先生、血液検査でリチウム値が低いとどうなるの?
リチウム値が低いと抗躁効果がでないので、原因を探してそれに対応するよ。患者さんが飲んでいない場合もあるからね。
炭酸リチウムは、躁うつ病や双極性障害の躁状態に使われる薬です。
血液検査でリチウム値が低いと抗躁効果がでないので、原因があれば対応します。患者が薬をきちんと飲んでいないというのはよくあることです。
この記事では、「リチウム値が低くなる原因」「血液検査でリチウム値を測定するタイミング」について解説します。
リチウム値が低いとは
「リチウム値が低い」とは、血液中に含まれる炭酸リチウム量が少ないということです。血液中の量が少ないので、脳での効果が十分に発揮されていない可能性があることを示しています。
炭酸リチウムは服用すると胃や腸で血液中に吸収され、脳で効果を発揮します。しかし薬を医師の指示通り飲んでも、血中濃度は、体重の増減、吸収のされ方、腎臓や肝臓の働き具合などで変化してしまうのです。そのため、血中濃度を測定して、血液中の炭酸リチウム量を知ることで、飲んでいる量が少なすぎないか、多すぎないかなどを推測します。
炭酸リチウムの血中濃度は、個人に最適な維持量が決まるまで1週間に1回程度測定します。しかし、測定せずに治療している場合も多く、どのくらいの割合で起きているかは不明です。
リチウムは気分の波を安定させる、気分安定作用を持つ金属です。リチウムには気分安定作用以外にも衝動性・攻撃性を抑える作用があり、微量でも自殺予防効果があることがわかっています。
リチウム値が低くなる原因
血液中のリチウム値が低くなる原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 定常状態にまだ到達していない時点で測定した
- 生理的変化や病態変化で血液中から薬物を除去する能力が上昇した
- 患者さんが飲んでいなかった
リチウムは飲むと急速に血中濃度が上昇し、時間とともに下降します。次の服用後、再度上昇して、下降…を続け、血液中のリチウム濃度が一定になるのが「定常状態」です。
また、リチウムは肝臓で代謝されずに、腎臓で排泄されます。したがって、内分泌系や臓器の機能的変化などの生理的変化や病気の状態が変化して、血液中から炭酸リチウムを除去する能力が上がったために低くなるということも予想できます。
また患者さんが薬を正しく飲めていないことも原因の一つです。調子が良くなると薬を飲み忘れたり、自分は健康だと思い込んで治療は必要ないと考えて薬を飲まなくなることもあります。
炭酸リチウムの効果的な飲み方
副作用のリスクを避けるための炭酸リチウムの正しい飲み方を紹介します。
始め方・増やし方・減らし方
通常1日400~600mgを2~3回に分けて開始し、3日~1週間ごとに、最適な効果が得られる量を目安に1200mgまで少しずつ増量します。改善したら、維持量として1日通常200~800mgを1~3回に分けて服用するように、少しずつ減らします。
やめ方
炭酸リチウム剤やめる場合は、医師の指示に従い、少しずつ減らします。なぜなら、急激な減量や投与中止で症状が増悪する場合があるからです。
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血液検査でリチウム値を測定するのはどんなとき?
リチウムは血中濃度の治療域と中毒域がとても近い薬剤なので、治療方針を決める上で、血中濃度測定は重要です。
治療濃度はおよそ 0.4~1.0mEq/Lが目安です。低用量(0.4~0.6mEq/L)に比べて、高用量(0.8 ~1.0mEq/L)で有効性では高いけれども、副作用も強く出る可能性があります。低用量で改善が見られるのであれば低用量でよく、低用量で期待する効果が得られない場合に、高用量も検討します。
日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ.双極性障害 2020|リチウム治療のガイドライン
参考:治療上有効な血中濃度 血清リチウム濃度0.3~1.2mEq/L
ここでは、血液検査でリチウム値を測定するタイミングを紹介します。
投与初期や増量したとき
投与初期や増量したときは維持量が決まるまでは1週間に1回くらい、維持量投与中は2~3か月に1回を目安に、血清リチウム濃度のトラフ値を評価しながら、服用します。トラフ値とは血中濃度の最低値です。
日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ.双極性障害 2020|リチウム治療のガイドライン
血清リチウム濃度を上昇させる要因があるとき
以下のように、血清リチウム濃度を上昇させる要因がある場合も、血液検査でリチウム値を測定します。
- 食事や水分摂取量が不足している
- 脱水を起こしやすい状態である
- 非ステロイド性消炎鎮痛剤などの血中リチウム濃度上昇を起こす可能性がある薬剤を併用している
リチウム濃度が上昇すると、リチウム中毒のリスクが高まります。検査することで中毒の発症を予測するのです。
リチウム中毒の初期症状があるとき
手が震える、意識がぼんやりするなどの精神症状、吐き気がする、下痢するなどの胃腸の症状がある場合は、リチウム中毒かもしれないので、血清リチウム濃度を測定します。
血清リチウム濃度には個人差がありますが、濃度に応じた対処は以下のとおりです。
- 1.5mEq/L超:臨床症状の観察を十分に行い、必要に応じて減量または休薬する
- 2.0mEq/L超:過量投与による中毒を起こすことがあるので、減量または休薬する
リチウム中毒は症状が悪化すると死の危険も伴い、3.5 mEq/ L 以上で致死的と言われています。
急性炭酸リチウム中毒に対して早期の胃洗浄と持続的血液透析が奏功した1例
リチウム中毒を含む炭酸リチウムの副作用については、以下でも解説しています。読んでみてください。
炭酸リチウムが効き始めるタイミングはいつから?双極性障害への有効性と副作用|炭酸リチウムの副作用
Q1.炭酸リチウムはうつ病に効果がある?
双極性障害のうつ状態や「治療抵抗性うつ病」の症状緩和に効果があります。
炭酸リチウムは気分安定薬で、極端な気分の揺れをなくして、ほぼ同じような気分で過ごせるようにする薬です。そのため、そう極性障害のような躁状態とうつ状態を繰り返す脳の病気では、うつ状態にも効果があります。また、治療抵抗性うつ病では、抗うつ薬に作用増強の目的で追加して使う場合もあります。
Q2.リチウムの正常値はいくつですか?
リチウムの正常値には個人差があり、人により違います。なぜなら、病態や薬の体内動態は人によって違うからです。
治療濃度はおよそ 0.4~1.0mEq/Lで、この値を目安に治療しますが、最適な抗そう効果があって、副作用がない濃度は、人によって違います。
リチウム値は低いと効果が出ない!|まとめ
この記事では、「リチウム値が低くなる原因」「血液検査でリチウム値を測定するタイミング」について解説してきました。
炭酸リチウムは、躁病や双極性障害の躁状態に使われる薬です。血液検査でリチウム値が低いと抗躁効果がでないので、原因があれば対応します。
炭酸リチウムは治療域と中毒域が近い薬です。リチウム中毒の副作用を防ぐために、定期的に、また必要に応じて血液中の炭酸リチウム濃度を測定しなければなりません。ただ、適正なリチウム濃度には個人差があるので、服用中は医師の指示を守りましょう。
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参考文献
日本うつ病学会治療ガイドラインⅠ.双極性障害 2020|リチウム治療のガイドライン
急性炭酸リチウム中毒に対して早期の胃洗浄と持続的血液透析が奏功した1例
- この記事の執筆者
- 藤野紗衣
薬剤師。精神科病院に勤務経験あり。現在は薬剤師ライターとして執筆活動中。