生理前に抑うつ気分やイライラを感じて、日常生活に支障をきたしていませんか?それはPMSではなく、PMDDかもしれません。PMDDとは月経前不快気分障害のことで、PMSよりも重度の症状を引き起こす病気です。
PMDDの症状には、気分の変動やイライラなどの精神的症状と、疲れやすさや食欲の変化などの身体的症状があります。PMSよりも精神的症状が強い人は、PMDDの可能性が考えられるでしょう。
この記事では、PMDDのセルフチェック、PMDDのセルフケアについて解説します。自分の状態を正しく理解して、適切な対処法を実践しながら、PMDDとうまく付き合っていきましょう。
この記事の内容
PMDDとは
PMDDとは、月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder)の略称です。月経前症候群(PMS)とは異なり、日常生活に大きな支障をきたすほどの症状を引き起こします。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
PMDDの原因
PMDDの正確な原因はまだ完全には明らかにされていませんが、おもな要因として女性ホルモンの変動が挙げられます。[1]
排卵のリズムがある女性は、排卵から次の月経までの間(黄体期)に「エストロゲン」と「プロゲステロン」というホルモンが多く出ます。黄体期の後半になると、これらのホルモンが急に減り、脳内のホルモンや神経に影響を与え、PMDDの原因になると考えられているのです。しかし、脳内のホルモンや神経は、ストレスからも影響を受けます。そのため、PMDDはホルモンの減少だけが原因ではなく、多くの要因が関係しているのです。
PMDDの症状
PMDDの症状は、精神面と身体面の両方にあらわれます。おもな症状には以下のようなものがあります。
- 精神的な症状
- ・極端に気分が変動する
・イライラして怒りっぽい
・激しい不安や緊張に襲われる
・強い抑うつ気分や絶望を感じる
- 身体的な症状
- ・疲れやすい
・食欲が変化する
・不眠や過眠になる
・関節や筋肉が痛む
症状は生理が始まる1〜2週間前にあらわれます。日常生活に支障をきたすほど深刻になるケースもあります。症状のせいで仕事のパフォーマンスが低下したり、人間関係がぎくしゃくしたりする人もいるでしょう。
PMDDとPMSの違い
PMDDとPMSは似ているようで、実は大きな違いがあります。以下の表におもな違いをまとめました。[2][3]
PMS | PMDD | |
症状の程度 | 軽度~中程度 | 重度 |
症状 | 精神的・身体的症状 | 精神的・身体的症状のどちらもあるが、精神的症状の方がPMSよりも強い |
発症頻度 | 20~40% | 2~10% |
診断基準 | 明確な診断基準はない | DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)に設定されている |
治療法 | ・生活習慣の改善 ・薬物療法 ・心理療法 | ・薬物療法 ・心理療法 |
これらの違いを理解することで、自分の状態がPMSなのかPMDDなのかを判断する手がかりになります。
PMSについては下記の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
PMDDのセルフチェック
PMDDの診断基準をもとにしたセルフチェックで、どのくらいあてはまるか確認してみましょう。以下の症状が生理前に強く、生理が始まると和らぐときは、PMDDの可能性があります。
【主要な症状】
▢ 絶望的になる
▢ ひどく落ち込む
▢ 感情の波が激しい
▢ 自分を責めがちになる
▢ 不安や緊張が強くなる
▢ 神経が高ぶる感じがする
▢ イライラや怒りっぽさが強くなる
【追加の症状】
▢ やる気が出ない
▢ 疲れやすくなる
▢ 集中力が低下する
▢ 関節痛や筋肉痛がある
▢ 仕事や趣味などへの興味が薄れる
▢ 胸の張りや痛み、むくみなどがある
▢ 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
▢ よく眠れない、または眠りすぎてしまう
▢ 自分をコントロールできない感じがする
【その他】
▢ 症状のせいで日常生活に支障が出ている
▢ 症状は他の精神疾患によるものではない
▢ 2回以上の月経周期で同じような症状がある
主要な症状に1つ、そして主要な症状と追加の症状を合わせて5つ以上あてはまり、日常生活に支障が出ているときは、PMDDの可能性があります。早期の治療が大切になるため、精神科や婦人科を受診してみてください。
PMDDになりやすい人の特徴は下記の記事をご覧ください。
PMDDのセルフケア5選
PMDDの症状を和らげるために、日常生活で実践できるセルフケア方法を5つ紹介します。
それぞれの方法について解説します。
運動を習慣にする
定期的な運動は、PMDDの症状を改善するのに役立ちます。[4]また、ストレスを発散したり、心身をリラックスさせて睡眠リズムを整えたりする働きもあるのです。[5]
ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を1日30分ほど、週2回以上行いましょう。[6]激しい運動である必要はなく、自分のペースで続けられる運動を選ぶことが大切です。あまり運動をしていないという人は、1日10分だけでも動いたり、階段を使ったりするなど意識してみてください。
運動を習慣化すれば、PMDDの症状だけでなく、心身の健康も向上させられます。
健康維持のためにも運動習慣をつけましょう!
