「味はわかるけど美味しくない」
「食事が楽しくなくなった」
「最近ストレスが多い」
「うつで味覚障害が出ているのか?」
メンタルの不調は誰にでも起こることです。そして、メンタルの不調により味覚障害が生じることも珍しくありません。問題なのは、味覚障害を放っておくことで食欲が減退し、栄養摂取が不十分になるリスクがあることです。
味覚障害に対する改善策はさまざまで、食事内容の工夫やうつ症状に対する対策を取ることで改善の余地があります。
この記事では、味覚障害の解決策を7つ紹介します。症状に応じて有効な解決策は異なりますが、中心となるのはうつの治療と食生活の改善です。
「味覚障害かな?」と気づいたら、始めやすいものから試してみましょう。
味覚障害の症状
味覚障害にはさまざまな症状があります。今回は、症状の中でも代表的な3つを紹介します。
1つずつ解説していきます。
味がわかりづらい(味覚減退)
味覚障害の中でもっとも代表的な症状は「味がわかりづらい」ことです。
味蕾(みらい)という味を感じるセンサーの役割をもつ部分に障害が出ることで味がわかりづらくなります。[1]
味が全くわからない(味覚消失)
味覚障害の代表例に「味が全くわからない」という症状もあります。原因は味覚減退と同様、味蕾の障害であることが多いです。
味覚障害と診断される方の多くは「味がわかりづらい」と「味が全くわからない」のどちらかです。この2つの症状が味覚障害の70~80%を占めているといわれています。[1]
変な味がする
「変な味がする」は、「異味症」と呼ばれます。味覚減退や味覚消失ほど発症が少ないものの、味覚障害の症状です。異味症も味蕾の障害で起こりやすいといわれています。
たとえば、コインを口に含んでいるかのような苦味を感じることも。[2] もし、同じような症状がでた場合は医療機関への相談をしましょう。
味覚障害を起こす3つの原因
味覚障害を起こす原因はさまざまですが、その中でも多いものは以下の5つです。
- 特発性(原因不明)
- 心因性(うつ病など)
- 薬剤性(抗うつ薬、抗がん剤など)
- 亜鉛欠乏性(末梢受容器レベルの障害)
- 全身疾患性(糖尿病、悪性疾患、腸疾患など)
最も多いのは特発性18.2%、ついで心因性が17.6%です。[3]
この記事では、味覚障害を起こす原因の上位3つである特発性、心因性、薬剤性について解説します。
特発性
味覚障害の多くは体内の亜鉛が少なくなることで起こるものの、そうではないケースもあります。これが「特発性」と分類されるのです。とくに血液中の亜鉛の数値が80μg/dLを下回るものを「亜鉛欠乏性味覚障害」と呼び、特発性と区別しています。[1]
心因性
心因性味覚障害は、ストレスや抑うつ状態などが続くことで発症する味覚障害です。
ちなみに、味覚低下を訴える患者の27%がうつ病を抱えているというと報告されています。[4]
うつ病と味覚障害はともに自律神経の乱れをきっかけに発症することがあり、自発性異常味覚症や舌痛症などの口内異常も抱えている割合が高かったと言われます。[4]
薬剤性
薬剤性味覚障害とは「特定の薬剤の使用」によって引き起こされる味覚障害のことです。
とくに、うつ病やがんの治療を行っている患者でよくみられます。
というのも、うつ病やがんの治療に使われる薬には以下の特徴があるのです。[8]
・亜鉛の吸収を妨げる
・唾液の分泌を抑える
・薬自体が苦味をもつ
たとえば、薬を飲んだ直後に苦味を感じることもあります。多くは約6週間以内に味覚障害が起こる可能性があるとされています。[8]
服用している薬があり、味覚障害が発症している場合は主治医に相談してみましょう。
うつによる味覚障害を放置する3つのリスク
うつによる味覚障害は、早期発見がポイントです。放置すると以下のようなリスクがあります。
1つずつ解説していきます。
栄養失調
うつによる味覚障害を放置すると、食事を十分に食べられず、健康に必要な栄養が不足します。
たとえば、うつ病の症状が重症である場合、栄養不足が長く続いた結果、体重が減ったり肌荒れが起きたり、といったリスクがあります。[4] そうなる前に一度、医療機関で栄養状態を確認してもらうようにしましょう。
見た目の変化
十分な食事が摂れていないことで、痩せて見た目が変化することもあるでしょう。
味覚障害によって食欲が湧かず、十分な食事を摂れないことが原因です。自分では気づかず家族や友人から「最近痩せた?大丈夫?」と聞かれて初めて発覚することも。
食欲がなくても食べられるものはありませんか?思うように食べられない時は、より一層栄養バランスを意識しましょう。また日々の体重を管理しておくと、体重の異常な減り方に早く気づけるでしょう。
免疫力の低下
味覚障害は体内の亜鉛が少ないことが原因で起こることがあります。[1]
また亜鉛が足りない状態が続くと、免疫力が下がることが報告されています。つまり、亜鉛欠乏性の味覚障害は、感染症リスクが高いことの裏返しでもあり、早めの対応が必要です。
味覚障害を放置せず治療していきましょう。
うつによる味覚障害の対処法
うつによる味覚障害の対処法は以下の7つです。
1つずつ解説していきます。
亜鉛をとる
味覚障害に対する治療で、まず考えられるのは「亜鉛の投与」です。
中でも、味蕾の障害は亜鉛内服療法が原則とされています。[3]これが味覚障害の治療で唯一エビデンスが認められているものです。また「亜鉛の摂取は特発性味覚障害にも有効である」という報告があります。
鉄・ビタミンをとる
鉄・ビタミンの補充で味覚障害が改善されることがあります。
