発達障害とは、生まれつき脳の発達に違いが見られる疾患です。発達障害と一言でいってもいくつかの種類に分けられ、それぞれ特徴や苦手なことなどが異なります。[1]
「発達障害の子供とうまく関われず、どうしていいかわからない」「発達障害のある社員と円滑に仕事を進められない」などとお悩みであれば、その人に合った接し方を理解することが大切です。
この記事では、発達障害の方に対する接し方のポイントを解説します。周囲のコミュニケーション次第で、発達障害の方が感じる「生きづらさ」を緩和できるでしょう。
この記事の内容
【種類別】発達障害の方との接し方
発達障害で代表的なものは、以下の3つです。
ここではそれぞれの特徴や、接し方のポイントを解説します。
3つの発達障害について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてお読みください。
発達障害の特徴を理解して、その子に合った接し方が大切です
注意欠陥多動性障害(ADHD)
注意欠陥多動性障害(ADHD)は、落ち着きがなく「多動」「不注意」「衝動性」などの症状が顕著にあらわれる発達障害です。大人になると、「多動」や「衝動性」は落ち着くケースもありますが、一方で約束を忘れたり遅刻したりする行動が目立つこともあります。[2]
ADHDの方との接し方では、以下のポイントを意識しましょう。
- 一緒に予防策を考える
- 時計を目につくところに置く
- リマインダーアプリの活用を提案する
- 期限のある作業は早めに着手するよう声をかける
- 大事な書類や物は、家族や会社が管理する
- 何度も説明を繰り返す
まずはその人の特性を理解して、作業や物事が遅れても問題ないようにサポートすることが大切です。具体的な解決策を一緒に考えると、改善できる可能性が高まります。
学習障害(LD)
学習障害(LD)は、知的な遅れがないにもかかわらず「読む」「書く」「計算する」といった能力が低いことが特徴です。これらの能力は、学習してもなかなか習得できないため、学業や仕事に支障をきたすことも多いとされています。[3]
LDの方との接し方では、以下のポイントを意識しましょう。
- なるべくやりとりは声をかける
- 学業がうまくいかないことを責めない
- 読み書きや計算が必要な作業や仕事は頼まない
- 指示はこまかく分けて順に伝える
- ボイスレコーダーを活用する
ツールをうまく活用しながら苦手なことをカバーすることで、学業や仕事をこなせるでしょう。
自閉スペクトラム障害(ASD)
自閉症スペクトラム障害(ASD)は広汎性発達障害とも呼ばれ、社会生活や人間関係を築くことが苦手な傾向にある発達障害です。人とうまくコミュニケーションが取れなかったり、周囲への関心や興味が極端に低かったりすることが特徴です。
ASDの方との接し方では、以下のポイントを意識しましょう。
- 人との関わりが少なくて済む環境を整える
- 「気持ちを察する」といった行動を過度に期待しない
- 相談しやすい環境を整える
- 連絡手段にメモやメールなどを用いる
- 自分たちの意見を押しつけない
慣れている場所やよく知っている場所では、一生懸命物事に取り組める傾向にあるため、安心できる環境を作ることがポイントといえるでしょう。
発達障害のある子供に対しての接し方【家族・学校】
発達障害は、子供のうちに診断されるケースもあれば、大人になってから気づくパターンもあります。
この章では、子供の生活に大きく関わる家族と学校での接し方について解説します。[5]
家族による関わり
発達障害の我が子を育てるなかで「自分たちの育て方が悪いのではないか」「これからどうやって育てていけばよいか」などさまざまな葛藤があるかもしれません。
まずは、我が子の発達障害について知ることが大切です。発達障害の種類による特徴はもちろん、我が子の苦手なことや得意なことなどにも目を向け、どのように接するかを考えます。
発達障害としてあらわれる特性(落ち着きのなさやこだわりの強さなど)は、一見短所に感じますが、捉え方によっては長所にもなり得ます。接し方や生活の仕方を工夫することで、我が子の長所を伸ばし、社会に適応する術を習得できるようになるでしょう。
困りごとや悩みがある場合には、家族内で抱え込まず専門家に相談するのも方法のひとつです。
周囲からのサポートを受けながら、自分たちのペースで我が子を支えてあげることが大切です
