複雑性PTSDの治療方法とは|心理療法から薬物療法まで紹介

複雑性PTSDの治療法

複雑性PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)は過去の経験をきっかけに、フラッシュバックや感情の不安性がおこる病気です。通常のPTSDに比べると、幼いころから長い期間にわたってストレスを受け続けることで発生すると、いう特徴があります。

複雑性PTSDに対する治療法では、とくに「こころの傷」に焦点をあてた心理療法が有効とされています。

この記事では、具体的に10種類の複雑性PTSDの治療法を挙げて解説していきます。

複雑性PTSDとは

複雑性PTSDは、長期間にわたる虐待や、繰り返し行われる暴力などの精神的なストレスがきっかけでおきる病気です。

通常のPTSDとの違いは、きっかけとなるストレスに継続性があるか、です。

過去の悲惨なトラウマ体験がよみがえるフラッシュバックなどを起こす事で、日常生活にも問題が起こり生活していくのも大変でしょう。

複雑性PTSDの治療法10選

複雑性PTSDの治療法は、おもに「精神症状に対する薬物療法」「心のケアに対する心理療法」にわけられます。

ここでは、複雑性PTSDの治療方法10選を紹介します。

1.認知行動療法

認知行動療法は、カウンセラーとともにセッションを通して行います。

症状の軽減を目的とし、自らの認知・思考・行動のゆがみを理解して適切な状態に修正していく作業です。

トラウマ体験で偏りが生じてしまっていることを理解し、自己観察や問題解決のスキルを教え、行動を変えていくことを目指しています。

認知行動療法は、ストレスにより凝り固まってしまったモノの見え方や考え方を改善させる心理療法です。その中でも、持続エクスポージャー法(PE法)はPTSDの治療において、エビデンスが認められています。

