな食べ物のことを考える
一時的にでも思考を切り替えることで、感情のピークが過ぎ去るのを待ち冷静に対応する余裕が生まれます。

別のことを考えて気分を変えましょう!
感情のコントロール|日頃から実践したい対策
根本的に感情の波を穏やかにしていくためには、日頃からの習慣が大切です。
日常生活の中でムリなく取り入れられる方法として、以下の3つがあります。
3つの方法について、それぞれ解説します。
適度な運動
ウォーキングやジョギング、ヨガなどの運動は、身体の健康だけでなくこころの安定にも有効です。
運動をすると「セロトニン」という気分を安定させる物質が脳内で放出され、ストレスへの反応性がやわらぎ感情が安定しやすくなります。
ある研究では、1回30分を超える運動が、感情を調節する能力の向上につながることが示されています[8]。
まずは、週に数回の軽い散歩から始めてみましょう。
マインドフルネス瞑想
マインドフルネス瞑想は「今、この瞬間」に注意を向けるこころの練習です。
浮かんでくる考えや感情に「正しい」「間違っている」などの判断をすることなく、ありのまま認識することを重視します。
日々の生活の中で、わたしたちの意識は過去の後悔や未来の不安に向きがちです。
マインドフルネス瞑想は、その意識を「今」に戻すトレーニングといえます。
マインドフルネス瞑想のやり方は、以下のような流れです。[9]
【簡単なマインドフルネス瞑想のやり方】
- 座った状態で目を閉じます。
- 自分の呼吸に意識を向けて集中します。
- 途中で考えが浮かんできたら、考えに気づいて呼吸に意識を戻します。
- 1~3を毎日15分~25分間繰り返します。
浮かんでくる考えに対しては「こんなことを考えずに集中しないといけない」と思わず、ただ観察することが大切です。
ある研究では、マインドフルネス瞑想により、思考や感情とうまく距離が取れるようになり、脳の扁桃体の活動を抑えられることが示されています。[10]
自分の考えや気持ちを書き出す
ぐるぐると考えてしまうことを、紙に書き出す「ジャーナリング」も、こころを整理するための有効な方法です。
ジャーナリングとは、自分の思考や感情をノートや紙にありのまま書き出すことです。
研究によれば、自分の思考や感情を書き出すことは、精神的な症状をやわらげる効果があることが示されています。[11]
ジャーナリングを行う際には、以下のポイントを意識することで効果が高まります。
- うまく書こうとせず、ただ頭に浮かんだことを書き出す
- 誰かに見せるものではないので正直な気持ちをそのまま書く
- 「なぜそう感じたのか」「どうしたかったのか」を掘り下げてみる
あなたのこころを客観的に眺めることで、新たな気づきを得たり気持ちが落ち着いたりする効果があるでしょう。
感情のコントロールで注意したいポイント
感情をコントロールしようとするとき、単なる「我慢」は実は逆効果になる可能性があります。
感情をムリに抑え込むと、表情には出さなくても内面的な苦しさは残ってしまいます。そして、記憶力を低下させてしまうことがわかっています[12]。
大切なのは、湧き上がってきた感情そのものを否定せずに「今、わたしは怒っているな」「悲しいんだな」と一度認めてあげることです。その上で、感情を引き起こした状況の捉え方を変えてみましょう。
たとえば、仕事での失敗に対して「もうダメだ」と捉えるのではなく「失敗から学べることはなんだろう」と捉えなおします。その結果、ネガティブな感情が減少し前向きな気持ちに切り替えやすくなるでしょう。
我慢して感情に蓋をするのではなく、まずは自分の感情を受け入れ、その上で状況の捉え方を変えることが大切です。
セルフケアで改善しないときは受診も考えよう
これまで紹介した方法を試しても、感情がコントロールできずに生活に支障が出ているときは、こころの不調が隠れているかもしれません。
とくに、以下のようなサインがみられるときは、ひとりで抱え込まずに専門家へ相談することを検討してみましょう。
- 感情の起伏が激しく「仕事に行けない」「人間関係が維持できない」など、生活に支障が出ている
- 憂うつな気分・不安・意欲の低下などが2週間以上、ほとんど毎日続いている
- 原因がわからない頭痛・めまい・動悸・腹痛などの身体の症状が続いている
精神科や心療内科では、あなたの状態に合わせて、さまざまな治療の選択肢を一緒に考えます。
たとえば、感情の波をやわらげるための薬物療法や、考え方のクセを見つめ直し、より柔軟な思考を身につけていく認知行動療法などがあります。
専門家に相談することは、決して特別なことではありません。こころの専門家の力を借りることは、回復への大切な一歩です。
精神科に行ったら終わりだ…と思っているならば、下記の記事もあわせてご覧ください。
まとめ
感情のコントロールができないと感じることは、決してあなたの性格や「甘え」のせいではありません。
背景には、長引くストレスや睡眠不足による脳の働きの変化、考え方のクセが関係している可能性があります。
まずは、感情が高ぶったときにその場でできる「深呼吸」や「場所を変える」などの方法を試してみてください。そして、日頃から「適度な運動」や「気持ちを書き出す」といった習慣を取り入れることで、感情の波そのものを穏やかにしていきましょう。