十分な睡眠をとる
質の良い睡眠は、PMDDの症状を和らげるために大切です。睡眠は、ホルモンバランスを調整したり、疲れを回復したりする働きがあります。
睡眠不足になると、情緒が不安定になったり、注意力や判断力が下がったりしてしまいます。そのため、最低でも6時間以上は確保するようにしましょう。[7]
また、睡眠の質を向上させるために、以下のような工夫をしてみましょう。
- 寝室を快適な環境に整える
- 寝具は自分に合うものを選ぶ
- 毎日同じ時間に起床・就寝する
- 就寝前はスマホやパソコンの使用を控える
- 読書やストレッチなど、リラックスできる就寝前のルーティーンを作る
睡眠の質が向上し、PMDDの症状を緩和できます。
お酒やたばこを控える
お酒やたばこは、PMDDの症状を悪化させる原因となります。
アルコールは一時的に気分を良くする効果がありますが、ホルモンバランスの乱れやストレス耐性の低下を招いてしまいます。お酒を飲む量を減らすか、飲まないように意識しましょう。[8]
たばこに含まれるニコチンも、ホルモンバランスに悪影響を与えます。PMDDだけでなく、がんや脳卒中などの病気の要因にもなるため、禁煙をおすすめします。自分だけで禁煙するのが難しければ、病院での禁煙治療を検討してみてください。[9][10]
お酒やたばこを控えることで、PMDDの症状だけでなく、健康状態の改善にもつながります。
リラクゼーション法を行う
リラクゼーション法は、PMDDの症状を和らげるのに効果的です。
リラクゼーション法とは、呼吸がゆっくりになったり、心拍数が低下したりする「リラックス反応」を体にもたらすための方法です。不安や抑うつ、心配などの症状を和らげるという研究結果が示されています。[11]
リラクゼーション法には以下のようなものがあります。
- ヨガ:ゆったりとした動きと呼吸法を組み合わせ、心身のバランスを整える
- 深呼吸法:ゆっくりと深い呼吸を繰り返す
- 漸進的筋弛緩法:身体の筋肉に意識的に力を入れて、力を抜く
日常的に取り入れることで、ストレスを解消したり、PMDDの症状を改善します。
食事の栄養バランスを考える
栄養バランスの取れた食事は、PMDDの症状を和らげるのに大切な役割を果たします。とくに、カルシウムやマグネシウムなど、ミネラルが豊富な食品を積極的に摂取することが推奨されているのです。
カルシウムには、精神を安定させる働きがあります。マグネシウムは、少なくなったセロトニンを作るために必要な栄養素です。[12]これらを多く含む食品には、以下のようなものがあります。[13][14]
- カルシウム
- ・牛乳
・水菜
・小松菜
・ひじき
・ししゃも
・木綿豆腐
・ヨーグルト
- マグネシウム
- ・豆類
・あおさ
・わかめ
・ナッツ類
・干しえび
・枝豆
・ほうれん草
バランスの取れた食事を心がければ、PMDDの改善だけでなく、健康の維持にもつながります。
まとめ
PMDDの症状はPMSとは異なり、日常生活により大きな影響をきたすため、適切な理解と対処が必要です。
症状には、強い抑うつ気分や不安感、イライラ感などがあり、生理前にあらわれて生理開始とともに改善します。日常生活では生活習慣を改善したり、リラクゼーション法を実践したりすれば、症状を和らげることができます。
PMDDは決して珍しい病気ではありません。自分の体調の変化に敏感になり、必要な対策をすることが、PMDDとの付き合い方の第一歩となります。セルフチェックをしてPMDDかもしれないと思った人は、おおかみこころのクリニックにご相談ください。あなたの悩みや不安を聞きながら、一緒に治療を進めていきましょう。
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【参考文献】
[1]月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)|公益社団法人 日本産科婦人科学会
https://www.jsog.or.jp/citizen/5716/
[2]PMS/PMDD研究の動向を探る,松本珠希
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/28/2/28_167/_pdf/-char/ja
[3]PMS,PMDDの診断と治療ー他科疾患との鑑別ー,白土なほ子
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jshowaunivsoc/77/4/77_360/_pdf/-char/ja
[4]精神科からみたPMS/PMDDの病態と治療,大坪天平
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspog/22/3/22_258/_pdf
[5]体を動かす|こころもメンテしよう ~若者を支えるメンタルヘルスサイト~
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/self/self_01.html
[6]身体活動・運動|とうきょう健康ステーション
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kensui/undou/
[7]健康づくりのための睡眠ガイド2023
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf
[8]女性の飲酒のリスク|特定非営利活動法人ASK
[9]月経に伴う精神的・身体的症状に関連する要因を分析|筑波大学
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/pdf/p20230111140000.pdf
[10]喫煙者本人の健康影響|e-ヘルスネット(厚生労働省)
[11]リラクゼーション法|厚生労働省eJIM
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c02/11.html
[12]月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)|近畿大学病院
https://www.med.kindai.ac.jp/diseases/pms.html
[13]大切な栄養素カルシウム|農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/minna_navi/topics/topics1_05.html
[14]マグネシウムの働きと1日の摂取量|健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-mg.html