人は誰しも嘘をついたことがあるはず。嘘をつくと罪悪感や後味の悪さを感じると思います。
でも、世の中には「平気で嘘をつく人」がいます。何度も嘘をつかれて振り回され、接し方に困っている人もいるかもしれませんね。
「平気で嘘をつく人」は病気や障害をもっている特別な人なのでしょうか?それとも、ただの性格?
常識では考えられないほどの嘘をつく場合は、虚言癖の可能性があるかもしれません。
今回は、虚言癖のある人の心理や対処法を解説します!
「虚言癖」とは
虚言癖とは、「どうしても嘘をついてしまう人間の性質」をあらわす言葉です。
“嘘をつく”行為は大きく分けると2パターンあります。
パターン①:本人が嘘だという自覚があるうえで嘘をつく
パターン②:嘘を真実だと思い込み、嘘をついている自覚がないまま話す
虚言癖は上記のパターン①を指すことが一般的です。
「虚言癖」自体は病気ではありませんが、その背景には何らかの障害や疾患が関係している可能性があります。
また、パターン②の場合は、解離性健忘や認知症、アルコール依存症などが原因となっている場合が多く、本人は嘘をついているという認識はありません。
虚言癖と関係のある障害・疾患
嘘をつくメカニズムは複雑なため、一概に「これは病気が原因」「これは性質」と分けるのは難しいです。
しかし、虚言癖は嘘の内容によって、原因となる障害や疾患があります。
ここからは、嘘をつく症状がある代表的な障害や疾患について解説します。
妄想性パーソナリティ障害
パーソナリティ障害のひとつで、非常に疑い深く、周りの人を敵と思い込みやすい特徴があります。また根拠がなくても、自分が被害を受けていると思えば、すぐに反撃に出ます。
そのため、周囲の反感を買い、ますますみんなが敵であるという思い込みが強まる、という悪循環に陥りやすいのです。
また、根拠のないことを真実だと思い込むため、結果的に嘘をついてしまうことになります。
ただし、苦痛を感じるとすぐに反撃するため、本人の問題意識は低いです。
反社会性パーソナリティ障害
パーソナリティ障害のひとつで、人をだますことや、あやつることへの抵抗感がなく、自分の欲しいもののためには何度でも平気で嘘をつく傾向にあります。
ルールや法律を守らないことも多く、そのことに対して罪悪感を持っていないのが特徴です。
また、結果を考えず衝動的に行動するため、自分の行動を振り返って反省することもありません。
演技性パーソナリティ障害
パーソナリティ障害のひとつで、「注目されたい」という気持ちがとても強いです。
周囲からの注目を集めるために大げさな話し方や思わせぶりな態度をとる場合や、仮病を使うこともあります。
しかし、表向きには明るく振舞っていても、実際は不安感や傷つきやすさを抱えている場合が多いです。
虚偽性障害
病人のふりをして病院を受診したり、入院したりする人のことをいいます。
本人に嘘をついている自覚はなく、「自分には身体的な病気がある」と信じています。
「病気である自分」を演じて、入院や治療を受けることが目的です。
- 会社を休みたい
- 入院して保険金を得たい
という目的があるわけではありません。
医療的なケアを受けるために、自分や子どもを傷つけることもあります。何度も繰り返しだますことで、人間関係へ悪影響を及ぼしやすいです。
発達障害
感情のコントロールが難しく、感じたことを衝動的に口走ってしまいます。
そのため、話したことが事実とは限らなかったり、話したことを覚えておらず嘘をついていると思われたりします。
- 話のつじつまが合わない
- 自分を守るために嘘を重ねる
という特徴があり、その嘘はすぐに分かるものであることが多いです。
その他の疾患
・解離性健忘
通常の物忘れでは、絶対に忘れないような名前などの個人情報を忘れてしまいます。
心理的外傷や災害などの大きなストレスを経験・目撃した場合に起こりやすく、嘘をついているというよりは、記憶がなく正しいことを話せない状態のことがほとんどです。
