育児は喜びや楽しみを経験させてくれるものですが、同時に多くの悩みや不安を抱えることもあります。育児に伴う過度のストレスから「育児ノイローゼ」と呼ばれる状態に陥ってしまうことも少なくありません。
この記事では、育児ノイローゼの症状や対処法について解説します。
育児の辛さはひとりで抱え込まず、助けを求めることも大切です。育児ノイローゼを乗り越える方法を一緒に探っていきましょう。
この記事の内容
育児ノイローゼとは
育児ノイローゼとは、育児に対する強いストレスや不安から引き起こされる「気力が低下した状態」のことを指します。
育児ノイローゼは、医学的な用語ではありません。「ノイローゼ」はかつて「神経症」と呼ばれ、不安感や落ち込みなどの症状を表す言葉として定着し、現在も使われています。[1]
育児に対する不安は、母親・父親関係なく多くの人が感じるものです。その中でも、育児に対して不安や負担を感じる女性の割合は、およそ8割にのぼります。[2]
育児ノイローゼは、とくに母親において深刻な症状になりやすいといえるでしょう。
母親だって子育てはじめてで、不安だらけです💦
育児ノイローゼの原因となり得るもの
育児ノイローゼは、育児のストレスや不安が原因です。
ここでは、育児ストレスの原因を見ていきましょう。
夫や周囲の協力不足
育児ノイローゼの原因として、夫や身近な人からの協力が十分に得られないことが挙げられます。[3]専業主婦、共働きに関わらず、多くの家庭で育児の大半を「母親」が担っているのが実情です。
ワンオペ育児では、24時間体制で子どもの世話をしながら家事もこなさなければなりません。そのため、体力的にも精神的にもつらい状況に追い込まれてしまいます。父親が育児に積極的に協力してくれない場合には、夫に対してもストレスを感じてしまうでしょう。
育児に追われる母親は、自分の体調を気遣いリフレッシュする時間を作ることすら難しくなります。
自分の時間を持てないことに対するストレスや育児の大きな負担が、母親を心身ともにつらい状況にさせてしまうのです。
子育てしていると、自分のことはついつい後回しになっちゃうんですよね💦
母親の孤独感
専業主婦や育児休暇中の母親は、日中一人で育児に専念することが多くなります。こうした環境は、孤独感を感じる原因となります。
産前は職場や社会とのつながりがあったものの、産後は周りとの関係が希薄になりがちです。自分のキャリアやアイデンティティを失ったような感覚に襲われ、不安を感じる母親も多いでしょう。[3]このような孤独な環境が、育児や生活全般に対する不安を増幅させてしまう要因の一つなのです。
夫以外の大人に会ってないと気づいたときの孤独感は半端ないです…
子どもの発達に関する問題
子育て中の親がストレスを感じる大きな要因に、子どもの発達に関わる問題があります。[3]
子どもは成長するにつれ、自我が芽生え始めます。それは親にとって喜ばしいことでもありますが、同時に子どもの行動に振り回されたり、言うことを聞かなくなったりと、もどかしさやいらだちを感じることもあるでしょう。育児に余裕のない状況では、子どもが原因のストレスも親の精神状態に影響を与える要因となるのです。
子どもとの関わり方や発達など、育児には悩みや不安がつきものです。こうした悩みが積み重なると、育児ノイローゼに陥ってしまうリスクが高まります。
育児ノイローゼの症状チェック
育児ノイローゼに医学的な定義はなく、診断基準はありません。ただし、一般的には「神経症」の一種に分類され、うつ病よりも軽い症状とされています。
育児ノイローゼの症状には個人差がありますが、うつ病にみられる以下の症状が参考になります。[4]
- うつ病の症状
- ・気分の落ち込み
・活動意欲の低下
・集中力の低下
・睡眠障害(寝られない、寝すぎるなど)
・食欲の低下または過食
育児ノイローゼや産後うつに特徴的な症状は、以下の通りです。[5]
- 育児ノイローゼの症状
- ・子どもの様子が気になり落ち着かない、常に不安
