仕事や人間関係のストレスで、気分の落ち込みや不安な気持ちに悩んでいたら、適応障害の可能性があります。
適応障害とは特定のストレスにうまく適応できず、こころや身体に不調があらわれ、日常生活が難しくなる状態を指します。[1]
うつ病の一歩手前とも言われることがあり、早めの対処が大切です。
この記事では、適応障害の治し方や適応障害が治る流れについて解説します。適応障害について理解を深め、あなたらしい生活を取り戻す一歩となれば幸いです。
この記事の内容
自分でできる適応障害の治し方
自分でできる適応障害の治し方を5つ紹介します。
どれも日常生活の中でできることなので、できそうなものから取り入れてみてください。
一度にすべて変える必要はありません。あなたのペースで試してみましょう。
周囲に相談する
適応障害を自分で乗り越えるためには、まず身近な人に相談することが大切です。相談することで得られるメリットには、以下のようなものがあります。
- 孤独感をやわらげる
- 気持ちを整理しやすくなる
- 家族や上司に状況を理解してもらえる
- こころに溜まった不安や悩みを外に出せる
- 業務量や勤務時間などの調整がしやすくなる
「誰にも相談できない」「迷惑をかけたくない」と感じるときは、自治体や医療機関の相談窓口などを活用するのもひとつの方法です。直接話すのに抵抗があるなら、SNSやメールで相談できるサービスを利用しましょう。
適度な運動をする
適応障害の回復に向けて、自分で取り組める方法のひとつが適度な運動です。
運動によって脳の血流がよくなり、脳細胞が活性化されることで、気分の落ち込みや不安がやわらぐことが知られています。[6]
軽めの運動を30分ほど行うことで、こころのバランスをととのえる神経伝達物質の分泌が促されることが確認されています。[7]
ウォーキングやヨガ、ストレッチなど会話しながらできる程度の運動から始めてください。
ムリのない範囲で、できることから少しずつ取り入れてみましょう。

少しずつで大丈夫です!
質のよい睡眠をとる
自分で適応障害を治すには、質のよい睡眠を確保することも大切です。厚生労働省の資料によると、睡眠時間が短い人はうつ病や認知症などの精神疾患を発症するリスクが高まるとされています。[8]
質のよい睡眠をとるために、次のような工夫を取り入れてみましょう。[8]
- 適度に運動する
- 朝食をしっかりと摂る
- 就寝直前の食事は控える
- 寝室の室温・湿度を快適に保つ
- 7時間程度の睡眠時間を確保する
- 寝る前のカフェイン・アルコール・喫煙を避ける
睡眠環境や生活習慣、嗜好品の摂り方を見直すことで、適応障害の予防や症状の緩和に役立ちます。
ストレスの原因を遠ざける
ストレスの原因から距離を取ることも、適応障害の緩和につながります。
仕事や学校がストレスの原因になっているときは、以下のような対応が考えられます。
・実家に帰る
安心できる環境に身を置き、こころを落ち着かせる
・部署の移動を検討する
職場の環境を変え、ストレスをやわらげる
・一時的に休職、休学する
心身の回復を優先し、十分な休息を取る
・勤務時間の変更を依頼する
働く時間を調整し、休息とのバランスをとる
・業務量や責任の見直しを依頼する
仕事の負担を減らし、ストレスをやわらげる
ストレスから物理的に離れ、心身を休める期間を確保しましょう。
バランスのよい食事を摂る
適応障害を自分で治すために、バランスのよい食事は欠かせません。
コンビニ食やファーストフードなど栄養の偏った食事を続けると、脳に必要な栄養が届きにくくなり、精神状態を安定させる神経伝達物質であるセロトニンの分泌量が低下する恐れがあります。[6]
そのため、1日3食バランスの取れた食事を心がけ、脳に栄養を届けることが大切です。
とくに、セロトニンは体内で作られないため、食事から必要な材料を取り入れる必要があります。
セロトニンの生成に必要な栄養素の一例は、下記のとおりです。
- 葉酸:レバー・ウニ・枝豆・アボカド・わかめ など
- ビタミンB6:豚ヒレ・鶏むね・カツオ・ブロッコリー・バナナ など
- ナイアシン:レバー・鶏ささみ・カツオ・たらこ・エリンギ・落花生 など
- トリプトファン:肉・魚・卵・豆腐・納豆・チーズ・牛乳・ヨーグルト・ごま など
栄養素を意識して食事に取り入れることで、脳の働きをサポートし、適応障害の回復にもつながります。
病院で受ける適応障害の治し方
適応障害の治療は、精神科や心療内科で受けるのが一般的です。おもに、以下のような治療法があります。
こころの病気も身体の病気と同じく早期に治療を始めることで、回復が早くなる傾向にあります。気分の落ち込みや不安などのつらさを感じていたら、なるべく早めに医療機関を受診しましょう。
薬物療法
病院で受ける適応障害の治し方に、薬物療法が挙げられます。
