うつ病はさまざまな原因が重なることで発症するといわれていますが、家庭環境が原因となることも少なくありません。毎日をともに過ごす家族の間では、小さなストレスが積み重なって大きな負担となることもあります。
今回の記事では、家族が原因となり発症するうつ病との向き合い方について解説します。
うつ病の症状を改善するために、原因のひとつである家族関係について一緒に考えていきましょう。
うつ病は家族が原因のこともある
うつ病は、身近な家族が原因のひとつであることも珍しくありません。家族が原因となるうつ病には、両親や兄弟を失うことによる喪失がきっかけとなるケースもあれば、家庭内のトラブルやストレスによって発症するものもあります。
日本では人間関係にストレスを抱えている人の約半数が、家族間でのストレスを感じているといわれているのです。[1]
身近だからこそ気になってしまいますよね💦
幼少期の家庭環境とうつ病の関係
幼少期の家庭環境は、成人になってからのうつ病の発症リスクと密接に関係していることが分かっています。幼少期に「虐待」「親との死別」「経済的な不安」といったストレスを受け続けた場合、こころの病気を発症する確率が高くなるのです。[2]
これは、幼少期が脳神経系が大きく発達する時期であることが関係しています。うつ病はさまざまな原因により、脳内の神経伝達物質の減少に伴って発症する疾患です。
つまり、脳の発達が盛んな時期に大きなストレスを受けると、脳細胞の発達に異常をきたし、うつ病の発症リスクが高まると考えられています。
家族関係がストレスになる3つのケース
うつ病のきっかけとなり得る家族間のストレスには、どのようなものがあるのでしょうか。大きく3つに分けて紹介します。
親子間のストレス
親子間のストレスは、家庭内トラブルのなかでも多く見受けられます。親が子どもに対して「高圧的な態度を取る」「暴力をふるう」「過度に干渉する」といった状態は、子どもにとって大きなストレスとなるでしょう。[2]
とくに子どもが学生である場合、家族との関係から逃れることは難しく、ストレスを抱え込んでしまうことがあります。このような家庭内のストレスは、外からは分かりづらいため見過ごされがちですが、子どものこころに大きな負担となってしまうのです。
夫婦間のストレス
夫婦間のストレスは、ライフステージや家庭内での役割の変化によって引き起こされます。子どもの誕生によりどちらか一方に負担がかかることや、昇進により仕事が忙しくなって夫婦のコミュニケーションが少なくなることが原因のひとつです。[3]
また夫婦は育った環境が異なるため、価値観の違いがストレスの原因になることも少なくありません。
このような夫婦間のストレスは長い期間を経て積み重なり、うつ病を引き起こす原因となります。
介護ストレス
親子間のストレスの中でも、親の介護に伴うストレスは深刻な問題です。日本は高齢化社会であり、介護ストレスは大きな社会問題となっています。
日々の介護による身体的疲労だけでなく、介護施設や病院との連絡や手続き、経済的な負担も大きなストレスとなります。[4]
このような介護ストレスは、介護を担う家族にとってこころの病気を引き起こすきっかけにもなるのです。
家族が原因で発症するうつ病の治療法
うつ病の治療は家族や周りの支えが大切、とよく聞くかもしれません。しかし、家族が原因でうつ病を発症している場合は、家族からの支援を受けられないこともあります。
ここでは、家族が原因で発症するうつ病の治療について解説します。
入院治療
同居している家族がうつ病の原因になっているとき、状況によっては入院治療が必要になります。[5]うつ病の症状を改善するためは、心身をゆっくり休めて、ストレスの原因から距離を置くことが必要です。家族の存在が負担となり症状が改善されない場合は、一時的に家族から離れることも治療のひとつといえるでしょう。
うつ病の場合、一般の精神科への入院となることもありますが、うつ病の患者を主に扱う「ストレスケア病棟」の選択肢もあります。
ストレスケア病棟とは、うつ病の治療に加えて、家庭や職場などの日常から離れてゆっくり心身を休めることを目的とした施設です。ゆったりとした静かな雰囲気で治療を受けられるメリットがあります。[6]
入院治療により、家族と離れて治療に専念することで、うつ病の症状を改善するためのサポートを受けられるでしょう。
「ストレスケア病棟」いいですね♪
通院治療
家族がうつ病の原因であっても、症状や家庭の状況によっては通院による治療がおこなわれることもあります。
うつ病を克服するためには、支えとなる人の存在が大切です。しかし、サポートしてくれる人は家族だけではありません。友人や親族、また、うつ病の方に対する支援を専門とする団体もあります。
行政や民間の支援団体から受けられる支援サービスを活用することで、通院しながらでも治療を続けられるでしょう。[7]通院での治療は、自分のペースで治療できるメリットもあります。
うつ病の最適な治療法は、人によって異なります。自分の置かれている状況に合った治療ができるよう、医師とよく相談してください。
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よくある質問
家族が原因でうつ病を発症したときに、よくある質問について紹介します。
Q1.家族にうつ病であることを打ち明けた方がよいですか?
