うつ病は遺伝する?仕組みや予防するためにできること










家族や親族がうつ病を経験していると「自分も将来うつ病を発症するのだろうか」「子どもに遺伝してしまうのだろうか」と心配になりますよね。

実際、うつ病には遺伝が関わると示されています。ただし、単純に親から子へとうつ病の発症が受け継がれるわけではありません。

遺伝は確かに発症する要因のひとつですが、環境要因やストレス、生活習慣なども関係します。

たとえ家族や親族にうつ病の人がいても、ストレス解消や生活習慣の改善などの予防をすれば、うつ病を発症するリスクを下げられるのです。

この記事では、うつ病が遺伝する仕組みうつ病を予防するためにできることを解説します。家族にうつ病の人がいても、正しい知識と適切な対策で発症リスクを下げていきましょう。

うつ病は遺伝するケースもある

うつ病には遺伝が関係しており、家族にうつ病の人がいると発症リスクが高まることがわかっています。

うつ病の遺伝率は約30~50%とされています。[1]そのため、受診の際には「家族や親戚にうつ病と診断された方はいますか」と聞かれることがあるのです。

また、双極性障害も家族や親族で共通して見られることがあり、遺伝が関係すると考えられています。一卵性双生児における双極性障害の一致率は40%以上とされており、うつ病と同様に遺伝が関係する可能性があるのです。[2]

こころちゃん
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遺伝だけが原因ではありませんが、遺伝することはあります

うつ病が遺伝する仕組み

うつ病が遺伝する仕組みについては、2024年の研究で新たな発見がありました。

うつ病の原因となるヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)に含まれるSITH-1遺伝子に「うつ病を引き起こしやすいタイプ」と「引き起こしにくいタイプ」があることが判明しました。研究によると、うつ病の人の約68%が「うつ病を引き起こしやすいタイプのSITH-1遺伝子」を持つHHV-6に感染していることがわかっています。[3]

HHV-6は生後4週間で母親から感染し、その後一生涯HHV-6への感染が続くと考えられています。つまり、うつ病を発症する要因は、母親からの遺伝とHHV-6への感染の2つがあるのです。

ただし、遺伝だけでうつ病を発症するわけではありません。遺伝的要因はあくまで「発症のしやすさ」を決めるものであり、環境要因との相互作用によって実際の発症が左右されるのです。

遺伝以外に考えられるうつ病の原因

うつ病は遺伝的要因だけでなく、他の要因も関係し発症します。おもに、次の3つがあります。

それぞれについて見ていきましょう。

ストレス

ストレスはうつ病を引き起こす要因のひとつであり、日常生活のあらゆる場面で発生する可能性があります。

精神的・身体的ストレスなどもうつ病発症の要因となります。つらい体験や悲しいできごとだけでなく、結婚や就職、引越しなどの嬉しいできごとの後にも発症することがあるのです。[4]ポジティブなできごとでも、環境の変化や責任の増加などによってストレスがかかることがあるためです。

たとえば、家族との死別や離婚などのつらい経験はもちろん、昇進して責任が増えたことや、結婚して新しい家族関係への適応などの喜ばしいこともストレス要因となります。

毎日少しずつ積み重なるストレスが、いつの間にか大きなストレスとなりうつ病を引き起こすこともあるのです。

こころちゃん
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小さなストレスも積み重なると大きなストレスになります💦

慢性的な身体の病気

慢性的な身体疾患を抱えていると、うつ病を発症するリスクが高まると明らかにされています。[5]

とくに、がんや糖尿病などを発症していると、うつ病を発症するリスクが高くなります。がん患者のうつ病有病率は3~10%、糖尿病患者のうつ病有病率は11%とされているのです。一般人口におけるうつ病の有病率は約6%なので、比較しても高い数値となります。[4][6][7]

慢性疾患がうつ病のリスクを高める理由としては、次のような点が考えられます。[8]

  • 社会的な孤立
  • 将来への不安や恐怖

うつ病の発症を防ぐためには、慢性疾患の治療と並行して心理的なケアも重要となるのです。

神経伝達物質の減少

脳内にある神経伝達物質「セロトニン」「ノルアドレナリン」が減ることが、うつ病を発症する原因のひとつと考えられています。

セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれ、精神を安定させる働きがあります。[9]一方、ノルアドレナリンは「闘争・逃走ホルモン」と呼ばれ、ストレスを感じたときに分泌し、減ると無気力で憂うつな状態になるのです。[8][10]

抗うつ薬には、神経伝達物質の量を増やす働きがあります。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などの薬は、神経伝達物質が脳内で効果的に働くように調整するのです。