・育児に対する自信喪失
・うまくできない自分を責める
・夫や家族へのいら立ち
うつ病や産後うつ、育児ノイローゼのような症状にいくつか当てはまる場合は、早めに医療機関に相談しましょう。出産した産院やメンタルクリニックに相談すると良いでしょう。
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育児ノイローゼと産後うつの違い
育児ノイローゼと産後うつは、どちらも産後に起こりうる精神的な症状を指しますが、症状の程度や原因には違いがあります。
育児ノイローゼ | 産後うつ | |
症状 | 育児に伴うストレスや不安から引き起こされる一時的な不安症状 | 重度の抑うつ状態、気分の落ち込みや希死念慮(自殺願望)などの深刻な症状 |
発症時期 | 明確ではない | 産後数週間~数カ月(産後1年以内が多い)長期化する傾向 |
治療・支援 | 適切な支援や治療で改善が見込める | 回復のためには専門的な治療が必要 |
育児ノイローゼは一時的なストレス反応ですが、産後うつは精神疾患です。[5]ただし、症状の程度には個人差があり、区別がつきにくいこともあります。また、育児ノイローゼを放置すると、産後うつにつながる可能性もあるため注意が必要です。
自己判断をせず、気になる症状があれば医療機関を受診してください。
産後うつについて詳しく知りたい方は、以下の記事が参考になります。
育児ノイローゼが与える影響
育児ノイローゼは、母親だけでなく家庭全体に影響を与える問題です。
母親への影響
育児ノイローゼは、母親の心身に深刻な影響を及ぼします。
不安やストレスから、気分の落ち込みや涙もろくなるなどのメンタルヘルスの問題だけでなく、不眠や食欲の低下などの体調面での悩みも増えるでしょう。
育児ノイローゼを放置すると産後うつへと移行し、さらに深刻な症状が表れる可能性もあります。
子どもへの影響
育児ノイローゼは、母親自身への影響だけでなく、子どもの発達にも影響します。
母親の不安は子どもにも伝わるといわれています。[6]実際の研究でも、母親の不安状態が高いと、子どもの言葉の発達が遅れがちになることが明らかとなっているのです。
また、ストレスを抱えた母親は、余裕のなさから子どもに対してネガティブな言動をしてしまいがちです。ときには手を挙げてしまったり、虐待につながるリスクもあります。
虐待は、子どもの心身の発達に深刻な影響を与えます。母親の精神的な安定は、子どもの健やかな成長には欠かせないのです。
自分のために受診の時間を取るのが億劫でも、子どものためになると思って受診してみましょう。
家族への影響
育児ノイローゼは、家族全体の問題です。
母親が育児の主体となっている場合、夫に対する不満が高まりがちです。育児や家事への協力不足や理解不足を責めたり、言葉による暴力に走ったりと、夫婦関係が悪化してしまうこともあります。最悪の場合には、離婚につながることもあるでしょう。
また、家族関係は子どもの心理的発達にも深く関わっています。家族関係が良好でない場合、子どもがうつ病や不安障害を発症するリスクが高まるのです。[7]
育児ノイローゼが家族全体に与える影響は、決して無視できる問題ではないのです。
育児ノイローゼへの対処法とセルフケア
育児ノイローゼへの対処法として大切なのは、育児や家事の体力的な負担とこころの負担を軽減することです。
ここでは、育児ノイローゼに対するセルフケアについて解説します。
家族にサポートを求める
育児ノイローゼに悩んでいるときは、ひとりで抱え込まず家族にサポートを求めましょう。[4]助けを求めることは、決して恥ずかしいことではありません。
家族、とくに夫婦は「ともに育児を担うパートナーである」という意識を持つ必要があります。仕事が忙しく、父親がなかなか育児に時間を割けない場合でも、母親の話を聞いたり、休日に母親が一人で過ごせる時間を作るなどの協力を求めましょう。
母親だけの子どもじゃないです。
夫は父親なので育てて当然なのです!