たとえば、鉄欠乏性味覚障害に対しては鉄剤の投与が有効とされており、その治癒率は88.6%、改善率は97.2%です。またビタミンB12や他のビタミン欠乏に対する補充療法が行われることもあります。[1]
ストレスの原因を取り除く
心因性味覚障害は、うつ病や神経症などの心の問題が原因で起こる味覚障害です。うつ病との関連も指摘されており、味覚低下を訴える患者の一部はうつ病の範囲に入ることがあります。[4]
心因性を改善するためには、ストレスの原因を取り除くことが必要です。何が心の負担になっているかを明らかにして、ストレスを軽減できるように対策をしましょう。
また精神安定剤や抗不安薬の使用により、心理的なストレスが軽減されて、結果として味覚障害が改善されるケースもあります。[6]
心理療法に取り組む
心の問題が原因で味覚障害がある人が心理療法を受けることで、味覚障害が改善することがあります。とくに、認知行動療法(CBT)や簡単な精神療法が有効という報告も。
実際に、認知行動療法や精神療法治療を行ったところ、94.1%の人に症状の改善がみられたと報告されています。[6]心の問題で味覚障害がある場合は、一度カウンセリングを受けてみるとよいかもしれません。
栄養バランスを見直す
栄養バランスの乱れが原因で生じる味覚障害もあります。たとえば、必須脂肪酸が少ないと交感神経活動を高め、味覚に異常が出ることも。
魚介類、ナッツや種子類はオメガ-3脂肪酸というストレスや不安を軽減する作用のある成分が多く含まれるため、自律神経をととのえてくれると考えられています。
栄養面に不安がある場合は、普段の食事メニューを書き出してみるとよいでしょう。[9]
食事環境を工夫する
食事の仕方が味覚障害を引き起こす原因になっている可能性があります。
たとえば、仕事をしながら食事をすると交感神経が優位になり、身体が興奮状態になってしまうのです。[6]
これが味覚障害の引き金になることもあります。
抗うつ薬の量を調整する
抗うつ薬の影響で味覚障害が生じる場合があります。抗うつ薬の他に「降圧薬」「消化性潰瘍治療薬」「抗菌薬」「抗がん薬」などは味覚障害を発症しやすいとされています。[8]
前述した通り、これらの薬は亜鉛の吸収を妨げたり、唾液の量を抑えるため、味覚障害の原因になるのです。薬の変更や減量で症状がおさまるケースもあるので、主治医や薬剤師に相談してみましょう。
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まとめ
味覚障害の原因はさまざまで、それぞれ有効な対処法は異なります。味覚の異変がおさまらない場合は、原因を明らかにするために早めに相談すると安心です。
参考文献・サイト
[1]<論文>味覚障害の診断と治療,阪上雅史,日耳鼻 115: 8-13,2012
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/115/1/115_1_8/_pdf/-char/ja
[2]<論文>味覚障害の診断と治療,任智美,日耳鼻 122: 738-743,2019
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/122/5/122_738/_pdf/-char/ja
[3]<論文>味覚障害の基礎と臨床,任智美,口咽科 2017:30(1):31 ~ 35
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/30/1/30_31/_pdf/-char/ja
[4]<論文>味覚低下症例とうつ病,小野あゆみ,耳鼻50:328~333,2004
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibi1954/50/4/50_328/_pdf/-char/ja
[5]<論文>プラセボ対照無作為化試験による 亜鉛欠乏性または特発性味覚障害219例に対する ポラプレジンク投与の臨床的検討,池田 稔,日耳鼻 116: 17-26,2013
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/116/1/116_17/_pdf/-char/ja
[6]<論文>心因性味覚障害298例の臨床検討,前田 英美,口咽科 2016 :29(2):237 ~ 243
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology/29/2/29_237/_pdf/-char/ja
[7]<論文>心因性味覚障害症例の検討,古田 茂,口咽科4:2;179~184(1992)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology1989/4/2/4_2_179/_pdf/-char/ja
[8]重篤副作用疾患別対応マニュアル|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013qef-att/2r98520000013rbr.pdf
[9]<論文>n −3 系不 飽和脂肪酸の 自律神経機能に与える影響に関する研究,柳澤 厚生,杏林医会誌 33巻 1号,52
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyorinmed/33/1/33_KJ00005728689/_pdf/-char/ja