薬物療法とは、気分の落ち込みや不安をやわらげるために、抗うつ薬や抗不安薬などを処方する治療法です。
おもに処方される薬は、以下のとおりです。[1]
項目 | 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系) | 抗うつ薬(SSRI) |
薬の名前 | ・デパス(エチゾラム) ・ソラナックス(アルプラゾラム)など | ・セルトラリン(ジェイゾロフト) ・パキシル(パロキセチン)など |
症状 | 不安・不眠 | うつ状態 |
作用 | 脳の過剰な神経活動をおさえて、不安や緊張をやわらげる | 精神の安定を司る神経伝達であるセロトニンの働きを調整する |
副作用 | 長期間服用すると依存や効果の減少がある | まれに服薬中に不安や発熱、震えなどが見られるセロトニン症候群があらわれることがある |
不安や不眠の症状に対して処方されるベンゾジアゼピン受容体作動薬には、長期間服用すると依存や効果の低下が懸念されます。[2]また、抗うつ薬を服用すると、まれに不安や発熱、震えなどが起こる「セロトニン症候群」が生じる可能性があります。[3]
そのため、医師の判断のもとで服用し、自己判断での使用や中止は避けてください。服薬中、心身が不調で違和感を少しでも感じた際は早期に医師へ連絡しましょう。
適応障害の薬で根本的な治療はできないので、心理療法や環境の見直しなどを組み合わせて進めることが大切です。
心理療法
心理療法は、医師や臨床心理士のカウンセリングを通じて、気持ちの整理やストレスとの向き合い方を学び、精神的な安定を目指す治療法です。
適応障害では、ストレスの受け取り方や考え方のクセに働きかける認知行動療法がよく用いられます。認知行動療法はつらさを感じたできごとを一緒に振り返りながら、少しずつストレスへの対処力を高める治療法です。
カウンセリングは、30分間の面接を16〜20回ほどかけて行うのが一般的です。実際のセッションでは、以下のような質問を受けることがあります。[4]
- つらいと感じた場面はどんなときでしたか?
- ストレスはどのような状況で起こりますか?
- どのような気持ちでしたか?
- その気持ちの強さは、0〜100でどれくらいですか?
- 家族や友人が同じような考えをしていたら、どのようにアドバイスしますか?
- 他の人がここにいたら、どうアドバイスしてくれると思いますか?
国立精神・神経医療研究センターでは、認知行動療法で用いられるワークシートが無料でダウンロードできます。あなたの思考や感情のパターンを整理するのに役立つため、カウンセリングとあわせて活用するとよいでしょう。
認知行動療法を通じて、あなたの考え方の傾向に気づき、ストレスとよりうまく付き合えるようになります。以下の記事では、診察の際に話す内容についてまとめていますので参考にしてください。
頭蓋磁気刺激療法
病院によっては、頭蓋磁気刺激療法による治療を受けられます。頭蓋磁気刺激療法は身体に害のない磁気で脳を刺激し、脳の活性化を目指す治療法です。
具体的には、次の手順で気分の安定につなげます。
- 専用の機械で脳を刺激できる磁気を発生させる
- 電気刺激によって、脳の特定部位を刺激する
- 脳内の神経ネットワークが柔軟になり、情報伝達がスムーズになる
- 働きが低下していた脳の領域が活性化され、こころのバランスがととのう
副作用として頭痛や不快感、まれにけいれんなどが報告されていますが、薬物療法に比べて安全性が高い治療法とされています。[5]
うつ病患者の人は保険診療で受けられますが、適応障害の治療では自費診療となる点に注意しましょう。
また、頭蓋磁気刺激療法は大学病院や専門のクリニックなどで受けられる治療ですが、実施している病院は限られています。事前に頭蓋磁気刺激療法を取り入れているか、病院に確認をしておきましょう。
適応障害を治すまでの段階
適応障害の回復は、以下の3つの段階に分けられると考えられます。[9]
現在、あなたがどの段階に当てはまるか考え、治療に役立ててください。
急性期
適応障害の急性期とは、診断を受けてから1〜3か月程度の、症状が最も強くあらわれる時期を指します。
強いストレス反応や気分の落ち込み、不安、不眠などの症状が見られることが多いため、こころと身体をしっかり休めましょう。とくに、急性期ではストレスの原因から距離を取り、十分な休息をとることが大切です。
また、必要に応じて医療機関の受診を検討しましょう。
おおかみこころのクリニックでは、急性期の患者さんに「寝たいときに寝て、食べたいときに食べてください」とお伝えすることがあります。今まで頑張ってこられたのですから、この機会に力を抜いてリラックスして過ごしてください。[6]
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回復期
