産後うつの症状の中には、感情的になりやすくイライラしてしまうことがあります。この感情は、最も身近な家族である夫やパートナーに向けられることが少なくありません。
産後うつはさまざまな要因が積み重なって引き起こされますが、夫婦関係も一つの発症要因となります。
この記事では、産後の夫婦関係が産後うつにどのような影響を与えるのかについて解説します。
産後うつを夫婦で乗り越えるために、現状を見つめ直し、解決策を一緒に見つけましょう。
産後うつがいつまで続くのか気になる方は、下記の記事も合せてご覧ください。
夫婦関係も産後うつの原因
産後うつは、いくつかの要因が重なって引き起こされますが、夫婦間の問題も発症のきっかけとなります。[1]
産後は、ホルモンバランスの変動や睡眠不足、育児のストレスなど、日常的にこころと身体に大きな負担がかかります。この状況の中で、夫婦間の問題が生じると、産後うつを発症するリスクも高まるのです。
母親の負担は大きいです💦
産後うつの引き金になる夫婦間の問題
産後うつの引き金となる夫婦間の問題について、見ていきましょう。
コミュニケーション不足
産後は夜間授乳や赤ちゃんの世話で忙しく、夫婦間のコミュニケーションは減少します。また、妻の夫への愛情や夫婦関係への満足度は、第1子が誕生して数日~産後2ヶ月にかけて著しく低下することが報告されています。[2][3]
夫婦間のコミュニケーションが不足することで、お互いの感情や考えが十分に共有されず、誤解やトラブルが生じやすくなるため、夫婦関係のストレスも大きくなるのです。
夫婦間のコミュニケーション不足は、産後うつの発症率を高める要因となるのです。
家事・育児のサポート不足
家事や育児に対する夫のサポート不足も、産後うつを発症する要因となります。
産後の母親は身体も回復途中であり、家事や育児をすべて1人でこなすのは困難です。しかし、夫が仕事を理由に、家事や育児のほとんどを妻に任せてしまうことも少なくありません。このような環境では、体力的にも精神的にも辛く、妻の産後うつのリスクは高まります。
夫の妻へのサポートが十分でないことも、夫婦間の問題といえるでしょう。
仕事から帰ってきたら家事をするなど夫のサポートは大切です
家庭内の役割に対する価値観の違い
家庭での夫婦間の役割に対する認識の違いは、夫婦関係に問題を生じる要因となります。
日本では昔から「男は仕事、女は家庭」という価値観が根強く存在してきました。近年では、育児休暇を取得し育児や家事に積極的に関わる父親も増えていますが、それでもなお、多くの家庭で妻が家事や育児の中心となっているのが現状です。[4]
夫婦間で家庭内の役割を共有し同じ価値観を持っていないと、負担が妻に偏り、これがストレスとなって産後うつを引き起こすこともあるのです。
産後うつを乗り越えるために夫の理解を得る方法
妻が産後うつの症状を訴えていても、産後うつを軽く考えていたり、甘えだといって理解してくれなかったりすることもあります。産後うつを乗り越えるためには、妻だけでなく夫や周りの支えが必要なのです。
ここでは、産後うつを克服するために夫の理解を得る方法を解説します。
自分の思いを打ち明ける
産後うつを夫に理解してもらうためにはまず、自分自身の症状や困りごとについて、率直に打ち明けることが大切です。
「どんなことが辛いのか」を具体的に伝えることで、夫にも現状を理解してもらいやすくなります。今の辛い状況をそのままにしていても、状況は良い方向には進みません。
自分の思いや感じているストレスを夫と共有することで、夫に問題を認識してもらい、夫婦で解決策を一緒に考える一歩となるでしょう。
察してくれるのを待つのではなく、あなたの思いを伝えてみましょう
夫婦でカウンセリングを受ける
産後うつの理解のためには、夫婦2人でカウンセリングを受けることも効果的です。[5]
夫婦以外の第三者からの視点を取り入れることにより、問題に対して冷静に考えられるようになります。また、産後うつの知識や辛さを客観的に知ることができ、夫も産後うつを理解しやすいでしょう。
さらに、カウンセリングによって専門家からのアドバイスを受けられるため、夫婦が直面している問題に対して具体的な解決方法が得られるメリットもあります。[6]
夫婦だけの話し合いでは感情的になりやすく、解決につながらないこともあります。専門家の手を借りながら、一緒に解決策を考えるとよいでしょう。
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完全には理解し合えないことを分かっておく
夫婦間の理解を深めるためには、まず「相手を完全に理解するのは不可能」という前提を受け入れることが重要です。[7]夫婦は同じ人間ではないため、お互いを完全に理解することはできないのです。そのうえで、産後うつの症状に苦しむ妻に対して可能な限り負担を軽減し、歩み寄る努力をする必要があります。
夫婦がお互いを尊重し合うことで、産後うつを乗り越える一歩となるでしょう。
産後うつの妻に対して夫ができるサポートや、産後うつを克服するためのポイントはこちらの記事をご覧ください。
産後旦那にイライラしてしまうのは産後クライシスの可能性も
産後、とにかく夫に対してイライラしてしまう場合は「産後クライシス」の可能性があります。
産後クライシスとは、出産後に夫婦の愛情が急激に冷める現象のことです。[3]
産後うつの場合は、気分の落ち込みや体重減少といった、夫婦関係に限らない抑うつ症状が表れます。一方、産後クライシスは、夫に対して感情的になりやすく、夫婦関係に限定した症状が表れることが特徴です。産後クライシスは病気ではなく、夫婦関係の危機を示す言葉として定着しています。
産後クライシスと産後うつは、症状自体は似ている部分もありますが、全く異なるものだと理解しておきましょう。
わからなかったらクリニックで相談してみましょう
まとめ
産後うつは、夫婦関係の問題が一つの要因となり発症することがあります。
産後は赤ちゃんを迎え、育児の不安や環境の変化などにより、夫婦関係も大きく変化する時期です。産後うつに苦しむ妻にとって、一番近くにいる夫が病気を理解し、夫婦が手を取り合って乗り越えていくことが大切です。
夫婦での話し合いだけでなく、専門家を交えながらより良いサポート方法や産後うつを乗り越える方法を見つけましょう。
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参考文献
[1]産後うつ 私たちにできる支援|小児保健研究 第79巻 第1号,2020
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2020/007901/005/0026-0035.pdf
[2]産後1か月における妻のうつ傾向と夫婦関係・社会的支援を中心とした心理社会的要因との関連|日衛誌 (Jpn. J. Hyg.) 2023; 78: 22002
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/78/0/78_22002/_pdf
[3]第1子誕生直後における妻および夫の感情の変化|日本助産学会誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam/36/2/36_JJAM-2021-0039/_pdf
[4]令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査結果|内閣府
https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2021/202110/202110_02.html
[5]ご家族にできること|こころの耳
https://kokoro.mhlw.go.jp/families/
[6]Q5:カウンセリング効果の実際は?|こころの耳
https://kokoro.mhlw.go.jp/mental-health-pro-qa/mh-pro-qa005/
[7]対象者理解を深めるために|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000633302.pdf
- この記事の執筆者
- 原田瑞季
臨床検査技師。保健学修士。在宅で医療検査の業務に関わりながら、フリーライターとして医療を中心に幅広いジャンルで執筆中。