「吐くこと」への強い恐怖や不安から、外食を避けたり、乗り物に乗れなくなったりすることはありませんか?このような症状は、嘔吐恐怖症の可能性があります。
嘔吐恐怖症とは、成人の約8%が発症するとされる「限局性恐怖症」のひとつです。[1]適切な治療や対処をすれば、改善できる病気です。「吐くこと」に強い不安があれば嘔吐恐怖症なのかどうか、診断をして確かめてみましょう。
この記事では、嘔吐恐怖症の特徴やセルフチェックを紹介します。対処法や治療法についても解説するので、自分の状態を理解し病院に相談するきっかけにしていただければ幸いです。
この記事の内容
嘔吐恐怖症とは
嘔吐恐怖症の特徴を次の3つに分けて紹介します。
それぞれについて見ていきましょう。
嘔吐恐怖症の症状
嘔吐恐怖症の症状は、心と体の両方にあらわれます。
心の症状としては、人混みや外食時、乗り物での移動中など、嘔吐する可能性がある状況に対して強い不安を感じます。とくに、自分や他人が吐くことへの恐怖が出やすいです。[2]
体の症状としては、以下のものがあらわれます。
- 動悸
- 吐き気
- めまい
- 胃の痛み
たとえば、外食時に「食べ物が腐っていたらどうしよう」と考えるだけで、吐き気や動悸などの症状が出てしまうのです。
また、嘔吐に関連する言葉や映像を見ただけでパニック発作を起こすこともあります。このような症状が続くと、次第に外出を控えるようになり、行動範囲が狭まってしまうのです。
「吐くかも…」と気になったら出かけにくいですよね💦
嘔吐恐怖症の原因
嘔吐恐怖症の原因には、おもに次の3つがあります。
- 不安になりやすい性格
- 過去に強いトラウマを経験
- 他の不安障害との関係
不安になりやすい性格の方は「吐くこと」に不安を感じます。「吐き気がする、でも人前で吐くなんてできない」と考えてしまうと、より不安が強くなるのです。
また、幼少期に病気で嘔吐を繰り返した経験や、家族や友人が激しく嘔吐するのを見た経験なども、嘔吐恐怖症のきっかけとなります。
さらに、パニック障害や社交不安障害など他の不安障害と関連して発症することもあるとされています。
嘔吐恐怖症が生活に与える影響
嘔吐恐怖症は、日常生活に以下のような支障をきたす可能性があります。
- 食事が制限される
- 公共交通機関の利用を避ける
- 友人や同僚などとの付き合いが減る
嘔吐恐怖症になると食事への制限が強くなります。たとえば、外食を避けたり自宅でも消費期限にこだわりすぎたりしてしまうのです。
また、電車やバスなどの公共交通機関の利用を避けるケースもあります。人混みに行けなくなると、仕事や学校生活に支障が出るのです。
さらに、友人との食事会や飲み会を断り続けることで、次第に付き合いが減少していきます。結果として孤立感を深めたり、うつ症状を併発したりするケースも報告されています。[3]
嘔吐恐怖症のセルフチェック
以下のセルフチェックを使って、あなたが嘔吐恐怖症の可能性があるかを診断してみましょう。
▢ 乗り物に乗る前に、吐き気や嘔吐の不安を強く感じる
▢ 人混みや公共の場所で、他人が嘔吐する可能性を考えると不安になる
▢ 家族や友人が体調を崩して嘔吐した際、介護や世話をすることに強い抵抗を感じる
▢ 自分が吐いてしまうかもしれないという考えが頭から離れず、日常生活に支障をきたすことがある
▢ 嘔吐に関連する映像や音を見聞きすると、過度の不安や恐怖を感じる
▢ 外食や人と食事をする機会を避けるようになっている
▢ 嘔吐の可能性がある状況(飲酒、妊娠など)を極端に避けている
▢ 吐き気を感じると、パニックになったり冷や汗が出たりする
▢ 嘔吐に関連する言葉や話題を聞くだけで、強い不快感や不安を覚える
▢ 嘔吐への恐怖から、外出を控えたり、特定の場所や状況を避けたりすることがある
あてはまる項目が多いほど、嘔吐恐怖症の可能性があります。ただし、このセルフチェックはあくまで参考程度のものです。症状が日常生活に支障をきたしているときは、病院への相談を検討してみてください。
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吐き気がするときの対処法
吐き気がするときの対処法には、3つあります。
それぞれについて詳しく解説します。
楽な姿勢で過ごす