学校での関わり
発達障害の子供が学級内にいる場合、どのように接するのか、友達同士でのやり取りなどに悩むケースもあるかもしれません。
学校での子供たちは、教師の姿を見てさまざまなことを学びます。発達障害のある子供に対して「できない子」「困った子」との捉え方をしていると、それを見ていた周囲の子供もそのような存在として見てしまうおそれがあります。
発達障害のある子供の困りに寄り添い、一緒に改善策を考えることが大切です。その姿勢を真似して、自分なりの関わり方を探る子供も出てくるかもしれません。もし友人関係でのトラブルが起こったら、やってはいけないことはすぐに止め、双方の言い分を聞くことが大切です。状況の把握に努め、早急に対応することが望ましいでしょう。
学校内での支援は、チームで取り組むことが大切です。担当教師だけでなく、学校全体で支援していく姿勢を持ちましょう。
発達障害のある大人に対しての接し方【仕事・友人】
発達障害のある方が大人の場合、子供とは多少対応が異なります。
この章では、仕事場や友人との接し方について解説します。
仕事での関わり
職場では、発達障害のある部下や上司と関わる機会もあるでしょう。その場合「仕事がうまくこなせない」「取り引き先とのトラブルが発生した」などの問題が生じる可能性もあります。
まずは発達障害について理解して、その人が苦手なことはなにか、どのような仕事ならこなせそうかを考えましょう。社会人になると、子供のときよりも発達障害による特性が顕著にあらわれるようになります。
たとえば、スケジュール管理ができなかったり、遅刻が多く見られたりです。
発達障害の特性には個人差が大きいため、苦手なことやスキルを考慮して、適切な職場や仕事内容を検討することが大切です。向いている職に就くことで、実力を発揮しやすくなります。
ただし「無断欠勤が増えた」「気分が落ち込んでいるように見える」など普段と異なる様子が見られたら、休養を勧め、精神科の受診を提案しましょう。
友人との関わり
大人になると家族よりも友人と過ごす時間が増え、友人の支援を受ける機会も多くなるでしょう。発達障害の友人との関係性を築くには、その人の特性を理解することから始めましょう。
しかし、友人から発達障害であることを知らされないうちは、根掘り葉掘り聞かないことが大切です。「ほかの人と違う点がある」ことに気づいたとしても、いきなり「発達障害なのでは?」と伝えてしまうと、精神的負担をかけてしまうおそれがあります。
まずは、悩みや困っていることを聞き、一緒に改善策を考えてあげましょう。本人が望んでいる場合には、専門家に相談するのもよいでしょう。
友人から相談されたら一緒に考えましょう
発達障害の方との接し方で大切なこと
この章では発達障害の方と接する際に、意識したいポイントや大切な点を解説します。
発達障害の方との接し方に難しさを感じている方は、ぜひ参考にしてください。
個別性を理解する
発達障害には複数の種類があり、それぞれ見られやすい特徴が異なります。人によってもあらわれる特性には違いが見られるため、個別性に配慮したアプローチが必要です。個々を理解することは誤解やすれ違いを防ぎ、信頼関係を築くうえで有効です。
まずはその人を理解することから始め、どのような支援が必要なのか、なにが得意・苦手なのかを把握する必要があります。困っていることや求める支援を本人に聞いてみてもよいでしょう。個々の理解が深まることで、コミュニケーションが円滑に進み、問題を解決しやすくなります。
共感し肯定的な発言を意識する
共感しながら話を聞き、肯定的な発言や態度を意識することもポイントです。
発達障害の方は、自分ができないことに対して一人で悩み、ときには自分を責めてしまうこともあります。結果として、引きこもりや抑うつ状態などの精神的症状につながるケースも珍しくありません。
発達障害の方が、自分の得意なことや強みを認識することで、自尊心や意欲の向上が期待できます。とくに子供のうちはできないことに目を向けがちですが、得意なことや才能を伸ばすことで成長につながるでしょう。対して、できないことに関しては叱るのではなく、どのようにすればできそうかを一緒に考え、よかった点を褒めるのが効果的です。自信を持つことで、学校や社会で自分らしく生きるための支えとなるでしょう。
説明や指示はわかりやすさを重視する
