「早口や小声が分かりにくい」
「最近ガヤガヤした場所で人の話が聞きとりにくい」
このように、周りの人の話が聞き取れずに悩んでいませんか?
聴力検査をしても異常がなく人との話が聞き取りにくいならば、聴覚情報処理障害(APD)かもしれません。
この記事では、APDはどのように診断されるのか、APDの診断テストについて詳しく解説します。
あなたの「なぜ聞きとりにくいのかな…」という悩みが軽くなるきっかけになりますと幸いです。
この記事の内容
APDの診断基準は確立されていない
聴覚情報処理障害(APD)には、はっきりとした診断基準がありませんが、疑われる条件は以下の3つです。[1]
・聴力検査で異常がない
・APDの症状がある
・耳で聞いた情報を処理できるかを検査し1つ以上の低下が見られる
たとえば、話しかけられても聞き返すことが多く、耳鼻科に行き聴力低下があった場合はAPDとは診断されず、聴力の治療を行います。
APDの症状は、以下のとおりです。[1][2]
- 聞き間違える
- 早口や小声は聞き取れない
- 雑音の中で言葉が聞き取れない
- 口頭のみで伝えられても忘れてしまう
- 長い話は注意していても聞き取れない
- 目で見た情報よりも耳で聞いた情報の理解ができない
問診でAPDの症状を伝え、診断テストを受け医師がAPDかどうかを判断します。
「もしかしてAPDかも」と思ったら、まず耳鼻科で聴力検査を受けましょう。

聴力に問題がないかを耳鼻科で診てもらいましょう
APDの治し方については、下記の記事をご覧ください。
APD診断テスト
聴覚情報処理障害(APD)を診断するためには、耳で聞いた情報をうまく処理できているかに関する診断テストを受け、1つ以上の低下があるかを検査する必要があります。
ただし、静かな環境で検査をしても、日常生活での聞き取り困難な状況とは異なるため正確な検査結果は得られません。[2]
早口は聞き取れるのか、ガヤガヤした状況で聞き取れるのかなど、さまざまな状況下での検査が必要です。
おもなAPDの診断テストは、以下のようなものが挙げられます。[3]
ほかにも、原因を探すために認知や心理面の検査を行うこともあります。

病院によって検査は異なるかと思います。
先生に相談してくださいね。
フィッシャーの聴覚情報処理チェックリスト
フィッシャーの聴覚情報処理チェックリストを構成するのは、25項目による自己記入方式の質問です。[3]
以下のような聴覚処理要素が挙げられます。[4]
- 難聴
- 注意
- 識別
- 中耳疾患の既往
- 理解等の聴覚情報処理
質問内容は以下のとおりです。
- 難聴の生育歴を持っている
- 耳の炎症の病歴を持っている
- 指導時間の半分もしくはそれ以上の時間、(聴く)集中力が続かない
- 指導を注意深く聴いていない-指導を繰り返さなければならないことが良くある
- 「え?」または「何?」という言葉を 一日に少なくとも5回あるいはそれ以上言う
- 数秒以上の音刺激に集中できない
- 集中力の続く時間が短い
この項目にチェックつけた場合、最も近いと思われる時間枠にもチェックして下さい
▢0-2分 ▢5-15分
▢2-5分 ▢15-30分 - 空想にふける・注意力がそれる・それが一度ではない
- 背景の音がするとすぐに気が散りますか
- 発音の学習が困難である
- 音の識別に関して困難を感じたことがある
- 何と言ったか数分で忘れてしまう
- 日々の簡単な決まりきったことを覚えられない
- 先週、先月、昨年に聴いたことを思い出すことに問題がある
- 聴いたことがあることの順序性を思い出すことが困難である
- 音源の方向を探査することが困難だったことがある
- しばしば言われたことを間違って理解している
- その年齢/学年の言語力を考えても多くの言葉が理解できない
- 聴覚チャンネルを通しての学習がうまくいかない
- (形態論、文法、語彙、音韻に関する)言葉の問題がある
- 発音(音韻)に問題がある
- 聴いたことと見たことを関係付けることが常にできない
- 学習意欲に欠ける
- 音声刺激に対する反応が遅い、もしくは遅れる
- 1つ以上の学習領域で平均点以下の成績のものがある
評価方法は、チェックしなかった項目1つを4%とします。
聞こえにくさがまったくない場合は100%です。APDが疑われるのは72%以下とされています。
聞こえにくさのチェックシート
小渕の聞こえにくさのチェックシートは、15歳以上を対象にしたAPDの診断テストです。[5]
16項目の質問があり、以下の4項目各4つの質問で構成されています。
- 音声聴取
- 空間知覚
- 聞こえの質
- 心理的側面
質問内容は以下のようなものがあります。[6]
- テレビがついている部屋の中で会話するとき、相手の話を聞きとったり、質問に答えられますか?
