「発達障害は遺伝するの?」「発達障害になる原因は何?」と疑問をお持ちの方もいるでしょう。
発達障害とは、生まれつき脳の発達に違いが見られる疾患です。自閉スペクトラム症(ASD)や学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)など複数の疾患に分類され、それぞれ特徴が異なります。[1]
遺伝子や環境要因が関係しているとの説がありますが、はっきりと原因は解明されていません。[2]
この記事では、発達障害と遺伝子の関係性や遺伝する確率、代表的な発達障害について解説します。「なぜ発達障害が生まれてくるのか」「事前にわかる方法はあるのか」などの不安や疑問がある方は、ぜひ参考にしてください。
発達障害の原因|遺伝子との関係性とは?
発達障害を発症する原因のひとつとして、遺伝性要因が大きいと考えられています。しかし発達障害は、病気を発症するかどうかが遺伝のみで決められる「遺伝性疾患(ダウン症や筋ジストロフィーなど)」とは異なり、環境要因といったほかの原因が関係していることもあります。
さまざまな要因が複雑に絡み合って発症するといわれており、依然不明な点が多い疾患です。
未だに明確な原因が分からないことが多いのです
発達障害が遺伝する確率
発達障害が遺伝する確率は、いくつかの双生児研究でデータが発表されています。
さまざまな研究結果から、発達障害が遺伝する確率は一卵性双生児で70〜80%ほど、二卵性双生児で5〜10%ほどといわれていますが、発達障害の種類や条件によって数値に多少の違いが見られます。実際に、自閉スペクトラム障害(ASD)では、45組の一卵性双生児で77%、45組の二卵性双生児で31%の遺伝率であったとの研究データがあります(男児の場合)。[3]
上記の研究結果は一例でしかありませんが、あらゆる研究から同じ環境で育った双生児のうち、二卵性双生児の遺伝性が低いことがわかっています。そのため、環境要因よりも遺伝性要因のほうが大きいと考えられているのです。ただし環境要因も少なからず影響するため、必ずしも遺伝であるとは断言できません。[4][5]
さらに、発達障害の種類によっても遺伝する確率は異なるとされており、そのなかでも自閉症スペクトラム障害は遺伝要因が強いとの説もあります。[6]
いろいろな要因が絡み合っているようですね
遺伝的要因が強い?3つの代表的な発達障害
発達障害は複数に分類されていますが、そのなかでも代表的なものが以下の3つです。
この章では、上記3つの発達障害について解説します。
自閉症スペクトラム障害(ASD)
自閉症スペクトラム障害(ASD)とは、広汎性発達障害とも呼ばれる発達障害です。ほかの発達障害と比べて遺伝性要因が強いとされており、実際の研究結果から遺伝子との関連性が報告されています。[6]
自閉症スペクトラム障害の特徴は、以下の通りです。[7]
- コミュニケーションを取るのが苦手
- 周囲への関心や興味がない
- 相手の気持ちを理解するのが苦手
- こだわりが強い
- においや音に敏感
- 予期せぬことが起こると対応できない
- 複数のことを同時にこなせない
社会生活や人間関係を築くことが苦手であり、人とのコミュニケーションをうまく取れなかったり、周囲への関心や興味が薄かったりすることが特徴です。集団行動や対人関係が苦手なことから、周囲との関わりを避け、自己評価を下げてしまうこともあります。
それによってうつ病や不安障害など、ほかの精神疾患を引き起こすおそれもあります。
学習障害(LD)
学習障害(LD)は特異的発達障害とも呼ばれ、特徴は以下の通りです。[8]
- 文章を読むのに時間がかかる
- 問いかけや問題の意味を理解しづらい
- 字を間違えやすい
- メモを取るのが苦手
- 計算でのミスが多い
- 表やグラフを理解しづらい
知的な遅れがないにもかかわらず「書く」「読む」「計算する」に対する能力が低く、学習してもなかなか習得できないことが特徴です。そのため、学業や仕事に支障をきたしてしまうことも。
早期に発達障害であると判断されないまま生活を続けると、うまく学業をこなせず、抑うつや不登校・無断欠勤などを引き起こすおそれがあります。
二次的な病気の原因になることもあります💦
注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、「多動」や「不注意」、「衝動性」の症状が顕著にあらわれる発達障害です。特徴は以下の通りです。[9]
- 物事に集中できずケアレスミスが多い
- 気が散りやすい
- 忘れ物をしやすい
- 頼まれた仕事や約束を忘れやすい
- じっとしていられない
- 計画性がなく突発的な行動が見られる
- スケジュール管理が苦手
- 遅刻しやすい
大人になると「多動」や「衝動性」は落ち着くこともありますが、「不注意」の症状が依然として目立ち、仕事をうまくこなせないなどの問題につながる可能性があります。
発達障害に関するよくある質問
発達障害に関して、さまざまな疑問や悩みをお持ちの方もいるでしょう。
この章では、発達障害に関してよく聞かれる疑問や悩みについて解説します。記載している内容で解決しない疑問や悩みがある場合は、専門医へ相談しましょう。
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発達障害はなぜ生まれるのか?
