育児ノイローゼは、育児のストレスが原因で、不安や気分の落ち込みなどの症状が表れる状態です。症状を和らげるために、育児ノイローゼでは薬物治療が行われることがあります。しかし、人によっては副作用や授乳へのリスクもあるのが現状です。
この記事では、育児ノイローゼの薬物治療と、服用する際の注意点を詳しく解説します。育児ノイローゼで、薬による治療を検討されている方の参考になれば幸いです。
育児ノイローゼについては、下記の記事をご覧ください。
この記事の内容
育児ノイローゼの薬物療法の必要性
育児ノイローゼの薬物療法は、症状の程度や内容を総合的に判断し、必要であると判断された場合に行われます。育児ノイローゼは「産後うつの比較的軽度な状態である」と考えられています。
参考までに、産後うつの重症度を以下に示しています。[1]
- 軽度:ある程度の家事や育児はできるが、それを楽しめない状態
- 中等度:症状の程度が「軽度」と「重度」の間
- 重度:家事・育児が困難な状態、自分や子どもを傷つけたいという考えが浮かぶ
中等症以上の場合は、薬による治療が行われるのが一般的です。症状が強く生活に支障が出ている状態では、症状を和らげて苦痛を緩和するための薬物治療が必要となります。
「子どもが小さいうちはみんな大変だから…」と後回しにせず、適切な対応が大切です。
育児ノイローゼでの薬物療法のメリットとデメリット
育児ノイローゼの薬物療法には、良い面もあれば注意すべき点もあります。
ここでは、薬物療法のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
育児ノイローゼで薬の治療を受けるメリットは、症状を緩和できる点です。
不安やイライラ、気分の落ち込みなどの症状が改善されれば、育児や家事、社会生活に支障をきたすことも少なくなります。また、症状が解消されれば、家族関係や自身の将来について、より冷静に考えられるようになれるでしょう。
薬物療法によって育児ノイローゼが改善されることで、気持ちや生活面でも前向きになれる効果が期待できます。
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デメリット
育児ノイローゼの薬物療法には、デメリットもあります。薬は症状を和らげる効果がありますが、原因の根本である育児や生活環境の問題そのものは改善できないのです。
また、薬の種類や体質によっては、眠気や倦怠感などの副作用が出る可能性もあります。[2]副作用が強く出る場合は、生活に支障をきたすこともあるでしょう。
さらに、長期的に薬を服用することになれば、経済的な負担にもなります。
薬物療法を受ける際には、メリットとデメリットを考慮して、自分にとって最適な選択をする必要があるのです。
育児ノイローゼで使われる薬の種類と副作用
育児ノイローゼの症状を改善するために、どのような薬が使われるのでしょうか。
使われる薬の種類と、気になる副作用について解説します。
副作用には個人差があるので、つらい場合は先生に相談しましょう!
抗うつ薬
抗うつ薬は、育児ノイローゼで見られる抑うつ症状や不安感を改善する作用を持つ薬剤です。
昔は副作用が強い三環系抗うつ薬が主流でしたが、近年では副作用の少ないSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が広く使われるようになりました。ただし、副作用が全くないわけではなく、吐き気や口の渇き、便秘、尿が出にくいなどの症状が出ることがあり、注意が必要です。
抗うつ薬には即効性がなく、服用を始めてしばらくしてから徐々に効果が現れてくる特徴があります。また、症状の緩和だけでなく、症状が和らいだ良好な状態を維持する作用もあるため、長期間の継続した服用が必要となります。[2]
抗不安薬(精神安定剤)
抗不安薬は、育児ノイローゼで見られる不安やイライラなどの症状を和らげ、気分を落ち着かせる作用があります。症状を抑える効果は高く、抗うつ薬よりも即効性があるのが特徴です。
日本で使われているおもな抗不安薬は、ベンゾジアゼピン系とチエノジアゼピン系の2種類です。ベンゾジアゼピン系の薬剤は症状を抑える効果は高いですが、乱用すると依存症になるリスクがあります。また、眠くなりやすく、ふらつきが起こることがあり、注意が必要です。[3]
抗不安薬は症状を抑える効果が高い薬剤ですが、あくまで効果は一時的です。安全に治療を進めるためにも、必ず医師の指示のもと、適切に服用しましょう。
その他の薬
育児ノイローゼでは、抗うつ薬や抗不安薬以外にも、症状に合わせてさまざまな薬剤が処方されます。
たとえば、不眠症状が強い場合は、一時的に睡眠導入剤が処方されることがあります。[4]
また、気分の浮き沈みが激しい場合は、気分安定薬と呼ばれる炭酸リチウム(リーマス)も考慮されるでしょう。[5]
育児ノイローゼでは、症状の種類や程度に合わせて、最適な薬剤を医師が処方します。その人の細かな症状にも着目し、日々のつらさを緩和できる治療を目指します。
先生に今の困っていることについて、素直に相談してみましょう!