具体的には、精神障害の原因になっているストレスに段階的に触れることで、症状を軽くしていく方法です。

PTSDだけでなく、不安性障害や強迫性障害にも使われる心理療法です。

2.EMDR

EMDRとはトラウマ体験を思い起こした状態で眼球運動を行います。

眼球運動を行うことで脳を刺激し、神経回路を変えることで精神症状の改善をするのです。

トラウマ体験を思い起こすということで暴露療法の1種とも言われています。

EMDRは、アメリカの臨床心理士が発表した心理療法です。この方法は、「眼球を動かしていると、気持ちが楽になる」という気づきから生まれました。

現在では、PTSDへの有効性が認められており、海外のPTSD治療ガイドラインには認知行動療法とともにEMDR法が記載されています。

国内の治療ガイドラインへは記載されていないものの、EMDRの認定資格者が少しずつ増えています。

3.STAIR&NST

感情と対人関係に焦点を当てるSTAIR、トラウマ体験に焦点を当てるNSTという治療のことをSTAIR&NSTと言います。

個人のペースで症状の改善段階を細かく設定し、進めるでしょう。傾聴や共感から始める時間をかけ、心理教育などを行い症状と向き合いサポートしていく治療法です。

新しい治療法です。

4.インナーチャイルドケア

インナーチャイルドとは、幼少期の家庭環境においてトラウマとなった負の感情を指し、癒しの鍵です。

強い感情や思いのほとんどをインナーチャイルドが担っているのです。

インナーチャイルドはとても傷ついているため、ゆっくり当時のことを思い出し、その感情に触れることで現在と過去を切り話して考えましょう。

安心、信頼できる人や環境でじっくり継続的に治療していく方法です。

5.マインドフルネス

自分の感情、心理状態、体性感覚をあるがままに受け入れて健全な状態に自己愛を形成していくことをいいます。

解離症状という自分が外界から切り離されているような感覚を持っている人に特に有効になるでしょう。

日本での導入は遅れていますが、メンタルケアには欠かせない治療です。

6.セルフコンパッション

何か合ったときに苦しい状況であればあるほど自分を非難し、傷つけるような言葉を自分にかけてしまうことや、目を背けてしまう事が多くあるでしょう。

セルフコンパッションは意識して他人を思いやるように自分を捉え、否定するのではなくありのままを受け入れられるような言葉をかけます。

自分を他者にするように温かく接することを目指す方法です。

7.薬物療法

薬物治療は、複雑性PTSDそのものを治療する効果はないものの、今起こっている問題に対処する補助的な治療として利用されています。

症状に悩まされていると治療がなかなか進まないことから、コンディションを整えるという目的があるでしょう。

SSRIが中心として投薬されます。

8.栄養療法

栄養が足りなくなると治療に集中することが難しくなります。

たとえば、鉄が足りなければ意欲と集中力をそぐでしょう。

ビタミンが足りなければメンタルコンディションを大きく阻害してしまいます。

栄養を適切に摂り、人によってはサプリメントも使いながら腸内環境を整え、個々の体質に合った運動を行いボディーワークを取り入れる方法です。

9.自律神経のバランス

自律神経は2種類で構成されています。

それが、交感神経と副交感神経です。

交感神経モードとは「興奮モード」の状態を指します。そのため「おやすみモード」である副交感神経を優位にすると落ち着いてくるでしょう。

このように交感神経モードを副交感神経モードに改善することも一つの対処方法です。

10.精神科訪問看護の利用

複雑性PTSDになると外出することが難しくなることもあり、治療が困難なこともあります。その場合に「精神科訪問看護」を利用するのも一つの方法でしょう。

精神科訪問看護とは自宅療法をしているお宅に看護師や作業療法士などの医療従事者が訪問し、主治医の指示のもと適切なケアを行うサービスです。

在宅療法で回復をしたい場合は一度選択肢に入れてもいいのではないかと思います。

以上、10の治療法を紹介しました。

できるだけ多く紹介しましたが、今もなお研究がされている分野であるため他の治療法も探していけばあるでしょう。

ご自身に最も合う治療法を調べてみること、また一度医療機関にかかることをおすすめします。

複雑性PTSDの原因

複雑性PTSDの原因は、通常のPTSDに対して幼少期から長期間にわたって身体的、精神的、心理的虐待、宗教的な洗脳、戦争などのトラウマ体験により引き起こされます。

トラウマ体験からすぐ発症する場合もあれば、何年もたってから発症する可能性もあるでしょう。

このような体験から脳内のホルモンや神経系が変化して症状を引き起こします。

複雑性PTSDの症状

複雑性PTSDの主な症状はフラッシュバック、回避症状、過覚醒症状が代表的な症状です。

特にフラッシュバッグは過去の再体験としてトラウマ体験がよみがえり、その場にいるような感覚に陥る状態をいうでしょう。

中には悪夢として繰り返し出てくることもあり、質の良い睡眠がとれなくなり不眠症などの睡眠障害になる事もあります。

フラッシュバックが繰り返されることで動悸や呼吸困難を起こすこともあり、適応障害やパニック状態、鬱状態、摂食障害など、他の病気を引き起こすこともあるでしょう。

体験談

ここで少し体験談をお話しします。ある複雑性PTSDにかかっている方のお話です。

今でも治療されていますが、治療方法としては「薬物療法」「STAIR&NST」「精神科訪問看護」を行っています。

薬物療法が効いてくるようになるまで時間がある程度かかったそうですが、今では日常生活を普通に送れるほど状態が回復しているようです。

それと同時に、「STAIR&NST」のカウンセリングを行っていて、こちらはまだ治療途中で正直とても難しいそうですが、自分の内面を前よりも見られるようになり、否定的だった自分に対して肯定できることが増えているといいます。

また「精神科訪問看護」を利用することで、日常生活の困ったことを中心に週に1回1時間話をすることで心配事が減ったそうです。

治療法がたくさんあり、今お話ししたのは一人の方の話ですのでどれが自分に合うかは探してみるといいでしょう。

まとめ

長期間にわたる虐待、ドメスティックバイオレンスを受けることで心がとても傷つき、複雑性PTSDを発症することはありますが、医療機関、またカウンセリングなどでの治療が可能です。

しかし一人で抱えているのはとてもつらく、時間がたてば自然に回復するのは難しいと思います。症状は安定することもあると思いますが、つらい気持ちはなかなか消えないでしょう。

まずは自分の状態を把握し、どのような治療が合うのか、一度医療機関を受診して相談してみることをおすすめします。

執筆者:浅田 愼太郎

監修者:浅田 愼太郎

新宿にあるおおかみこころのクリニックの診療部長です。心の悩みを気軽に相談できる環境を提供し、早期対応を重視しています。また、夜間診療にも力を入れており、患者の日常生活が快適になるようサポートしています。

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