先生、バルプロ酸の血中濃度が低いとどうなるの?
効いていれば問題ないけど、人によっては、てんかん発作が起こる可能性があるから増量したり、他の薬を追加したりしなければならないことがあるよ
バルプロ酸はもともとはてんかんの薬ですが、現在では、躁病や躁うつ病の躁状態、片頭痛発作の発症抑制にも使われている薬です。デパケン、服用回数が少なくて良い徐放錠はデパケンRなどという名前で販売されています。
バルプロ酸の血中濃度が低い場合、てんかん発作が治まっていれば問題ありません。しかし、人によってはてんかん発作が起こる可能性があります。
この記事では「バルプロ酸の血中濃度が低くなる条件」「血中濃度の基準値」「血中濃度測定を行うべきタイミング」について解説します。
この記事の内容
バルプロ酸の効果と作用
バルプロ酸はもともとはてんかんの薬ですが、現在では、躁病や躁うつ病の躁状態、片頭痛発作の発症抑制にも使われている薬です。
抗てんかん薬の発作抑制は、神経細胞の過剰興奮性抑制によるものです。バルプロ酸の場合は、電位作動性ナトリウムチャネルを抑制することで神経細胞の興奮性を抑制しています。また、抗躁作用や片頭痛発作の発症抑制作用はGABA神経伝達促進が寄与していると考えられています。
バルプロ酸の血中濃度が低いとてんかん発作が起こる可能性がある
てんかん発作が抑えられているのであれば、血中濃度が低くても問題ありません。逆に、血中濃度が高くてもてんかん発作が抑制できていないのであれば、増量などの必要があると判断します。
つまり、バルプロ酸の血中濃度に関係なく、てんかん発作が抑制できない場合に増量もしくは他薬との併用、変薬を検討します(今日の治療薬解説と便覧2017)。
しかし、難治性てんかん、辺縁系発作、精神障害の家族歴や既往のある例では、精神症状合併のリスクがあり、抗てんかん薬の多剤併用、急速増量、高用量投与には注意が必要です。
そのため、てんかん患者で精神症状が出現したり、悪化したりした場合は抗てんかん薬との関連を疑うことが重要です。
精神科医が知っておきたい抗てんかん薬の使い方・付き合い方|抗てんかん薬と精神症状
バルプロ酸の血中濃度が低くなる条件
バルプロ酸の血中濃度は以下のような場合は、低くなる可能性があります。
バルプロ酸の代謝を誘導する薬剤を併用している場合
バルプロ酸の大部分は肝臓で代謝されており、ヒトでは主に、グルクロン酸抱合、β-酸化などを受けることが報告されています。したがって、バルプロ酸の代謝を誘導する薬剤を併用している場合は、バルプロ酸の血中濃度が低くなる可能性があります。
バルプロ酸の代謝を誘導する薬剤の例を以下に挙げました。
薬剤名 | |
鎮静・睡眠・抗不安作用のあるバルビツール酸系薬 | フェノバルビタール(該当資料なし)など |
抗てんかん薬 | フェニトイン(代謝酵素誘導)、カルバマゼピン(機序不明) |
抗ウィルス薬 | グルクロン酸抱合を誘導:リトナビル、ニルマトレルビル・リトナビル、ロピナビル・リトナビル配合剤など |
可能性のあるすべての薬剤について検討しているわけではないので、例になくてもバルプロ酸の血中濃度が低くなる可能性があります。
すでに他の医薬品を併用している方で心配な方は、お薬手帳をご持参の上、医師・薬剤師にご相談ください。
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血漿中タンパク濃度が低下している場合
バルプロ酸はタンパク結合率が高い薬剤(90%超)なので、治療域でも飽和が観察されます。飽和が生じると遊離型バルプロ酸が増加して、臓器などの組織へ移行します。
血漿中タンパク濃度が低下している状態の例として挙げられるのは、低アルブミン血症や腎不全の末期などの場合です。多くの場合、血漿中のバルプロ酸濃度は変わらないかやや低くなります。遊離型VPA濃度が上昇しているので、むやみに濃度を高くしない方が良く、血中濃度コントロールの目安は「低め」です。
公益社団法人福岡県薬剤師会|質疑応答|バルプロ酸ナトリウムの投与量を増加しても血中濃度が上昇しない理由は?(薬局)
バルプロ酸の血中濃度の基準値とは
バルプロ酸の基準値は50~100㎍/mLです。抗てんかん薬の基準値、すなわち有効血中濃度とは、てんかん発作が抑制され、副作用が少ない範囲を示しています。投与量・投与方法・投与計画は基準値を目安に決めます。