大切なのは、感情をムリに我慢するのではなく、その存在を一度受け入れたうえで、状況の捉え方を変えてみることです。
もし、さまざまなセルフケアを試しても苦しい状態が続くときは、こころの不調のサインかもしれません。
おおかみこころのクリニックでは、夜22時までの診察やオンライン診療を行っております。感情のコントロールが難しく日常生活に支障をきたしているときは、いつでもご相談ください。
24時間予約受付中
おおかみこころのクリニック
【参考文献】
[1]Motomura Y, Kitamura S, Oba K, et al. Sleep debt elicits negative emotional reaction through diminished amygdala-anterior cingulate functional connectivity. PLoS One. 2013;8(2):e56578.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23418586
[2]福井至・貝谷久宣監修「図解 認知のゆがみを直せば心がラクになる」
[3]三川俊樹「認知の歪みと主観的不健康感の関係」追手門学院大学人間学部紀要 2004年1月31日 第16号 17-29
https://www.i-repository.net/contents/outemon/ir/401/401040105.pdf
[4]山川香織・大平英樹「ストレス下における不合理な意思決定―認知機能の側面から―」生理心理学と精神生理学 36(1) 40‒52 2018
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjppp/36/1/36_1805si/_pdf
[5]東邦大学理学部生物学科「ストレスと脳」
https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/029758.html
[6]Fincham GW, Strauss C, Montero-Marin J, Cavanagh K. Effect of breathwork on stress and mental health: A meta-analysis of randomised-controlled trials. Sci Rep. 2023;13(1):432. Published 2023 Jan 9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36624160
[7]日本医師会「腹式呼吸のやり方」
https://www.med.or.jp/komichi/holiday/sports_02_pop.html
[8]Effects of Physical Exercises on Emotion Regulation: A Meta-Analysis
Jie Liu, Shuqing Gao, Liancheng Zhang
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.07.04.22277120v1.full
[9]国立精神・神経医療研究センター「こころの健康を保つために大切なこと」
https://www.ncnp.go.jp/nimh/behavior/anxiety/selfcare.pdf
[10]Goldin PR, Gross JJ. Effects of mindfulness-based stress reduction (MBSR) on emotion regulation in social anxiety disorder. Emotion. 2010;10(1):83-91.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20141305
[11]Sohal M, Singh P, Dhillon BS, Gill HS. Efficacy of journaling in the management of mental illness: a systematic review and meta-analysis. Fam Med Community Health. 2022;10(1):e001154.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35304431
[12]Gross JJ. Emotion regulation: affective, cognitive, and social consequences. Psychophysiology. 2002;39(3):281-291.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12212647
- この記事の執筆者
- 片桐 はじめ
公認心理師、臨床心理士として精神科病院・クリニックで精神疾患を抱える方のカウンセリングや心理検査に従事。臨床経験をもとに、身近な例からわかりやすく説明する文章を心がけています。