抗不安薬は、神経伝達物質であるGABAの働きを強めることにより、興奮を抑えて不安や緊張を改善する薬です。
この記事では「抗不安薬の分類」「抗不安薬が効かない原因と対処法」について解説します。
抗不安薬の種類と分類パターン
抗不安薬はたくさんあり、個々の薬によって副作用などの特徴が異なります。そのためいろいろな分類のしかたがありますが、主な分類パターンは以下の2つです。
臨床では作用時間長さによる分類の方が分かりやすいです。
薬の効いている時間がわかると安心しますね!
作用時間の長さによる抗不安薬の分類
作用時間による分類は大きく4つです。作用時間が短いものは効果を実感しやすい反面、依存を生じやすいという欠点があります。下記に血中半減期の長短に応じた分類を挙げました。
【作用時間の長さによる抗不安薬の分類】
作用時間 | 薬品名 | 血中半減期(時間) |
短時間型 | グランダキシン | 0.8 |
リーゼ | 6.3 | |
デパス | 6.0 | |
セディール | 1.4 | |
中間型 | ソラナックス | 14.0 |
ワイパックス | 12.0 | |
レキソタン | 20.0 | |
長時間型 | レスミット | 120.0 |
バランス | 10.0 | |
メレックス | 60–150 | |
セパゾン | –* | |
セルシン/ホリゾン | 63.8 | |
超長時間型 | メイラックス | 110 |
参考:今日の治療薬解説と便覧2017(南江堂)|抗不安薬の作用時間と作用強度、血中半減期は各薬剤の添付文書もしくはインタビューフォーム
*:添付文書・インタビューフォームに記載なし
不安症状を和らげる強さ
不安症状を和らげる強さによる分類は大きく3つです。抗不安薬には不安を抑える作用の他に、筋肉を緩める、眠りにつきやすくする、痙攣を止めるなどの働きもあります。したがって、ただ強ければ良いというものではなく、患者の心身の状況に合っていることが大切です。
【不安症状を和らげる強さによる抗不安薬の分類】
不安症状を和らげる強さ | 薬品名 |
弱 | グランダキシン、リーゼ、レスミット、バランス、セディール |
中 | デパス、ソラナックス、メレックス、セルシン/ホリゾン、メイラックス |
強 | ワイパックス、レキソタン、セパゾン、リボトリール |
参考:今日の治療薬解説と便覧2017(南江堂)|抗不安薬の作用時間と作用強度
作用時間の長さによる分類
臨床では、抗不安薬は作用時間の長さで分類するのが最も便利です。
各々の分類の中で、個々の薬剤の特徴について説明します。
①ベンゾジアゼピン系抗不安薬短時間型
【抗不安作用の強さの順】デパス>リーゼ>グランダキシン
短時間型の抗不安薬は、「1日3回毎食後」のように定時に服用するほか、発作時や苦手な状況の時など頓服としての使用も可能です。
グランダキシンは抗不安薬としても使われますが、本来は自律神経失調症などに使う薬剤です。デパスは筋弛緩作用もあるので緊張型頭痛や肩こり、催眠作用もあるので睡眠薬にも使われます。
②ベンゾジアゼピン系抗不安薬中間型
【抗不安作用の強さの順】レキソタン>ワイパックス>ソラナックス
中間型の抗不安薬は抗不安作用が強く、即効性があります。
ワイパックスは薬物相互作用と無関係に代謝されるので、身体疾患(特に肝疾患)のある人やたくさんの身体治療薬を服用している患者、高齢者などあらゆるケースに使用しやすい抗不安薬です。さらに、ワイパックスはアルコール依存(肝機能が良くない可能性がある)の離脱予防にも良く投与されます。
また、パニック発作が強いときに良く使われるのがソラナックスです。
③ベンゾジアゼピン系抗不安薬長時間型
【抗不安作用の強さの順】リボトリール>セパゾン>セルシン/ホリゾン
リボトリールはもともとてんかんの薬ですが、ベンゾジアゼピン受容体に高い親和性で結合するという作用機序から抗不安薬としても使われます。リボトリールはパニック発作が強い場合に有効です。
セルシン/ホリゾンには筋弛緩作用もあるので、緊張型頭痛や肩こりにも使われます。また、セルシン/ホリゾンには注射剤もあるので、服用できない場合は筋肉注射という方法もあります。
④ベンゾジアゼピン系抗不安薬超長時間型
【抗不安作用の強さの順】メイラックス
メイラックスは依存形成をしにくく、1日1回の服用で良いので使いやすいです。メイラックスは比較的副作用が少ないですが、副作用が出る場合、作用時間の長さから副作用もまた引きにくいという特徴があります。
⑤セロトニン1A部分作動薬短時間型
ベンゾジアゼピン系抗不安薬のように全身には作用しないので、副作用が少なく、長期投与や高齢者への投与に適しています。しかし効果発現までに2週間近くかかること、作用が弱いことが短所です。
抗不安薬が効かないのはヤバい?原因と対処法
抗不安薬が効かない原因としては、以下のことが考えられます。
- 効く抗不安薬を飲んでいない
- 生活療法を十分に行っていない
改善状況が目では分からないメンタル疾患。効果の把握のために、自分の生活や気持ちの変化を日記やメモに書いてみましょう。前の部分を読み返して、「効いている、効いていない」ことを知ることもあります。
日記やメモを書くときに、意外に大切なのが身体症状です。抗不安薬というと気持ちの変化ばかりに気が取られますが、頭痛がする、肩がこる、便秘するなどといった体の変化も医師に伝えましょう。自分の状態を正確にきちんと伝えることが、適切な抗不安薬の処方に繋がります。
自分自身と向き合うきっかけにもなりますよ
「禁酒」「禁煙」「睡眠」「運動」の生活療法はきちんと行っているかどうかも見直しましょう。不安障害を含め、メンタル疾患は薬だけを飲んでいても治らないと言われています。睡眠は7~8時間は取りましょう。睡眠不足だと脳内の神経伝達物質が不足してしまいます。
最近、見直されているのが運動療法です。ある程度強度の強い運動をすると、脳神経を活性化し、発生を助け、分化を促進、神経細胞の死を抑制する「脳由来神経成長因子(BDNF)」が分泌され、メンタル疾患に良い効果があるというものです。
軽いジョギングを45~60分、週3回するのがおすすめですが、最初は30分、週1回でも良いでしょう。しっかりした運動を習慣化していくのがポイントです。
抗不安薬を使う時の注意点
抗不安薬を使うときの注意点は、下記の記事で詳しく解説しています。
まとめ|数多くの抗不安薬から自分に合った最適なものを!
この記事では、抗不安薬の分類パターン、抗不安薬の作用時間による分類、抗不安薬が効かない原因と対処法について解説してきました。
抗不安薬は不安に対する強さが強ければ良いというものではありません。抗不安薬には作用時間の長さ、その他の作用、起こりやすい副作用などが違うたくさんの種類があります。医師は患者の訴えや年齢、持病などから判断して最適かと思われる薬を処方しています。
もし「抗不安薬の効果がない」というのであれば、自分の生活や気持ちの変化を日記やメモにして、気づいたことがあれば医師に伝えてみましょう。また生活療法も治療の一つです。「禁酒」「禁煙」「睡眠」「運動」を見直してみましょう。
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参考文献
今日の治療薬解説と便覧2017、南江堂
- この記事の執筆者
- 藤野紗衣
薬剤師。精神科病院に勤務経験あり。現在は薬剤師ライターとして執筆活動中。