発達障害は、生まれつき脳の機能に障害があり発症すると考えられています。なぜ脳の機能が障害されるのかについては、現時点では明確にはなっていません。遺伝性要因以外にも、環境要因といった原因が複雑に絡み合っている可能性もあると考えられています。
対して発達障害を発症する背景として、親の愛情不足や育て方が影響することは少ないとされています。発達障害の子を持つ親御さんのなかには「自分の愛情が足りなかったのでは?」と責めてしまうこともあるかもしれませんが、大きな関係性はないとされています。[10]
愛情不足を心配しなくて大丈夫ですよ。
原因を調べてる時点で愛情はたくさんです
発達障害が遺伝するかは事前にわかるのか?
発達障害が妊娠中に検査でわかるかどうかですが、結論からお伝えすると難しいとされています。
妊娠32週目までであれば出生前診断を受けることが可能であり、ダウン症やパトー症候群などの染色体異常による疾患を判別できます。一方で発達障害は遺伝性要因が大きいといっても、環境要因といった原因も関係しているため、今の医療技術では事前に発達障害かどうかを知ることは困難といわれているのです。[11]
環境面では何を意識したらよいのか?
遺伝的要因が強い発達障害ですが、少なからず環境やそのほかの要因も影響するとされています。
発達障害の方と一緒に過ごす家族は、発達障害に対しての正しい知識を持つことはもちろん、関わり方にも工夫が必要です。
発達障害の方への接し方について詳しく知りたい方は、下記の記事もあわせてお読みください。
まとめ
発達障害は、遺伝的要因が大きいとされていますが、環境要因といった原因が複雑に絡み合っている可能性もあります。ただし解明されていない点も多く、どのように発達障害が生まれるのかや、妊娠中に診断を確定できる方法はわかっていません。
発達障害は遺伝的要因以外にも、環境が影響することもありますので、家族や周囲の関わりが大切です。発達障害の方の特性を理解し、その人に合った支援を考えることが重要といえるでしょう。
「我が子が発達障害かもしれない」「発達障害の家族との関わり方がわからない」などのお悩みがある方は、精神科や心療内科などの医療機関を受診するのも方法のひとつです。
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【参考文献】
[1]発達障害|厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kodomo_s/hattatu.html
[2]発達障害とは|宮城県
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kodomo_s/hattatu.html
[3]Hallmayer J, Cleveland S, Torres A, et al. Genetic heritability and shared environmental factors among twin pairs with autism. Arch Gen Psychiatry 2011 ;68 :1095-102
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21727249/
[4]自閉症に関連する遺伝子異常を発見|理化学研究所 脳神経科学研究センター
https://bsi.riken.jp/jp/asset/img/about/timeline/pdf/071.pdf
[5]広汎性発達障害の脳形態異常とその起源について|日本精神神経学会総会 山末英典
https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100100893.pdf
[6]発達障害における遺伝性要因(先天的素因)について|日本小児神経学会学術集会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/47/3/47_215/_pdf
[7]ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)について|厚生労働省 e-ヘルスネット
[8]学習障害(限局性学習症)|厚生労働省 e-ヘルスネット
[9]ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療|厚生労働省 e-ヘルスネット
[10]正しいしつけは子どもへの大切な贈り物。|福島県
https://www.pref.fukushima.lg.jp/img/kyouiku/attachment/900856.pdf
[11]出生前診断についてキチンと知っていますか?|兵庫医科大学
https://www.hyo-med.ac.jp/department/nursing/kazoku/prenatal_testing_leaflet.pdf
- この記事の編集者
- Yusa
大学病院にて約10年間病棟看護師として勤務。耳鼻科(周手術期管理)、腎臓外科(腎移植)、循環器小児科、脳神経外科・SCUの現場で培った経験と知識を活かし、現在は看護師ライターとして活動中。