・アルツハイマー型認知症
認知症の原因として最も多い病気です。
記憶障害のために物忘れをしたり、見当識障害によって時間や空間、人、場所が分からなくなったりすることもあります。
短期記憶が障害されやすく、数時間前のことも覚えていないことがあります。
現実と自分の思い込んだことの違いが曖昧になりやすく、客観的に見ると嘘をついているように見えますが、病気のせいなので怒ったりせず、ひとまず受け止めてあげることが大切です。
・アルコール依存症
アルコール依存症では、脳の機能障害によってコルサコフ症候群に陥ることがあります。
記憶障害はコルサコフ症候群の特徴的な症状のひとつです。
抜け落ちた記憶でつじつまを合わせるために作り話をしますが、本人は嘘をついている自覚はありません。
平気で嘘をつく人の特徴
虚言癖の背景にある疾患や障害とも関係しますが、平気で嘘をつく人は承認欲求や安心感を強く求める傾向にあります。
また、世の中には病気でなくても、平気で嘘をつく人がいます。
そのような人は、自分がついた嘘によって何らかの不利益を被らない限り、嘘を重ねてもストレスや苦痛を感じず、良心も痛まない人が多いです。
嘘をつく人には、以下のような特徴が挙げられます。
疑り深く他人を信用しない
妄想性パーソナリティ障害の人は他人を信用しないことが多いです。
周囲の人々に不信感を抱きやすく、「悪口を言われている」「仕事を妨害される」などの嘘をつきます。本人は、事実と思い込んでおり、周囲の意見に聞く耳を持ちません。
また、自分の考えを変えることができず、周囲から孤立しがちです。
無責任、無計画
反社会性パーソナリティ障害の人は自己中心的かつ無責任な考えを持ちます。
後先を深く考えず、その場しのぎで嘘をついてしまうことがあるでしょう。
他の人への思いやりが乏しい
反社会性パーソナリティ障害の人には思いやりのなさが目立ちます。
一般常識に対するモラルが低く、自分の行動が周囲にどのような影響を与えるかを考えられない人が多いです。
相手の気持ちより自分の利益や欲求を満たすことを優先し、平気で嘘をついてしまいます。
自分の嘘で誰かが傷ついたり、迷惑をかけたりしても全く気にしません。
注目されたい
演技性パーソナリティ障害の人は目立ちたいという願望があります。
「話の中心にいたい」「すごい人だと思われたい」という感情から、嘘をついてしまいます。
その背景には「愛されたい」「寂しい」という気持ちが隠されており、幼少期の愛情不足や
人間関係が上手く築けないという悩みが原因の事もあります。
感情が急激に変化する
演技性パーソナリティ障害の人では、その感情が急に変化するという特徴があります。
話し方が芝居がかっていたり、強く意見を述べてもその意見を裏付ける事実がなかったり、と感情表現が大げさなわりに内容が薄いことが多いです。
本人も辛さを抱えている
平気で嘘をついて周囲を巻き込む一方で、本人も辛さを抱えています。
嘘をつく行為を繰り返していると、友人や職場とうまく人間関係が構築できず見放される不安があり、安定した社会生活が送れないことに悩む場合もあります。
ただし、うつ病などと違い「自分が悪い」とは思っていないため、友人や職場を責めることも多いです。
また、このような状態が若い頃から続いており、本人は思春期ごろから生きづらさを感じています。周囲と円滑にコミュニケーションが取れない、辛さを理解してもらえないという思いもありますが、本人もどうしてこうなったのか分からないため苦しんでいます。
個人での対処方法(接し方)
友人など身近な人に虚言癖があれば、「助けてあげたい」「何とかしてあげたい」という気持ちを持つかもしれません。
しかし、適切な対応をしなければ嘘に巻き込まれてしまったり、相手の嘘を助長させてしまったりする恐れがあります。
以下のような対応を心がけてください。
適度な距離で接する
虚言癖の人は、自分の言動で相手を混乱させているという自覚はありません。
