「癇癪(かんしゃく)」と聞くと、子どもが大声で泣いて怒っている様子を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、大人にもこの症状が表れることがあります。
大人の癇癪は、人間関係や社会生活に悪影響を及ぼすことがあります。その背景には、こころの病気や発達障害が隠れていることがあるのです。
この記事では、大人の癇癪の症状や原因と、克服するための方法を解説します。
また「発達障害なのでは…?」と気になる方のために、簡単なチェックリストも用意しました。
感情をうまくコントロールし、癇癪の症状を和らげるお手伝いができれば幸いです。
大人の癇癪の症状とは
「癇癪」という言葉は、医学的に明確に定義されたものではありません。
大人の癇癪は、急激な怒りの感情や行動の爆発を適切にコントロールできないことを指します。
具体的な症状は、以下のとおりです。[1]
- ささいなきっかけで激しく怒る
- 攻撃的な言葉や突発的な態度をとる
- 物を壊す
- 暴力をふるう
- 怒りが急に湧きあがるがすぐに消える
誰しも「怒り」の感情が起こることはありますが、この感情表現がいきすぎると、周りの人との信頼関係を損ねてしまいます。とくに、怒りの感情は家族や職場の同僚といった、親しい間柄の人に向けられやすいといわれています。[2]「家族にだけキレる」というのも、よくあるパターンのひとつです。
これらの症状は、他人との関わりにおいて、大きな問題を引き起こすことがあります。
大人が癇癪を起こす原因
大人の癇癪を引き起こす原因は、人によってさまざまです。それは、個人の性格や過去の経験、現在の生活環境やストレスに大きく左右されるためです。
たとえば、ストレスや不安によって心理的な負担が大きくなると、感情のコントロールが難しくなり、癇癪として表れることがあります。
こうした心理的な負担が重なると、より怒りの感情が表れやすくなり、癇癪につながるのです。
大人の癇癪と発達障害・病気の関係
癇癪の症状が表れたとき「なにかの病気や発達障害なのでは?」と気になる方もいるでしょう。
もちろん、癇癪を起こす大人すべてが、病気や発達障害を抱えているわけではありません。ただし、これらが症状の背景にあることも多いのです。
ここでは、癇癪を起こしやすい発達障害やこころの病気について解説します。
ADHD(注意欠陥・多動性障害)
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は、成人の約3~4%にみられる発達障害のひとつです。[3]
ADHDを持つ人は、落ち着きがない、集中力が続かないといった特性が、幼少期から見られることが多いといわれています。
しかし、子どもの頃はこれらの特性が個性として捉えられ、見過ごされることもあります。そして、大人になり社会生活を送るなかで、ADHDの特性が障害として表面化するのです。
ADHDの人は、感情の不安定さや衝動的な行動を起こすことがあります。怒りの感情を抑えられず、癇癪のように大声で怒りを表すこともあるのです。
周りの人がADHDの症状を理解していない場合、誤解や対立を引き起こす原因となり、人間関係に影響を与えることもあります。[4]
境界性パーソナリティ障害
境界性パーソナリティ障害は、感情や行動のコントロールが難しく、対人関係や自己イメージに深刻な問題を抱える精神疾患のひとつです。
この障害を持つ人は、感情の波が激しく、自分の衝動的な行動に対して責任を感じてしまうという特徴があります。
また、孤独に対して強い恐怖を感じる傾向があり、家族や友人、恋人などに対して激しい怒りをぶつけることがあります。些細なことでも、癇癪のような行動を起こすことがある病気です。[5]
双極性障害
双極性障害は、躁状態と抑うつ状態が交互に表れる気分障害のひとつです。
この障害を持つ人は、感情の波が非常に激しいことが特徴です。
とくに、躁状態では気分が高揚し、活力に満ち溢れていますが、無謀な行動や攻撃的な行動を起こすことがあります。[6]これが、癇癪のような症状を引き起こす原因となります。
間欠性爆発性障害
間欠性爆発性障害は、感情の制御が困難で、怒りや攻撃的な行動が突然激しく表れる精神障害です。普段は落ち着いているものの、些細なきっかけで激しい怒りを示すことがあります。
特徴的なのは、怒りの程度が、その状況やきっかけに見合わないほど強く、衝動的である点です。[7]
この障害は、脳の機能や遺伝的要因、幼少期のストレスなどが関係していると考えられています。間欠性爆発性障害は、人間関係や社会生活に大きな影響を与える精神障害なのです。
大人の発達障害セルフチェック
子どものころは気付かず過ごしていても、大人になって発達障害の指摘を受ける人もいます。「自分はADHDなのでは?」と気になる方のために、簡単なチェックリストを用意しました。[9]
このチェック項目に当てはまるものが多いと、ADHDの傾向があるといえるでしょう。適切な治療につなげるために、参考にしていただければ幸いです。
※過去6カ月間の、あなたの感情や行動に当てはまるものをチェックしてみてください。
✔ 物事をおこなうにあたって、難所は乗り越えたのに、詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことが頻繁にありましたか?
✔ 計画的に作業するときに、順序立てておこなうのが困難だったことが頻繁にありましたか?
✔ 約束事や、しなければならない用事を忘れたことが頻繁にありましたか?
✔ じっくりと考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることが頻繁にありましたか?
✔ 長時間座っていなければならないときに、手足をそわそわと動かしたり、もぞもぞしたりすることがありましたか?
✔ 何かに駆り立てられたかのように過度に活動的になったり、何かせずにはいられなくなることが頻繁にありましたか?
