「加味帰脾湯にはセロトニンを増やす効果があるの?」
「セロトニンを増やして、毎日明るく元気に過ごしたい」
このような疑問やお悩みをかかえていないでしょうか?
セロトニンは脳内に分泌される神経伝達物質であり、精神安定作用があることから「幸せホルモン」とも呼ばれています。
結論からいうと、加味帰脾湯が関連しているのはセロトニンではなく、同じく「幸せホルモン」と呼ばれる「オキシトシン」です。
この記事では、加味帰脾湯とオキシトシンとの関連性や、加味帰脾湯の効果などについて詳しく解説します。
加味帰脾湯はオキシトシンを増やす
加味帰脾湯は精神不安や不眠の改善に役立つ漢方薬であり、セロトニンではなく、オキシトシンの分泌を促す作用をもっています。
ここでは、オキシトシンの効果や加味帰脾湯との関係についてみていきましょう。
オキシトシンとは
オキシトシンはアミノ酸で構成されるぺプチドホルモンの一種で、子宮を収縮させて分娩を促したり、乳腺に作用して母乳の分泌を促したりするはたらきがあります。
上記の作用に加え、近年ではオキシトシンに不安やストレスを軽減する効果があることもわかってきました。[1]
加味帰脾湯はオキシトシンの分泌を促す
加味帰脾湯には、オキシトシンの分泌を促す効果があるとされています。
実際に、加味帰脾湯を与えたラットと、水だけを与えたラットを用いた研究では、加味帰脾湯を与えたラットの脳内のオキシトシン分泌量が有意に高まることが確認されました。[1]
まだ動物実験の段階ではあるものの、加味帰脾湯の精神不安や疲労、不眠などを改善する効果には、オキシトシンの分泌促進が関与している可能性が高いといえるでしょう。
加味帰脾湯の効果
添付文書(ツムラ)に記載されている、加味帰脾湯の効果効能は次のとおりです。
「虚弱体質で血色が悪い方の次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症」
「虚弱体質」とは、体力がなくて疲れやすい体質を意味します。
加味帰脾湯は、からだのエネルギーである「気(き)」や、からだの栄養である「血(けつ)」の生成をサポートする作用をもっています。
そのため、気力の低下や疲労感などの「気虚(ききょ)」や、貧血をはじめとする「血虚(けっきょ)」の症状を緩和できるのです。
加味帰脾湯の副作用
主な副作用としては、発疹やじんましん、食欲不振、吐き気、腹痛、下痢などが挙げられます。
重い副作用が出ることは非常にまれですが、配合生薬である甘草の大量服用により、むくみや血圧上昇などが生じる場合があります(偽アルドステロン症)。複数の漢方薬を長期間併用時する場合は、とくに注意が必要です。
また、加味帰脾湯の長期服用により、腸間膜静脈硬化症があらわれる場合があります。腹痛や下痢、便秘などの症状が繰り返し生じる場合は、服用を中止して医師に相談しましょう。[2]
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加味帰脾湯が合わない人の特徴
加味帰脾湯は、体力がなくて疲れやすい体質の人に向いている漢方薬です。そのため、体力があって抵抗力が強い人には合わない可能性が考えられます。
また、次のような特徴がある方も、加味帰脾湯が合わない可能性があるでしょう。
- 食欲不振や吐き気、嘔吐がみられる人
- 妊婦又は妊娠していると思われる人
- 薬で赤みやかゆみなどの皮膚症状が出た経験がある人
- 高齢者
- 小児 など
漢方薬の効果を最大限に引き出すためには、出ている症状だけでなく、個人の体質を考慮する必要があります。ご自身に最適な漢方薬で治療するためには、医療機関で医師の診察を受けると安心でしょう。
セロトニンを増やす漢方薬
「加味帰脾湯がオキシトシンを増やすことはわかったけど、セロトニンを増やす漢方薬はないの?」と疑問に思う方も多いでしょう。
ここでは、セロトニンを増やす漢方薬である「抑肝散」と「柴胡加竜骨牡蛎湯」について解説します。
抑肝散(よくかんさん)
抑肝散は、脳内のセロトニン神経や周囲の細胞に作用することで、神経の高ぶりを抑える漢方薬です。主に神経症や不眠症、小児の夜泣きなどの治療に用いられます。
抑肝散とセロトニンの関係について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
柴胡加竜骨牡蛎湯は、イライラや不安、不眠などでお悩みの方におすすめの漢方薬です。
ラットを使ったある実験では、柴胡加竜骨牡蛎湯が、セロトニンの細胞外濃度の減少を抑制することがわかっています。[3]