適応障害の回復期は、調子のよい状態と悪い状態を繰り返しながら、少しずつ心身が安定してくる時期です。一般的には、診断から4~6か月程度が目安とされています。
回復期では、体調や気分に合わせて過ごし方を調整することが大切です。具体的には、次のように調整をしながら、少しずつ日常生活のリズムを取り戻してください。[6]
- 疲れを感じるとき(消極的な休み)
- ・十分な睡眠をとる
・読書や映画鑑賞などの静かな時間を過ごす
- 気力が出てきたとき(積極的な休み)
- ・趣味を楽しむ
・軽い運動をする
調子がよいと感じると、復職や復学を考えるかもしれません。しかし、回復期にムリをすると再び症状が悪化し、急性期に戻るリスクもあります。焦らずに、まずはあなたの生活リズムをととのえることから始めてください。
再発予防期
再発予防期は回復期を経て心身の状態が安定し始める時期で、診断からおおよそ1〜2年後にあたります。
適応障害の再発を防ぐにはストレスの原因や生活環境を見直し、あなたなりの対処法をあらかじめ整理しておくことが大切です。再発予防に向けて、以下のようなポイントを振り返ってみましょう。[6]
- どのような状況で症状が出やすいのか
- 回復までにどれくらいの時間がかかるか
- 症状があらわれたとき、どのように対処すれば落ち着けるか
焦らず、あなたのペースで適応障害と向き合っていく気持ちが大切です。「再発しないように」と身構えるよりも、「少しずつうまく付き合っていこう」という気持ちでいる方が安定につながることもあります。
まとめ
適応障害を治すには、病院で受ける治療と自分で取り組める対処法があります。
病院での治療法は、以下のとおりです。
- 薬物療法
- 心理療法
- 頭蓋磁気刺激療法
自分でできる対処法としては、以下のようなものが挙げられます。
- 周囲に相談する
- 適度な運動をする
- 質のよい睡眠をとる
- ストレスの原因を遠ざける
- バランスのよい食事を摂る
また、適応障害は回復までに急性期・回復期・再発予防期と段階を進めることが一般的です。あなたが今どの段階にいるのかを把握することで適切な対処がしやすくなり、ご家族や職場の理解も得やすくなります。
適応障害は、早期の対処が回復への近道です。
こころが疲れていると感じたら、ムリせず早めに専門家へ相談しましょう。
おおかみこころのクリニックでは、ご自宅から受けられるオンライン診療も行っていますのでお気軽にご相談ください。
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【参考文献】
[1]適応障害/統合失調症|厚生労働省
https://kenkoukyouikusidousyakousyuukai.com/img/file214.pdf
[2]ベンゾジアゼピン受容体作動薬の治療薬依存|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
https://www.pmda.go.jp/files/000245312.pdf?utm_source=chatgpt.com
[3]厚生労働省|重篤副作用疾患別対応マニュアル セロトニン症候群
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000665779.pdf?utm_source=chatgpt.com
[4]厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業|うつ病の認知療法・認知行動療法 (患者さんのための資料)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf?utm_source=chatgpt.com
[5]昭和学士会|経頭蓋磁気刺激(TMS)の基礎と臨床
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/74/6/74_628/_pdf
[6]脱うつのトリセツ,三浦暁彦,扶桑社
https://amzn.asia/d/hlZh0hb
[7]J-STAGE|運動によるストレス緩和作用と抗うつ効果
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/64/1/64_57/_pdf?utm_source=chatgpt.com
[8]厚生労働省|健康づくりのための睡眠ガイド2023
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
[9]こころの耳|うつ病の治療と予後
https://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/ad003