発達障害の方のなかには、人の言葉や指示を理解したり、文字や表・グラフなどを読み取ったりすることが苦手なケースもあります。なにかを説明・指示する場合には、苦手なことを理解したうえで、わかりやすさを重視することが大切です。
実際には以下の点を意識して、伝え方を工夫するとよいでしょう。
- 短い文章で伝える
- 順を追ってひとつずつ説明する
- 具体的な指示を出す
- 視覚的な情報を使う
- 安心できる環境で説明する
文字が苦手な方には絵を使うなど、視覚的な情報を加えながら、わかりやすい言葉で説明するのが効果的です。その都度理解を確認し、順を追って説明することを意識しましょう。また、音や人混みなどの刺激が苦手な場合には、静かな部屋で話をするなども有効です。
その人に合った伝わりやすい説明しましょう
発達障害の方との接し方が大事な理由
発達障害は早期発見、早期介入によって、社会への適応力を習得し、得意なことをはじめとするさまざまな能力を伸ばすことが可能です。
しかし、発達障害への理解が乏しいと、間違った解釈や接し方をしてしまう可能性があるため注意が必要です。接し方によって自己肯定感を下げてしまったり、周囲と違う自分やうまくいかないことによる葛藤が大きくなったりしてしまうことも。結果的に、生きづらさを感じ、うつ病や不安障害といった精神疾患を発症する恐れがあるのです。
我が子や会社の同僚などが「発達障害かも?」と感じた場合、まずは専門家に相談するのも選択肢のひとつです。お住まいの「発達障害者支援センター」や「発達障害情報・支援センター」などに相談するのもよいでしょう。
意欲低下や気分の落ち込みといった気になる症状が見られる場合には、精神科や心療内科などの医療機関を受診するのも方法のひとつです。一人で悩まず、周囲に相談しながら協力し合って発達障害の方を支援していくことが大切です。
まとめ
発達障害の方における接し方で大切なことは、特性を理解し、その人に合った支援を考えることです。発達障害の種類によって見られる特性は異なりますが、人によっても個性はさまざまです。
学校や仕事などで困っている様子を感じたら、一緒に改善策を考えてあげるとよいでしょう。接し方に迷った際には、今回ご紹介した方法をぜひ試してください。
もし接し方に難しさを感じたり、発達障害の方の不調に気づいたりしたときには、精神科や心療内科などの医療機関を受診するのも選択肢のひとつです。一人で悩まず、専門家に相談しましょう。
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【参考文献】
[1]発達障害とは|宮城県
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kodomo_s/hattatu.html
・発達障害|厚生労働省 e-ヘルスネット
[2]ADHD(注意欠如・多動症)の診断と治療|厚生労働省 e-ヘルスネット
[3]学習障害|厚生労働省 e-ヘルスネット
[4]発達障害|厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kodomo_s/hattatu.html
・発達障害って、なんだろう?|政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/featured/201104/#fifthSection
・発達障害の理解のために|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/17.html
[5]大人の発達障害との向き合い方~生活・家庭のお悩み編~|社会福祉法人 恩賜財団済生会
https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/adult_developmental_disability/
・発達障害の子ども「発達でこぼこ」との接し方|社会福祉法人 恩賜財団済生会
・周囲の方へどう接し、どう伝えるか、行動のヒント|武田製薬工業株式会社
https://www.otona-hattatsu-navi.jp/how/surroundings2/
- この記事の編集者
- Yusa
大学病院にて約10年間病棟看護師として勤務。耳鼻科(周手術期管理)、腎臓外科(腎移植)、循環器小児科、脳神経外科・SCUの現場で培った経験と知識を活かし、現在は看護師ライターとして活動中。