求められるがまま対応をしていると、依存関係になったり相手からの要求が大きくなり。対応に疲れてしまいます。
理不尽な嘘に振り回されないよう自分をしっかり持ち、一定の距離を保って接しましょう。
冷静に話を聞く
大げさな反応をせず、冷静に話を聞くことが大切です。
虚言癖の人は、相手が反応してくれることが嬉しく、さらに気を引くために嘘を重ねてしまう可能性があります。
相手の言動を見て、嘘をついているかもしれないと感じたら、淡々とした態度で接してうまく聞き流しましょう。
一人で対応しない
虚言癖のある人と大事な話をするときは、複数人で話すことをおすすめします。
虚言癖のある人は、自己防衛本能も強く「この前、こう言った」と伝えても、「そんなことは言っていない」と言い張ります。
不利な立場に追い込まれることを防ぐためにも、一人で対応することは避けましょう。
頭ごなしに否定しない
虚言癖のある本人に、嘘をつかれるのは嫌だ、とはっきり伝えることも大切です。
しかし「あなたはいつも嘘をついている」と真正面から伝えると相手も感情的になりやすいです。
また、嘘を正当化するために新たな嘘をつく場合もあるので注意してください。
直接相手を否定するのではなく、「私は、その話は真実だと思えないから混乱している」「私は正直に話してほしい」というようなコミュニケーションの仕方を意識してみてください。
職場での対処方法(接し方)
虚言癖のある人が職場にいると、仕事が進まない、大きなトラブルが発生するなどの可能性があります。
そういったことに巻き込まれないためにも、職場だから、と割り切って冷静に対応することが大切です。
会社の規則(就業ルール)を守らせる
問題行動がみられる場合は、きちんと会社の規則を守らせることが大切です。
規則が明確であれば、規則に沿って処分を下すことができますし、本人が納得すれば問題行動は少なくなるでしょう。
本人の訴えに偏りがある場合は、記録やデータを見せて話す
トラブルが起きた時にどのような発言があったか、などの記録を取っていると、万が一の時の証拠になります。
やり取りをメールやチャットで行い記録に残す、相手の指示や発言をボイスレコーダーに録音するなど、後から「言った」「言わない」で揉めても大丈夫なように記録を残します。
注意すべき点は、相手を責めるために証拠を残すのではなく、事実を確認してもらうために残すということです。
相手を責めると、自分を守るためにさらに嘘をついて収集がつかなくなる可能性もあるので、相手への対応も冷静に行いましょう。
配置換えを希望する
上記のような対応をしても改善されない、または、上司に虚言癖がある、という場合、個人の対応ではどうにもならない場合もあります。
どうしても振り回されてしまうのであれば、自分の身を守るために、自身の配置換えを希望するのもひとつの方法です。
困ったらここに相談しよう
虚言癖で悩んでいる人は、精神科や心療内科を受診しましょう。職場での関係性に悩んでいる場合は、産業医に相談するのも有効です。
受診する際は
- 日常生活や職場でどのような支障が出ているか
- いつから、どのくらい、どのような嘘をついているか
など、具体的なエピソードを伝えると診察がスムーズに進みます。
おおかみこころのクリニックでは24時間予約受付を行っているので、まずはLINEの友達登録をしておいてくださいね。
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まとめ
虚言癖のある人は、背景に何らかの障害や疾患を抱えている場合が多いです。
身近な人に虚言癖がある、という場合は病院受診を促してあげることも大切です。
そのためにも、自分自身が正しい距離を保ち、相手に巻き込まれないようにしましょう。
虚言癖の治療方法については、別の記事で詳しく解説します。
- この記事の執筆者
- なのか
医療・健康ライター。保健師として11年勤務。安心感を届けられるような記事を執筆します。