吐き気を感じたときは、まず姿勢を整えることが重要です。
横向きに寝た状態で、膝を軽く曲げて体をリラックスさせましょう。この姿勢をとると、胃の内容物が食道に逆流するのを防ぎ、吐き気を和らげることができます。
また、横になり頭を少し高めにすることも効果的です。枕を2つ重ねたり、背もたれを30度ほど起こしたりすれば、胃酸の逆流を防げます。深呼吸を意識しながら行うと、自律神経のバランスが整いやすくなるため、より効果的です。
ゆったりとした洋服に着替える
吐き気があるときは、体を締め付けない服装に着替えることが効果的です。
きつい服やベルトは胃を圧迫し、不快感を強める原因となります。とくにウエスト周りを締め付けないよう注意が必要です。
たとえば、ゆったりとしたTシャツやパジャマに着替えると、体への圧迫感が軽減され、自然と呼吸も楽になります。また、襟元がきつい服も避け、首回りにも余裕を持たせましょう。下着も緩めのものに変更したり外したりすると、胸部の圧迫感を軽くできます。
服装を変えると体への負担が減り、リラックスした状態になります。体調に合わせて、快適な服装を選ぶようにしましょう。
緊張しそうな場所はゆったりとした服装で出かけるとよいですね!
少量を5~6回ずつに分けて食べる
一度に多くの量を食べると胃への負担が大きくなるため、1日の食事を5~6回に分けて少量ずつ摂取しましょう。
たとえば、お粥やうどんなど消化の良い食べ物を選び、一口ずつゆっくりと時間をかけて食べると、胃への負担を最小限に抑えられます。食事中は水分を控えめにしましょう。水分をとると噛む回数が減って唾液が少なくなり、消化に悪影響が出てしまいます。食間に少しずつ摂取するようにしましょう。
また、冷たすぎる食べ物や熱すぎる食べ物は胃を刺激する可能性があるため、常温に近い温度の食事を選んでください。脂っこい食べ物や刺激物は、胃に負担をかけるため避けましょう。
嘔吐恐怖症の治し方
嘔吐恐怖症の治療には、薬物療法と心理療法の2つがあります。
薬物療法では、抗不安薬や抗うつ薬を使用することで、強い不安症状を和らげることができます。ただし、薬には副作用があるため、医師との相談の上で決める必要があります。
心理療法では、曝露療法や認知行動療法が行われます。曝露療法とは、患者が恐れている状況や物事に徐々に慣れることで、不安を軽くする方法です。認知行動療法とは、思考パターンや行動を見直し、偏った思考をポジティブなものに変える方法です。
薬物療法と心理療法の2つを併用するケースもあるため、医師と相談しながら治療を進めてください。
まとめ
嘔吐恐怖症は、適切な治療で改善できます。症状に気付いたら、ひとりで抱え込まず、早めに病院に相談することが大切です。
また、症状が軽いうちからリラックス法や深呼吸などの対処法を身につけておくと、症状の悪化を防げます。
治療を始めてからも、一歩一歩着実に進んでいくことが重要です。周囲のサポートを得ながら、ゆっくりと回復を目指していきましょう。焦らず自分のペースで治療に取り組むことが、確実な改善につながります。
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【参考文献】
[1]限局性恐怖症|MSDマニュアル家庭版
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/10-心の健康問題/不安症とストレス関連障害/限局性恐怖症
[2]パニック症と広場恐怖症が合併した嘔吐恐怖症に対する認知行動療法の一症例報告ー他者評価の調査(世論調査)を取り入れた治療モデルー,松本一記,清水栄司,濱谷沙世,関陽一,吉野晃平,白山幸彦,佐藤康一
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbct/45/2/45_18-212/_pdf
[3]Comorbidity in Emetophobia (Specific Phobia of Vomiting),Mark Sykes, Mark J. Boschen, Elizabeth G. Conlon
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/cpp.1964