ADHDの症状は、人間関係やキャリアに影響を与えることがあります。
また、周囲から誤解されやすく、自分自身の能力を生かしきれていないと感じることもあるでしょう。症状に早めに気付き、治療につなげられれば、癇癪の症状を軽減できる可能性があるのです。[9]
「ちょっと気になるな…」と思ったら、お気軽にご相談ください。
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大人の癇癪の治療と対処法
大人の癇癪は、発達障害やこころの病気が原因で起こることがあります。ただし、これらの障害は、適切な治療を受けることで改善する可能性が高く、癇癪の症状も軽減できると考えられています。[9]
ここでは、大人の癇癪の治療と対処法について紹介します。
治療法
癇癪を起こすことのある発達障害やこころの病気の治療は、その人の状況や症状によってさまざまです。
〈発達障害〉
発達障害の克服には、まずその存在に気付き、認めて受け入れることが大切です。自身の行動や感情のコントロールが難しいと感じたら、早めに専門機関に相談しましょう。
発達障害に対する治療には、薬物療法の他にもさまざまなアプローチがあります。
- ・環境調整:癇癪の要因となる日常生活や職場でのストレスを減らし、環境を整えます。
・心理療法:個別セッションやグループセッションを通じて、感情のコントロールやストレス対処法を学びます。
・認知行動療法:自身の思考パターンや行動を見直し、ネガティブな思考や行動に対処する新たな方法を学びます。
〈こころの病気〉
こころの病気が癇癪の原因である場合の治療も、薬物療法やカウンセリング、認知行動療法がおこなわれます。
認知行動療法について詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてくださいね。
癇癪への対処法
癇癪の症状は、適切に対処すれば抑えられるものです。
対処法として有効とされているのは「アンガーマネジメント」です。
アンガーマネジメントはアメリカ発祥の心理教育プログラムで、怒りの感情を理解しコントロールする方法です。
まず、普段から自分が「何に対して」「どのような状況で」怒りを感じるかを整理します。怒りの原因を明らかにすることで、怒りのもとから離れて癇癪を予防できるのです。
また、マイナスの感情をため込まないように、趣味やリラックス法など自分なりのストレス解消法を見つけ、うまく感情をコントロールできるようにします。
とはいえ、怒りの感情を全て無くすことはできません。
「カッとなったとき」や「怒りたくなったとき」は、以下の方法を試してみてください。
〈6秒ルール〉
① 怒りたくなったら6秒間待ってみる
② 6秒カウントする
③ カウントしながら自分が落ち着ける方法を試す
(深呼吸、周囲のものをじっと見て気をそらす、自分にポジティブなメッセージを送るなど)
怒りの感情のピークは6秒間であり、時間が経つにつれておさまるといわれています。その間に、数を数えて気をそらしたり、自分なりの気持ちを落ち着かせる方法を試してみましょう。
しかし、6秒間待っても怒りが収まらないときもありますよね。そんなときは、その場を離れることもひとつの選択肢です。一時的に環境を変えることで、感情が落ち着き、より冷静に状況を見直すことができるでしょう。[10]
癇癪への対処法で大切なのは、自分自身をよく理解し、自分の感情をうまくコントロールすることです。怒りの感情が湧いたときだけでなく、普段から自分の感情と向き合いましょう。
まとめ
この記事では、大人の癇癪の原因と対処法を中心に解説しました。
癇癪は、怒りの感情のコントロールがうまくできないときに起こりやすいといわれています。原因として、特定の精神疾患や発達障害が関係していることもあります。
癇癪は、周囲との関係を悪化させる可能性もあると同時に、自分自身を責めてしまう原因にもなるのです。癇癪を克服するためには、背景にある原因を理解し、適切な治療につなげることが大切です。
癇癪に悩む大人が健やかな社会生活を送るために、適切な治療と普段の生活から感情をコントロールする練習をしておきましょう。
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参考文献
[1]~才能としての~おとなの発達障害|兵庫県立ひょうごこころの医療センター
https://hmhc.jp/images/2019/07/642844a8c4ae0802d94cbd262de77e46-1.pdf
[2]親密な関係における怒りの感情表出と効果:生存時間分析による検討|実験社会心理学研究 第59巻 第1号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjesp/59/1/59_1708/_pdf/-char/ja
[3]大人の「注意欠如・多動症(ADHD)」とは?特徴や治療を解説!|NHK
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1070.html
[4]ADHD(注意欠如・多動症)|国立精神・神経医療研究センター
https://www.ncnp.go.jp/hospital/patient/disease07.html
[5]境界性パーソナリティ障害|MSDマニュアル
[6]双極性障害(躁うつ病)|こころの情報サイト
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=RM3UirqngPV6bFW0
[7]What are Disruptive, Impulse Control and Conduct Disorders?|AMERICAN PSYCHIATRIC ASSOCIATION
[8]Adult ADHD Self-Report Scale-V1.1 (ASRS-V1.1)Symptoms Checklist
https://www.hcp.med.harvard.edu/ncs/ftpdir/adhd/18Q_Japanese_final.pdf
[9]ひきこもりと発達障害|内閣府
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/handbook/pdf/1-2.pdf
[10]アンガーマネジメント、怒りの感情と上手に付き合う|中央労働災害防止協会
https://www.jisha.or.jp/kyushu/pdf/angermanagement.pdf
- この記事の執筆者
- 原田瑞季
臨床検査技師。保健学修士。在宅で医療検査の業務に関わりながら、フリーライターとして医療を中心に幅広いジャンルで執筆中。