家族のサポート体制を整えるためには、必要な支援を家族で考える必要があります。
- 夫や祖父母に育児のサポートを頼む
- 夫に家事の分担を求める
- 夫や両親に精神的なフォローを求める
- 外部サービスを利用する(ベビーシッターやファミリーサポートなど)
家族は一人ひとりがお互いを思いやり、支え合う関係でなければなりません。そのためにも、家族全員で手を取り合って母親をサポートする必要があるのです。
完璧な育児を求めない
育児は、完璧を求められるものではありません。子どもや家族の形はさまざまで、教科書通りにいかないことの方が多いのです。
疲れたときは家事代行サービスを利用したり、ベビーフードに頼ったりして、自分の時間を確保することも必要です。無理をせず、自分のペースでの育児をこころがけましょう。
周りにたよって、笑顔のママになると子どもの笑顔も増えますよ✨
リフレッシュする時間をつくる
ストレスが溜まりがちな育児中は、自分のためのリフレッシュタイムを確保しましょう。
平日は時間が取れない場合も、休日に自分へのご褒美として気分転換する時間をつくるのも大切です。好きなお茶を飲んだり、好きなおやつを食べたりするだけでも、一息つける機会になります。
また、家族全員で楽しめることを実践するのも一つの方法です。家族皆で外出したり、ゲームをしたりと、子どもだけでなく全員が笑顔になれる時間を作ることで、家族の絆を深められます。
リフレッシュすることで育児ストレスを発散し、育児への前向きな気持ちを取り戻せるでしょう。
育児ノイローゼの相談窓口
育児ノイローゼは、そのままにしておくと状況がさらに深刻化します。乗り越えるためには、早めに適切な治療や支援につながることが必要です。
育児に対してつらさや負担を感じている場合は、ひとりで抱え込まず、まずは周りの人に相談してください。家族や身近な友人に話を聞いてもらうのも一つの方法ですが、第三者に相談した方が気兼ねなく本音を話せることもあります。
育児に関する悩みを相談できる窓口を、いくつかご紹介します。
- 自治体が設置している育児相談窓口
- 地域の子育て支援センター
- 日本保育協会「子育てホットライン ママさん110番」[8]
- 都道府県が設置している家庭児童相談室(#189電話相談)[9]
- 心療内科や児童精神科などの専門医療機関
悩みを気軽に相談できる窓口があることを知り、適切な支援につながりましょう。
知らない人に相談したほうが話しやすいこともありますよ♪
おおかみこころのクリニックでは、LINEでも相談を受け付けています。
いつでもご相談をお待ちしております。
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まとめ
育児ノイローゼとは、育児に伴う過度の不安やストレスから引き起こされる抑うつ状態のことです。周りのサポート不足や孤独感、子どもの問題などさまざまな問題が積み重なると発症しやすくなります。
育児ノイローゼは放置すると産後うつへと移行するリスクがあるため、早めに対処することが必要です。
自分だけの時間を確保したり、家族と笑顔になれる時間を作ったりすることで育児のストレスをうまく発散しましょう。
そして大切なのは、周りに助けを求めることです。育児の辛さはひとりで抱え込まず、適切な支援を受け、家族で乗り越えていきましょう。
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参考文献
[1]<論文>二つの「時代病」 : 神経衰弱とノイローゼの流行にみる人間観の変容|京都大学学術情報リポジトリ 紅
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/192574/1/kjs_007_193.pdf?referrer=www.bing.com
[2]令和2年度「家庭教育の総合的推進に関する調査研究~家庭教育支援の充実に向けた保護者の意識に関する実態把握調査~」、P3|令和2年度文部科学省委託調査 株式会社インテージリサーチhttps://www.mext.go.jp/content/20210301-mex_chisui02-000098302_1.pdf
[3]乳幼児を持つ母親の育児ストレスに関する要因の分析|小児保健研究第64巻 第3号,2005(425~431)
https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2005/006403/008/0425-0431.pdf
[4]うつ病|こころの情報サイト
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL
[5]妊娠・出産に伴ううつ病の症状と治療|e-ヘルスネット
[6]母親の不安と子どもの言語に対する母親の受容性との関連|小児保健研究 746(746~751)https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2006/006506/005/0746-0751.pdf
[7]夫婦関係と児童期の子どもの抑うつ傾向との関連|教育心理学研究,2002,50,129-140
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep1953/50/2/50_129/_pdf
[8]育児電話相談|日本保育協会
https://www.nippo.or.jp/soudan/
[9]児童相談所虐待対応ダイヤル「189」について|こども家庭庁https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai/gyakutai-taiou-dial/
- この記事の執筆者
- 原田瑞季
臨床検査技師。保健学修士。在宅で医療検査の業務に関わりながら、フリーライターとして医療を中心に幅広いジャンルで執筆中。