- テレビのニュースを見ているときに、だれかがあなたに話しかけられてきました。あなたは両方の人(テレビで話している人と話しかられた人)の話を聞くことができますか?
- 多くの人が話している部屋での会話で、相手の話を聞き取ったり、質問に答えられますか?
- 騒がしいレストランの中で、5人位のグループで話をしています。あなたは全員の顔や様子をみることができます。このような場面で会話ができますか?
各質問を0~10点で答える質問形式です。
合計は160点満点で、109 点以下で APDの可能性が高いと報告されています。[5]
聴覚情報処理検査(APT)
聴覚情報処理検査は、八田-太田版APTと小渕版APTの2種類があります。
2つの検査内容は似ていますが、それぞれ別の検査でつながりはありません。
検査項目は以下のようなものがあります。[3]
- 単耳検査
- 両耳分離聴検査
- 時間情報処理検査
- 雑音下聴取検査
- 両耳融合能検査
APDが生じるさまざまな環境下での検査項目があり、細かな基準値が設けられています。
ただし、聴覚情報処理検査の成人正常基準値は公開されていません。[3]
APD診断テストをする際の注意点
聴覚情報処理障害(APD)の症状がありAPDが疑われる場合は、聴覚情報処理に関係する診断テストを行います。
しかし、APD自体の明確な診断基準がないため、診断テストを行っても「APDの疑いがある」という結果が分かるだけであり、診断を確定させるものではありません。
また、どの診断テストを用いるかは、診察で症状を聞いたり既往歴などを参考にしたりして医師が判断します。
聴覚情報処理に関係するテストのみでの判断も難しく、背景にある原因を探る必要性がある場合は、以下のような検査を実施することがあります。[2]
- 発達障害の傾向
- 認知機能の分析
- 精神・心理状態の把握
なぜ聞き取りにくいのかを調べるために、困っている症状を診察で聞いたり、さまざまな検査を行ったりするのです。
まとめ
聴覚情報処理障害(APD)には、はっきりとした診断基準はありません。
APDは、雑音の中で言葉が聞き取れなかったり聞き間違えたりする症状があります。
以下にあてはまるときに、APDが疑われます。
・聴力検査で異常がない
・APDの症状がある
・耳で聞いた情報を処理できるかを検査し1つ以上の低下が見られる
耳で聞いた情報を処理できるかを検査するには、以下のようなものがあります。
どの検査を用いるかは医師が判断します。
日常生活で困っている症状を、あなたの思いのままに相談してください。
おおかみこころのクリニックでは、あなたの日常の悩みや困りごとに寄り添います。
忙しくて来院が難しい場合は、オンライン診療も行っておりますのでご活用いただけますと幸いです。
24時間予約受付中
おおかみこころのクリニック
【参考文献】
[1]聴覚情報処理障害(APD) |松 本 希
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibi/66/5/66_190/_pdf/-char/ja
[2]聴覚情報処理障害(Auditory processingdisorder, APD)の現状と対応|小渕 千絵
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shonijibi/40/3/40_225/_pdf
[3]正常聴力成人における聴覚情報処理検査(APT)基準値||石川一葉、松本 希、東野好恵、田泓朋子、中川尚志
https://www.jstage.jst.go.jp/article/audiology/64/4/64_328/_pdf
[4]フィッシャーの聴覚情報処理チェックリスト
https://www.ne.jp/asahi/sp-ed/masa-ogawa/FISHER.pdf
[5]LiD / APD診断と支援の手引き(2024 第一版 )
https://apd.amed365.jp/doc/202403-seika.pdf
[6]聞き取り困難(LiD)を疑う成人例に対する包括的評価|兒玉成博、小浜尚也、竹松知紀、、蓑田涼生
https://www.jstage.jst.go.jp/article/audiology/67/3/67_216/_pdf/-char/ja
- この記事の執筆者
- 柚木ハル
作業療法士。精神科16年の臨床経験を生かして執筆を担当。現在は訪問リハビリに従事しながら幅広いジャンルにて執筆中。