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育児ノイローゼの薬物療法での注意点
育児ノイローゼの薬物療法では、薬の種類に関わらず副作用には十分注意する必要があります。とくに眠気やふらつきは、育児中の母親にとって日常生活に支障をきたすこともあるでしょう。
また、薬の種類によっては効果が現れるまでに時間がかかることもあります。[2]効果がないからといって自己判断で服用を中止すれば、再び症状が悪化する可能性があります。
育児ノイローゼの薬物療法では、副作用や正しい服用方法を理解し、定期的に医師と相談しながら薬を調整することが大切です。
副作用のつらさはあなたにしか分からないので、感じたままに相談して大丈夫ですよ。
育児ノイローゼでの薬を用いない治療法
育児ノイローゼの治療は、薬物治療だけではありません。他にも、カウンセリングや認知行動療法などの精神療法があります。
カウンセリングでは、専門家とともに育児ノイローゼの原因となっている事柄を探り、「生活環境やライフスタイルをどのように改善すべきか」について考えます。必要に応じて家族を交えながら、ライフプランや母親に対するサポート方法について話し合う場ともなるでしょう。[4]
認知行動療法は、患者が抱える「こうあるべき」「こうしなければならない」といった考え方のクセを、専門家とともに修正していく治療法です。育児に対する完璧主義な考え方や、うまくいかない自分に対するネガティブな見方などを改めることで、心理的な負担を軽減できるでしょう。[6]
精神療法では、薬では解決しきれない環境面や心理面での問題に対処することが可能です。育児ノイローゼの治療では、カウンセリングや認知行動療法を、薬物療法と組み合わせて行うことで、症状の緩和と根本原因の解決につなげていきます。
認知行動療法について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてみてください。
授乳中でも育児ノイローゼの薬物治療はできますか?
授乳中でも薬物治療を受けられますが、注意すべき点もあります。
処方される薬の種類によっては薬の成分が母乳へ移行することが知られており、服用した薬が赤ちゃんに影響を与える可能性は否定できません。そのため、完全母乳での育児の継続が難しくなる場合があります。[7]
一方で、薬物治療によって育児ノイローゼの症状が改善されれば、自分自身の体調の回復や育児への前向きな姿勢につながります。
授乳中の薬物治療は、薬を服用することによるメリットとデメリットを、慎重に検討する必要があるといえるでしょう。
育児に正解はないので、あなたや家族の考えで良いんですよ♪
授乳中の薬の服用について、医師から以下のような提案がなされる可能性があります。
- 母乳へ移行が少ない薬剤を選択する
- 薬の服用中は、人工栄養(ミルク)に切り替える
- 精神療法のみの治療とする(母乳育児を継続したい場合)
いずれの場合も、育児方針やライフスタイルについて家族で十分に話し合い、最善の選択をすることが大切です。
薬物治療と授乳の両立は難しい側面もありますが、母親と子どもの健康を第一に考え、納得のいく選択をしましょう。
育児ノイローゼの薬はどれくらいで効果が現れますか?
薬剤の効果が現れるまでの期間は、薬の種類によって異なります。
抗うつ薬の場合、完全な効果が現れるまでに2~4週間ほどかかるといわれています。[2]
一方、抗不安薬は、服用を開始してから数時間で不安症状が和らぎ、数日程度で十分な効果が得られるでしょう。[3]
ただし、薬の効果は個人差が大きいため、効果が現れるまでの目安を過ぎても症状の改善が見られない場合は、医師に相談してください。
また、薬物療法に加えて、カウンセリングや認知行動療法を並行して受けることで、より早い回復が期待できます。
育児ノイローゼの薬はどのくらいの期間飲み続けるものですか?
育児ノイローゼで処方される薬の服用期間は、個人の症状の程度によって大きく異なります。
産後うつの場合、軽症であれば数カ月で症状が和らぐこともありますが、症状が重い場合は1年以上の治療が必要となることもあります。育児ノイローゼの場合も、症状の経過には個人差が大きいのが実情です。
また、抗うつ薬は、基本的に長期間の継続した服用が必要となります。症状が改善された後も、再発を防ぐために一定期間は服用を継続することが推奨されています。[2]
服用期間の正確な目安には個人差がありますが、医師とよく相談しながら、症状の経過に合わせて薬の種類や量を見直していくことが大切です。
おおかみこころのクリニックでは、十分に相談を重ねながら治療を受けることが可能です。いつでもご相談をお待ちしております。
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また、産後うつが治るまでの期間については、こちらの記事を参考にしてください。
まとめ
育児ノイローゼは、育児によるストレスから引き起こされる不安や気分の落ち込みなどの症状が表れている状態のことです。治療法の一つとして薬物療法があり、おもに抗うつ薬や抗不安薬が使われます。
薬物療法にはメリットもありますが、副作用にも注意が必要です。カウンセリング、認知行動療法などの心理的なアプローチを組み合わせることで、育児ノイローゼの原因の解決と症状の緩和に効果が期待できるでしょう。
育児ノイローゼの薬物療法は、その人の症状の経過に合わせて、医師と十分に話し合いながら進めます。薬を上手に活用し、育児ノイローゼを乗り越えていきましょう。
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参考文献
[1]CQ14.産後精神障害の薬物療法は?|周産期メンタルヘルスコンセンサスガイド2023
http://pmhguideline.com/consensus_guide/cq14.pdf
[2]抗うつ薬|e-ヘルスネット
[3]精神安定剤 / 抗不安薬|e-ヘルスネット
[4]3 うつ病の治療と予後|こころの耳
https://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/ad003/
[5]リーマス錠100/リーマス錠200|PMDA
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1179017F1056_1_18/
[6]認知行動療法(CBT)とは|国立精神・神経研究医療センター 認知行動療法センター
https://cbt.ncnp.go.jp/contents/about.php
[7]CQ7.向精神薬の母乳育児への影響は?(薬物の影響と授乳のメリット)|周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド 2023
http://pmhguideline.com/consensus_guide/cq07.pdf
- この記事の執筆者
- 原田瑞季
臨床検査技師。保健学修士。在宅で医療検査の業務に関わりながら、フリーライターとして医療を中心に幅広いジャンルで執筆中。