「うつを早く治したい」「できれば薬に頼らずにうつ病を治したい」と考えたことはないでしょうか。
うつ病の基本的な治療は、薬物療法、休養、環境調整と精神療法です。
近年の研究で、うつ病の基本的な治療と効果的な食事療法を組み合わせると、早期回復に役立つと明らかになってきました。
「医食同源」という言葉があるように、医療と毎日の食事は切っても切り離せません。
この記事を通して、うつ病の回復に必要な食べ物を知り、毎日の生活に取り入れていきましょう。
うつに効く食べ物
「食べるとうつが治る」「即効性がある」という特定の食べ物は、残念ながら現在の時点ではありません。しかし、国内外の研究で、うつ病の患者さんに特定の栄養素が不足していることがわかってきました。[4]
不足している栄養素を食事で補うことで、うつ病の予防や、治療効果をさらに高めることができるのです。さっそくみていきましょう。
トリプトファン
うつ病は、セロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質が不足して起こる病気です。
セロトニンは気分を安定させる効果があり、トリプトファンという物質からできています。
トリプトファンは体内で作ることができないため、食事で補うことが必須なのです。
- トリプトファンが豊富な食べ物[1][7]
- ・魚介類
・鶏卵
・大豆製品(納豆、豆腐、きなこ、油揚げなど)
・乳製品(チーズ、ヨーグルト、牛乳)
・肉類
・ナッツ類
手軽に食べられるものとして、バナナにもトリプトファンは含まれています。
ゆで卵を作ったり、ヨーグルトにバナナを入れてみたり、手軽に取れるように工夫してみましょう。
ビタミンD・B群(葉酸)
ビタミンDは、脳内の神経伝達物質や脳の働きを高め、うつ病に効果があるといわれています。
ビタミンDは食べ物ではキノコ類や魚介類に多く含まれますが、太陽を浴びることにより体内でも作られます。[1]
ビタミンB群の中の葉酸は、脳内の神経伝達物質を作るために欠かせません。
とくに葉酸は、うつ病では積極的に摂りたい栄養素のひとつです。
葉酸は、「焼きのり」「レバー」「緑茶(煎茶・抹茶)」「野菜」「大豆製品」に多く含まれます。
緑茶には葉酸のほかにも、ストレスを緩和するテアニンが含まれているため、緑茶を飲む人はうつ病になりにくいといわれているのです。[1]
毎朝日光を浴びながら緑茶を飲むようにするのも、うつ病予防に効果的だね。
EPA・DHA
オメガ3系脂肪酸と呼ばれるEPAやDHAは、脳の働きを活発にしたり、記憶力を高めたりする大切な栄養素です。
EPAやDHAは魚に多く含まれ、生活習慣の予防だけでなく、セロトニンの元となるトリプトファンも摂取することができます。[5]
しかし、日常的に焼き魚や刺身をとるのが難しいという方もいるでしょう。
そんなときには、シーチキンや魚の缶詰を活用すると、手軽に魚を取り入れられますよ!
ミネラル
うつ病で不足しているミネラルは、鉄や亜鉛だといわれています。
鉄や亜鉛が不足すると、貧血や疲労感、味覚を感じにくくなるなどの症状も起こるため、必要不可欠な栄養素です。
鉄は「こんにゃく」や「青のり」「ひじき」「貝類」に多く含まれ、亜鉛は「魚」や「貝類 」「牛肉」「チーズ」にも多く含まれます。
ひじきとこんにゃくの煮物や、貝汁などを食事に取り入れてみるのもおすすめです。
うつになりやすい食生活の特徴
うつ病の患者さんは、肥満や脂質異常症、メタボリック症候群などの生活習慣病が多いと報告されています。
うつ病になりやすい食生活には、以下のような特徴が挙げられます。
- 朝食を食べない
- 間食や夜食の回数が多い
- 高カロリーのものを好む
- 野菜や果物の摂取が少ない
うつ病を発症すると、日常生活のリズムが乱れやすくなるため、朝食を取らなくなったり、夜食や間食の回数が増えたりします。
また気分が落ち込み引きこもりがちになるため、運動不足になりがちです。
栄養バランスの偏った食生活や頻回の間食、運動不足の結果、肥満や生活習慣病を引き起こしてしまいます。
うつ改善に取り入れたい・気を付けたい食事のポイント
うつ病の改善には、生活習慣や食生活の改善が欠かせません。
「毎日忙しくて外食ばかり」という方は、食事の選び方を少し意識してみましょう。
ここでは、忙しい人でも取り入れられる食事のポイントを解説します。
いろいろな食材を取り入れる
うつ病を改善するためには、栄養バランスの良い食事が大切です。
欧米では、いろいろな食材をバランスよく取り入れている地中海食※を取る人は、がんや、心疾患、うつ病などになるリスクが低いといわれています。
日本でいうバランスの良い食事とは、以下のことをいいます。
- 主食(ごはん・パン・めん)
- 主菜(肉・魚・卵・大豆料理)
- 副菜(野菜・きのこ・いも・海藻)
- 牛乳・乳製品
- 果物
和定食のようなバランスのとれた食事は、うつ病予防・改善だけでなく、肥満や糖尿病などの生活習慣病の予防にもなるのです。
うつに効く食べ物で紹介した食材とともに、バランスよく食べることを心がけてくださいね。
※地中海食とは「野菜」や「果物」「種実類」「豆類」「魚介」「類穀物」「オリーブ油」を取り入れた食事
コンビニや外食では野菜を多めに取る
