50歳を超えてから、気分が落ち込みやすくなりました…
それは「更年期うつ」かもしれませんね~
更年期うつって、うつ病と何が違うの?先生、教えて~
更年期障害の症状には、うつ病に似ているものもあります。ただし、これらは同じ病気ではありません。
とはいえ、更年期うつとうつ病の違いを見分けるのは難しいですよね…
それぞれの治療法はまったく異なるため、受診すべき診療科を間違うとなかなか良くならないでしょう。
そんな悩みを解決するために、この記事では「更年期うつとうつ病の違い」や「両者の見分け方」をわかりやすく解説しました。どちらにあてはまるのかがわかるチェックリストも用意しているので試してみてください。
この記事をきっかけに自分に合った治療法を見つけ、症状を改善させる助けになれば幸いです。
「更年期うつ」「うつ病」の症状の違い
更年期うつとうつ病の症状で異なるのは「身体的な症状が出やすいかどうか」と「やる気の割合」で
す。
更年期うつ | うつ病 | |
身体症状の有無 | 身体的な症状が50%以上 | 精神的な症状がほとんど (身体的症状も少しある) |
やる気の割合 | やる気は30~50% | やる気は0~10% |
更年期うつでは、症状が心と身体のどちらにもあらわれます。割合としては、身体症状の方が高いといえるでしょう。
一方、うつ病では「気分の落ち込み」や「無気力」などの精神的な症状がメインになります。身体的な症状もあらわれるものの、精神的な症状の訴えが強いため、ほとんど気になりません。
また、更年期うつの方では「なんだかやる気がでないな」といった感じで、少しはやる気があるけど、いつもに比べて意欲が低下しやすいです。それに対して、うつ病では精神的な症状がはっきり出るため「まったくやる気がおきない」といったように、やる気がほぼ0%になりやすい傾向があります。
更年期うつとうつ病には同じような症状があらわれやすいことも知っておきましょう。とくに精神的な症状は似たようなものが多いため、どちらにあてはまるのか判断するのは難しいです。
更年期うつの症状
更年期うつの症状には、以下のようなものがあります。
- 精神的な症状
- ・気分の落ち込み
・イライラ
・情緒不安定
- 身体的な症状
- ・ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)
・めまい
・頭痛
・全身の疲労感
・動悸
身体的な症状で代表的なものはホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)です。ホットフラッシュが起こると、急に顔や首回りが熱く感じたり汗がたくさん出たりします。これは自律神経の乱れによって、血管が縮んだり緩んだりするのが原因です。
更年期うつの主な原因は、性ホルモンの分泌が少なくなることです。ただし、孤独感や将来への不安感から発症することもあります。
「子供が成人して家からいなくなる」「仕事で役職を与えられた」「家族の介護が必要になる」などのイベントが40〜50代になると増えてくるでしょう。これらのイベントによって身の回りの環境が変化すると、不安を感じやすくなり更年期うつの症状が出やすくなります。
うつ病の症状
うつ病は「日常生活に支障をきたすほどの強い悲しみを感じているか、活動に対する興味や喜びが低下している状態」とされています。
たとえば、家族と出かける約束があるときに「着替えること」「準備すること」などを面倒だと思ってしまい、気分の落ち込みを招くこともあります。
うつ病に多い症状は、以下の通りです。
- 精神的な症状
- ・1日中気分が落ち込んでいる
・楽しめない
・ネガティブに考えてしまう
・無関心になる
- 身体的な症状
- ・寝付きが悪い
・深く眠れない
・体重が減る
うつ病の症状は主に精神的なものであり、身体的な症状は起きにくいとされています。身体的な症状としては、睡眠に関わる症状がよくあらわれます。
更年期うつ|9つのチェックリスト【うつ病と見分ける】
更年期うつとうつ病は症状も似ており、素人では簡単に見分けるのは難しいです。ただ、以下のような項目はどちらの病気か見分ける際に役立ちます。
- 年齢
- 身体的な症状の有無
- 治療の効果
- ホルモンの細かい数値
更年期うつは女性で閉経付近の45〜55歳、男性では50〜60代で発症しやすいです。
精神的な症状が出たときに、更年期うつが症状がしやすい年齢かどうかをを確認してみましょう。更年期うつが発症する年代でなければ、うつ病の可能性が高くなります。
更年期うつは身体的な症状が多く、以下のようなチェックリストを用いて調べることもあります。
この1週間、次のような問題にどのくらい 頻繁(ひんぱん)に悩まされていますか | 全くない | 数日 | 半分以上 | ほとんど毎日 |
1.物事に対してほとんど興味がない、または楽しめない | ||||
2.気分が落ち込む、憂うつになる、または絶望的な気持ちになる | ||||
3.寝付きが悪い、途中で目がさめる、または逆に眠り過ぎる | ||||
4.疲れた感じがする、または気力がない | ||||
5.あまり食欲がない、または食べ過ぎる | ||||
6.自分はダメな人間だ、人生の敗北者だと気に病む、または自分自身あるいは家族に申し訳がないと感じる | ||||
7.新聞を読む、またはテレビを見ることなどに集中することが難しい | ||||
8.他人が気づくぐらいに動きや話し方が遅くなる、反対にそわそわしたり、落ちつかず、ふだんよりも動き回ることがある | ||||
9.死んだ方がましだ、あるいは自分を何らかの方法で傷つけようと思ったことがある |
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Copyright © 2017 Pfizer Japan Inc.