うつ病を予防するためにできること

遺伝が原因であっても、うつ病の発症を予防できます。具体的には、次の3つがあります。

  • ストレスを解消する
  • 6時間以上の睡眠をとる
  • 運動する時間を増やす

日常生活にも取り入れやすいため、あなたに合うものから試してみてください。

ストレスを解消する

うつ病を予防するためには、定期的にストレスを解消しましょう。具体的には、次のことを試してみてください。

また、日常生活の中にある小さな喜びや楽しみを見つけると、こころの健康を保ちやすくなるでしょう。

友人や家族との会話も精神的な支えとなり、ストレス解消に役立ちます。ストレスを感じたときは、溜め込まずに誰かに話を聞いてもらうことも有効です。悩みを共有すれば心の負担が軽くなり、新しい視点や解決策が見つかることもあります。

運動する時間を増やす

定期的な運動はうつ病予防に有効であり、心身の健康を促進します。

運動する時間が多いほど、抑うつ状態になりにくいという研究結果があります。[12]運動には、ネガティブな気分を発散し心身をリラックスさせ、睡眠リズムをととのえる働きがあるのです。[13]

とくに効果的なのは、身体の中に空気をたくさん取り入れながら行う有酸素運動です。軽いランニングやサイクリング、ダンスなどが有酸素運動の代表例です。近所を散歩するだけでも効果があります。1日20分を目安に、身体がぽかぽかし汗ばむくらい続けてみましょう。

運動習慣があまりない方は、通勤時に1つ前の駅で降りて歩いたり、エクササイズ動画を見ながら動いたりして、あなたに合う運動から始めてみてください。

6時間以上の睡眠をとる

6時間以上の睡眠は心身の健康に必要であり、うつ病予防にも重要な役割を果たします。

睡眠時間が極端に短いと、うつ病の発症リスクが高くなります。健康づくりのための睡眠ガイド2023では、成人は6〜8時間が適正な睡眠時間と考えられています。[11]

質の良い睡眠をとるためには、就寝前のルーティンを作ることが有効です。寝る1時間前にはスマートフォンやパソコンなどの電子機器の使用を控え、部屋の照明を落とし身体をリラックスさせましょう。また、毎日同じ時間に起床・就寝するリズムを作ることで、体内時計が整い睡眠の質が向上します。

睡眠時間が6時間未満であれば、まずは6時間を目安にすることを意識してみてください。

こころちゃん
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寝具を見直すと睡眠の質が上がることもあります♪

まとめ

うつ病の発症には遺伝が関わっていますが、環境要因と相互作用することで発症リスクが高まります。

家族や親族にうつ病の方がいると発症リスクは高くなりますが、それだけで必ずうつ病になるわけではありません遺伝以外にも、日常的なストレスや慢性的な身体疾患など、さまざまな要因がうつ病の発症に関わっています。

たとえば、ストレスの解消や睡眠時間の確保など日常生活での予防策を実践すれば、うつ病の発症リスクを下げられます。

うつ病について正しく理解し予防法を実践することが、心の健康を保つための大切な第一歩です。

もし、気分が落ち込む、やる気がでないなどうつ病の症状があらわれたら、おおかみこころのクリニックにお越しください。医師やカウンセラーが、あなたの悩みを聞いて一緒に解決策を探していきます。

おおかみこころのクリニック

【参考文献】
[1]うつ病になりやすい体質が遺伝する仕組み|公益財団法人 東京都医学総合研究所
https://www.igakuken.or.jp/r-info/covid-19-info211.html

[2]双極性障害に先天的・後天的デノボ変異がともに関連―双極性障害の病態理解が一歩前進―|国立研究開発法人日本医療研究開発機構
https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20210701-02.html

[3]うつ病になりやすい体質が遺伝する仕組みを世界で初めて解明―メンデル遺伝を覆す新たな遺伝メカニズムの発見―|東京慈恵会医科大学
https://www.jikei.ac.jp/news/pdf/press_release_20240213.pdf

[4]うつ病|こころの情報サイト
https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?@uid=9D2BdBaF8nGgVLbL

[5]2 うつ病の主な症状と原因:ご存知ですか?うつ病|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
https://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/ad002

[6]がん患者のうつ病・うつ状態,明智龍男
https://www.aichi.med.or.jp/webcms/wp-content/uploads/2022/12/69_2_030toku-aketi.pdf

[7]糖尿病とこころ|e-ヘルスネット(厚生労働省)

[8]うつ病|こころもメンテしよう ~若者を支えるメンタルヘルスサイト~
https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/know/know_01.html

[9]セロトニン|e-ヘルスネット(厚生労働省)

[10]ノルアドレナリン / ノルエピネフリン|e-ヘルスネット(厚生労働省)

[11]健康づくりのための睡眠ガイド 2023|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf

[12]健康づくりのための身体活動・運動ガイド 2023|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001171393.pdf

[13]体を動かす|こころもメンテしよう ~若者を支えるメンタルヘルスサイト~https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/stress/self/self_01.html

執筆者:浅田 愼太郎

監修者:浅田 愼太郎

新宿にあるおおかみこころのクリニックの診療部長です。心の悩みを気軽に相談できる環境を提供し、早期対応を重視しています。また、夜間診療にも力を入れており、患者の日常生活が快適になるようサポートしています。




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