「一人暮らしで外食が多い」「食事を作る気に慣れない」という方で、コンビニや外食を活用している方も多いのではないでしょうか。
コンビニのお惣菜や外食は野菜や果物が不足しやすく、バランスが偏りがちです。
コンビニでお惣菜を選ぶときには、食べたいもの・好きな食べ物ではなく栄養バランスを意識しましょう。
野菜がたっぷり入ったサラダ、サラダチキン、お味噌汁、魚の缶詰などがおすすめです。
外食では、主菜・副菜・主食がついたバランスよく食べられる、和定食のようなものがおすすめです。[7]
揚げ物などカロリーが高い物はできるだけ避け、野菜がたくさん摂れる食事を心がけましょう。
アルコールは避ける
うつ病の治療中は、アルコールは原則禁止です。
どうしても飲みたい場合は、ノンアルコール系飲料を飲むようにしましょう。
憂うつな気分や不安をまぎらわせるために、飲酒を続けるとアルコール依存症になる可能性があります。
アルコールと薬は相性が悪く、薬の効果が出すぎたり、効果が弱くなったりする可能性もあるのです。
アルコールと抗不安薬の関係について詳しく知りたい方は以下をご参照ください。
うつで食欲がないときの対処法
食欲がなくなるのは、典型的なうつ症状の一つです。
食事が取れなくなるほどうつが悪化してしまうと、入院が必要になるケースもあります。
ここでは「食欲がないな」と感じたときに、ご自身でできる対処法をご紹介します。
医師の診察を受ける
「食欲がなくなった」「何も食べたくない」という場合は、医療機関の受診が必要です。
食欲のない状態が続くと、全身の栄養状態が悪化し命の危険を伴うため、入院治療が必要になる場合もあります。
食欲は健康のバロメーターです。
「好きだったものがおいしいと感じない」「食事が楽しくない」というときは、要注意。
ささいな変化を感じたら、主治医の診察を受けるようにしましょう。
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食欲がない原因への対策をとる
あなたの食欲がない原因に、思い当たることはないでしょうか。
原因を知れば、対処法もそれぞれ異なります。
間食の摂りすぎできちんと食事が取れていない場合は、間食を控えたり、回数を減らしたりすることが大切です。
食欲不振の他に、胃やみぞおちの痛み、吐き気、げっぷなどの症状がある場合は、内科や消化器内科などを受診しましょう。
胃や腸はストレスに対する症状が現れやすい場所です。
心配事を抱えている場合は、周囲や主治医に相談し、つらい気持ちを抱えたままにしないようにしましょう。
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小分けにして食べやすくする
薬もしっかり飲んでいるのに、食欲がなかなか湧かないというときは、食事の一回量を減らし、食事の回数を増やしてみるのもおすすめです。
一口サイズで食べられるものやあっさりしたもの、さっぱりしたもの、のどごしが良いものなどを試してみましょう。
まとめ
この記事では、うつに効く食べ物、不足しやすい栄養素について紹介しました。うつ病の回復には栄養バランスよく食べることが大切で、特定の食べ物を摂ればよい、というわけではありません。
食べた物で体は作られます。
「食べ物が食べられない」「食欲がない」というときは、こころの赤信号。小さなことでもかまいません。どうぞお気軽にご相談ください。
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(参考サイト)
[1] 食品成分データベース|文部科学省
https://fooddb.mext.go.jp/index.pl
[2] セロトニン|e-ヘルスネット|厚生労働省
https://www.e-healthneth.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-074.html
[3]亜鉛|厚生労働省eJIM
https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/overseas/c03/12.html
(参考文献)
[4] 1.うつ病における栄養学的異常|功刀 浩 古賀 賀恵 小川 眞太郎
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbpjjpp/26/1/26_54/_pdf/-char/ja
[5] 科学的根拠に基づく食によるメンタルヘルスへのアプローチ|松岡 豊
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjbm/25/2/25_113/_pdf/-char/ja
[6] オメガ3系脂肪酸からうつ病・不安にアプローチする|松岡 豊
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbpjjpp/31/1/31_25/_pdf
(参考書籍)
[7] 心の病を治す食事・運動・睡眠の整え方 ココロの健康シリーズ|2019年1月16日初版第1刷発行|功刀 浩著
- この記事の執筆者
- 小久保有希
医療ライター。看護師経験15年。4年間精神科に勤務し、病棟・訪問看護に携わる。相手の気持ちに寄り添う記事が得意。