Muramatsu K et al. General Hospital Psychiatry. 52: 64-69, 2018.
新潟青陵大学大学院臨床心理学研究, 第7号,p35-39, 2014
この質問票は、PHQ9というスクリーニングツールで「1週間にどのくらいの頻度で症状に悩まされているか」を聞いています。精神的な症状と身体的な症状に分かれており、答えるだけでどちらの割合が大きいかを見分けやすくなります。
- 精神的な症状・・・1.2.6.7.9
- 身体的な症状・・・3.4.5.8
身体的な症状の割合が大きいときは、更年期うつの可能性が高いです。チェックリストは手軽に試せるものの、自分だけで決めつけて間違った診断をするリスクがあります。結果を鵜呑みにしないで必ず専門家の診断をうけるようにしましょう。
別の方法としては「ホルモン治療の効果があるかどうか」も有効な手段です。更年期うつの治療では、不足したホルモンを補充することもあるものの、うつ病治療では代わりに抗不安薬や睡眠薬などを使います。
つまり、ホルモン補充療法の効果が出ない場合はうつ病の可能性があるのです。
またホルモンの数値を検査するのも、更年期うつを見分ける有効な方法です。注目すべきホルモンと基準値は以下の通りです。
- E2(エストロゲン)
- 閉経後分泌が減少する:10以下で注意
- FSH(卵胞刺激ホルモン)
- 閉経後分泌が上昇する:40~160で注意
- テストステロン
- 年齢に伴い減少する:11.8以下で注意
病院では精密な検査を行い、さまざまな角度から「更年期うつ」と「うつ病」についての検査ができます。自分で判断せず、専門家に相談してみてくださいね。
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「更年期うつ」と「うつ病」で選ぶべき診療科
ここまでは、更年期うつとうつ病の違いを解説しました。さて、実際に病院に行くときはどの科で診察を受けるのがよいでしょうか。
- 更年期うつ(女性):婦人科
- 更年期うつ(男性):泌尿器科、内科、メンズヘルス外来
- うつ病:精神科、心療内科
女性の更年期うつであれば、婦人科がよいでしょう。婦人科は乳がん、更年期障害など女性特有の病気に対して診察をおこなっています。「更年期うつかな?」と思ったら婦人科を選びましょう。
メンズヘルス外来は、男性の更年期うつで受診するべき診療科のひとつです。男性の婦人科とも呼ばれており「性的な悩み」「身体の不調」「不安」などさまざまな症状が重なっていて「どの診療科を選べばいいか分からない」ときでも、多くの疾患から自分にあてはまる疾患を診断してくれます。
また更年期障害の具体的な症状がでている場合は、それぞれの診療科を受診してみてください。
- 泌尿器科:ED(勃起不全)といった性の悩みが強いとき
- 内科:身体の不調が続いているとき
うつ病では症状が心と体どちらに出ているかで受診する科を決めましょう。
- 精神科:精神的な症状が強い人
- 心療内科:身体的な症状が出ている人
精神科や心療内科は心に対して治療を行うため、問診で精神的や身体的なことなど多くの症状を聞いて詳しく検査してくれます。うつ病の場合は人に話すだけでもよくなる可能性があるため、カウンセリング目的で使う人も多いです。
受診すべき診療科については、こちらの記事がおすすめです!