柴胡加竜骨牡蛎湯とセロトニンとの関係について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
セロトニンを増やす生活習慣
セロトニンは、薬の服用以外にも、生活習慣の工夫次第で増やすことが可能です。
たとえば、セロトニンを増やすには、朝に日光を浴びることや、生活リズムを整えることが大切です。朝に日光を浴びると、睡眠ホルモンである「メラトニン」の分泌が止まり、セロトニンの分泌が活性化されます。
昼夜逆転の生活をしている方や、日中にあまり外出せずに日光を浴びない方は、セロトニンを増やすために少しずつ生活習慣を見直してみましょう。
また、セロトニンを体内で十分に生成するためには、原材料となる「トリプトファン」の摂取が重要です。トリプトファンは人間の体内では生成できないアミノ酸(必須アミノ酸)で、バナナや豆乳、赤身肉、玄米などの食材に多く含まれています。
ウォーキングや自転車こぎのような一定のリズムでおこなう運動にも、セロトニンを増やすはたらきがあるといわれています。[4]
激しい運動を毎日する必要はないので、天気のよい日に散歩したり普段より多めに歩いたりしてみましょう。
次からはQ&Aになります♪
Q1. 加味帰脾湯の効果が出るまでにはどのくらいかかりますか?
加味帰脾湯の効果が出るまでの期間には個人差がありますが、1ヶ月ほどは様子をみるといいでしょう。
即効性を期待する場合や、症状が強い場合などは、西洋薬のほうが適しているかもしれません。
Q2. 加味帰脾湯は不眠に効く薬ですか?
加味帰脾湯は、不眠に対する治療効果が期待できる漢方薬です。
とくに「からだが疲れているのに眠れない」「眠りが浅くて夢が多く、熟睡できない」という方に適しています。
Q3. 加味帰脾湯は寝る前に飲む薬ですか?
加味帰脾湯は基本的に、食前もしくは食間(食事を終えてから約2時間後)に服用する薬です。処方医から服用に関する特別な指示がある場合は、従うようにしましょう。
Q4. 加味帰脾湯の自律神経への効果は?
加味帰脾湯には、自律神経の乱れによる不調の改善効果が期待できます。
自律神経の乱れには、からだのエネルギーである「気」の異常が関連しているとされています。加味帰脾湯には「気」を巡らせる作用があるため、自律神経を整えて症状を緩和できるのです。
加味帰脾湯はオキシトシンを増やす薬|まとめ
加味帰脾湯には、不安やストレスを軽減するホルモンである「オキシトシン」の分泌量を増やす効果があるとされています。体力があまりなく、不安や不眠でお悩みの方は、加味帰脾湯の服用が適しているかもしれません。
また、精神安定作用をもつ「セロトニン」を増やす漢方薬には、抑肝散や柴胡加竜骨牡蛎湯が挙げられます。セロトニンは生活習慣の工夫によっても増やせるので、日々の生活を一度見直してみるといいでしょう。
精神的な不調でお悩みの方は一人で抱え込まずに、ぜひおおかみこころのクリニックにご相談ください。
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参考文献
[1] 2. オキシトシンと心と身体の健康|前島裕子|福島県立医科大学
https://ir.fmu.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/1689/1/FksmMedJ_72_p44-45.pdf
[2] 加味帰脾湯の添付文書|ツムラ
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/460026_5200016D1054_1_12
[3] Mizoguchi K, et al. : Saiko-ka-ryukotsu-borei-to, a herbal medicine, ameliorates chronic stress-induced depressive state in rotarod performance. Pharmacol Biochem Behav, 75 : 419-25, 2003.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12873634/
[4] セロトニン 運動|踏み台昇降運動ぬよるセロトニン神経系の賦活|北陸大学(2002)
https://www.hokuriku-u.ac.jp/library/libraryDATA/kiyo26/gai1.pdf
- この記事の編集者
- 稲嶺 千春
薬剤師。心療内科の門前薬局での勤務経験あり。フリーライターとして医療・健康分野を専門に執筆活動中。