ですが、ある個人の治療域は、必ずしも基準値内に収まっているわけではありません。
治療域とは、ある個人にとって最も発作抑制効果が得られる血中濃度であり、たいていの場合、基準値に入るかその近傍にあります。しかし、個人差があるので、基準値の範囲外でも治療効果がみられることが多く、基準値の血中濃度より低くても有効な場合や、それより高くないと効かない場合があります。したがって、その個人にとっての治療域の血中濃度が重要なのであり、効いていれば低くても高くても問題ありません。
バルプロ酸の血中濃度測定はどのようなときに行うか
バルプロ酸の血中濃度測定は患者の治療方針の検討に有用なので、明確な目的を持って行います。
バルプロ酸の血中濃度を測定する一般的な適応は以下のとおりです。
- 抗てんかん薬を開始、または量を変更した場合に、医師がその患者に対する目標濃度を決めたい場合
- 望ましい発作抑制状態が得られた場合に、その個人に対する治療域の血中濃度の確定
- 用量増量幅を決定するため。特に用量依存性の薬理動態を示す抗てんかん薬の場合(フェニトインが最も顕著)
- その薬剤に関連する副作用を示唆する症状や徴候の診断が不確実なとき、あるいは副作用の評価が臨床的に困難な場合(小児、知的障害者)
- 適切な量にもかかわらず発作が存続する場合
- 年齢、妊娠、依存症、薬物相互作用などにより薬理動態の変化(したがって必要量も変化)が疑われる場合
- 剤型の変更や後発医薬品への変更により定常状態の血中濃度が変化したかを評価する場合
- 臨床上予期せぬ変化が起こった場合
- アドヒアランス不良が疑われるときの服薬状況の確認
てんかん診療ガイドライン|抗てんかん薬の血中濃度モニターを行う一般的な適応
このように、バルプロ酸の血中濃度測定は、無目的に、定期的にするのではなく、臨床上の必要に応じて行います。
Q1. バルプロ酸の血中濃度が高いとどうなりますか?
バルプロ酸の血中濃度が高い場合、以下のような場合が考えられます。
- その個人にとっては最適でてんかん発作も副作用も起きていない
- その個人にとっては十分でなく、まだてんかん発作を抑制できていない
- その個人にとっても高すぎて、副作用が起きてしまう可能性がある
1.である場合は問題ありません。2.である場合はさらに増量、他薬との併用、変薬を検討します。3.である場合は副作用が起きてしまう可能性があります。
バルプロ酸の副作用は以下にも説明がありますので、読んでみてください。
デパケン(バルプロ酸)は効果が出るまで【1週間以内】副作用や質問を精神科医が解説|デパケンの副作用
Q2. バルプロ酸を急にやめるとどうなる?
バルプロ酸を急にやめたり、量を減らしたりすると、てんかん重積状態(※)が現れたり、症状が悪化してしまったりすることがあるので注意が必要です。
※てんかん重積状態:発作がある程度の長さ以上続くか、短い発作でも反復し、その間に意識の回復がないもの。
持続時間ではけいれん発作が5分以上持続すれば治療を開始すべきで、30分以上持続すると脳に損傷が起きて、後遺障害の危険性がある。
バルプロ酸の血中濃度が低いとてんかん発作が起きる可能性がある|まとめ
この記事では、バルプロ酸の血中濃度が低くなる条件、血中濃度の基準値、血中濃度測定はどのようなときに行うかについて解説してきました。
バルプロ酸の血中濃度が低い場合は、てんかん発作や症状の悪化が起こる可能性があります。ただ、バルプロ酸の適正な血中濃度には個人差があり、バルプロ酸の血中濃度と薬効にはあまり関係がないとされています。
バルプロ酸の血中濃度測定をするのは、臨床上の必要がある場合のみです。患者の治療方針の検討のために行い、通常、定期的には行いません。
デパケン(バルプロ酸)の飲み方について不安があれば、いつでもおおかみこころのクリニックにご相談ください。
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参考文献
今日の治療薬解説と便覧2017(南江堂)
精神科医が知っておきたい抗てんかん薬の使い方・付き合い方|抗てんかん薬と精神症状
公益社団法人福岡県薬剤師会|質疑応答|バルプロ酸ナトリウムの投与量を増加しても血中濃度が上昇しない理由は?(薬局)
- この記事の執筆者
- 藤野紗衣
薬剤師。精神科病院に勤務経験あり。現在は薬剤師ライターとして執筆活動中。