また、自分の症状でどの診療科を選べばいいか分からない人は、LINEで一度問い合わせてみてください。
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「更年期うつ」「うつ病」の治療法
更年期うつとうつ病の症状は似ているものの、間違った治療をするとなかなか症状がよくなりません。場合によっては、さらに症状が悪化する恐れもあります。
ここでは「更年期うつ」と「うつ病」それぞれの治療方法について解説します。
更年期うつにはホルモン補充療法が効果的
更年期うつの主な原因は、閉経や環境の変化などで性ホルモンの分泌が少なくなることです。すなわち性ホルモンの補充が有効な治療法と考えられています。
男性ではテストステロン補充薬、女性ではエストロゲン補充薬を使うことが多いです。ホルモン補充薬には「飲み薬」「塗り薬」「注射薬」などがあり、状況に合わせて使い分けています。
ただ、ホルモン補充療法は更年期うつの症状を悪化させる可能性があります。「肝機能障害」や「糖尿病」「乳がんなどの悪性腫瘍」を昔に発症している人には、ホルモン補充療法は推奨できません。
ホルモン補充療法とは別に、更年期うつの治療でよく使われるものとして漢方薬があります。漢方薬は自然由来の力で身体の調子を整えてくれます。身体の体質を変えて、更年期うつの症状をよくするのが目的です。とくに「八味地黄丸」や「補中益気湯」などの漢方薬がよく使われています。
このほかにも、抗精神薬や認知行動療法などで治療をおこなうこともあります。
うつ病には抗うつ薬や休養が大事
うつ病では、主に精神的な症状があらわれます。そのため、治療法としては抗うつ薬や抗不安薬を使うことが多いです。身体症状として睡眠に関する症状もあるため、睡眠薬で寝付きを良くする方法もあります。
よく使われる抗うつ薬には以下のような種類があります。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
- NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
- 三環系抗うつ薬
- 四環系抗うつ薬
薬については以下の記事にて詳しく解説しています。
薬以外にも、休養は日々のストレスを軽くするため、うつ病の治療に役立ちます。
ストレスを減らすコツとしては「ストレスを感じる場所から離れること」「しっかりと身体と心を休めること」です。
- 職場を離れて家でゆっくり過ごす(仕事がストレスの場合)
- 近くの公園でゆっくりする(家がストレスの場合)
- 睡眠を7時間以上しっかりとる
休養と合わせて治療薬を正しく使うことで、うつ病の症状は良くなるでしょう。
「更年期うつ」と「うつ病」で周りの協力は欠かせない
「更年期うつ」や「うつ病」の人は症状を1人で抱え込みやすく、周りの人を頼らなくなります。そのため、周囲の声かけやサポートが大切です。
更年期うつやうつ病の人たちは「やりたくない」「さぼっていたい」と思っている訳ではなく「やりたくても身体が動かない」ということを認識しましょう。
相手を無理に励ましたり責めたりするのは、余計に相手を焦らせてしまいます。相手のペースでゆっくりと時間をかけてサポートするようにしてみてください。
まとめ
この記事では「更年期うつ」と「うつ病」の違いや見分け方について解説しました。更年期うつは身体的な症状が多く、うつ病は精神的な症状がメインになります。
両者の違いを見分けるには「年齢」や「身体的症状の出現頻度」などさまざまな方法があります。
更年期うつとうつ病はどちらも適切な治療を行うことで症状を軽減できます。そのためにも、自分の症状がどちらにあてはまるのかを知っておく必要があるでしょう。
おおかみこころクリニックでは、専門医がていねいなカウンセリングを実施しています。更年期うつとうつ病を区別するのはとても難しいので、一人で悩まずに気軽に相談してくださいね。
24時間予約受付中
参考文献
[1]うつ病|MSDマニュアル
[2]「PRIME-MD™ PHQ-9日本語版」(こころとからだの質問票)
[3]加齢男性性腺機能低下症候群 診療の手引き
- この記事の執筆者
- 保坂大貴
理学療法士として急性期・回復期病棟に勤務経験あり。医療・健康分野を中心にライターとして活動中。医療知識をわかりやすく使える記事が得意。