うつ病を家族に打ち明けることは、大きな治療の一歩となります。家族がうつ病の原因である場合でも、病気を打ち明けることによって家庭環境を改善するきっかけになることがあります。家族は身近な存在であり、治療する中で一緒に考え方や行動を見直し、よい関係を築くチャンスにもなるのです。[8]
しかし、すべての家族が治療に協力的であるとは限りません。打ち明けたとしても、期待した支援を得られないこともあります。このような場合には主治医とよく相談し、入院治療を含む適切な治療環境を整えることが最優先です。
うつ病を家族に打ち明けるかどうかは、その人の状況によって変わります。家族に打ち明けるべきかどうか迷ったときは、信頼できる医師に相談し、最善の選択ができるようにしましょう。
Q2.夫婦関係が原因の場合、離婚したほうがよいですか?
夫婦間の問題がうつ病の原因となっている場合、離婚を考える前に一度距離を置いて冷静に考える時間を持ちましょう。うつ病の症状が出ているときは、冷静な判断が難しくなります。離婚のような人生に関わる大きな決断は避けてください。[8]
治療を受けて症状が改善していけば、状況を客観的に見て正しく判断できるようになるでしょう。
夫婦間のストレスがうつ病の原因であるときには、離婚を決断する前に一時的に距離を置き、まずは治療に専念できる環境を整えることが大切です。
落ち着いてから考えましょう!
Q3.家族が原因である場合、一人暮らしをしたほうがよいですか?
家族が原因でうつ病になった場合でも、うつ病の症状が落ち着いていないうちに一人暮らしをはじめるのはおすすめしません。
研究によると、一人暮らしはうつ病の発症率を高めることが報告されています。孤独感を感じたり、社会的に孤立してしまったりすると、うつ病の症状を悪化させる要因にもなるのです。[9]
家族との距離を置く必要がある場合は、一人暮らしではなく入院での治療を考えましょう。
ただし、うつ病の症状が改善してきたときには、主治医と相談しながら一人暮らしを検討するのもひとつの選択肢です。
よいタイミングで生活環境を整えられるよう、主治医と相談しながら治療を進めていきましょう。
まとめ
うつ病は、身近な家族が原因で発症することも珍しくありません。その原因は親子、夫婦、介護のストレスなど状況によってさまざまです。
家族が原因のうつ病になったときは、家にいることが治療の妨げになることもあります。この場合は入院による治療が必要となり、一時的にでも家族と離れ、心身ともにゆっくり休むことが症状を改善するカギとなります。
家庭環境は人によって異なるため、治療について何が最善の選択なのかは人それぞれです。
自分の症状や状況をよく理解し、主治医と相談しながら自分にあった治療法を選択しましょう。
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参考文献
[1]家族との人間関係にストレスを感じている場合の対処法・ケース別の例を紹介|NHK
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1150.html
[2]幼少期ストレスが成熟期における慢性疼痛に及ぼす影響|日薬理誌148,134~138(2016)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/148/3/148_134/_pdf
[3]うつ病の主な症状|こころの耳
https://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/ad002/
[4]仕事と介護の両立 ~介護離職を防ぐために~|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/index.html
[5]精神科の入院について|こころの情報サイト
https://kokoro.ncnp.go.jp/support_hospitalizatio.php
[6]当院におけるストレスケア棟の現状と今後の課題・方向性について|九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyushuptot/2004/0/2004_0_153/_article/-char/ja/
[7]相談しあう・支えあう|こころの情報サイト
https://kokoro.ncnp.go.jp/support_consult.php
[8]ご家族にできること|こころの耳
https://kokoro.mhlw.go.jp/families/
[9]家族構成とうつ病との関連について|国立がん研究センターん対策研究所・予防関連プロジェクト
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8933.html
- この記事の執筆者
- 原田瑞季
臨床検査技師。保健学修士。在宅で医療検査の業務に関わりながら、フリーライターとして医療を中心に幅広いジャンルで執筆中。