「最近、夫の様子がなんだかおかしい」
「産後で余裕なくて言い過ぎたかな…」
赤ちゃんとの新しい生活が始まったにもかかわらず、夫の笑顔が減ったり育児に消極的になったりしていませんか。
実は、男性も産後うつになることがあります。
近年、産後うつは母親だけではなく、父親にも起こることが分かってきました。
この記事では、男性の産後うつの原因や産後うつによる変化、妻ができることについて解説します。
「夫がおかしいのは自分のせいかもしれない」と悩んでいるあなたのこころが少しでも軽くなりますと幸いです。
男性も産後うつになる
「産後うつ」と聞くと女性がなるものと思われがちですが、2005年に医学雑誌で取り上げられ男性の産後うつが注目され始めました。[1]
産後うつの男女の違いは、以下のとおりです。[1][2][3]
女性 | 男性 | |
割合 | 10~30% | 11% |
時期 | 産後3か月以内が多い | 産後3~6か月以内が多い |
原因 | ホルモンバランスの急激な変化 | ・環境の変化 ・新しい役割への心理的負担 |
近年では「共に働き、共に育てる」を意識した夫婦が多く、男性も家事や育児の参加を望んでいるにもかかわらず、職場がそれをよしとしないことが多くあります。[4]
また、父親は母親を支える役割が求められるのに対して、父親が子育てや妻との関係を相談できる環境や、支援につながる場が少ないことも、産後うつになる要因となります。[5]
女性が子育てでこころに余裕がなくなってしまうのと同じように、男性も仕事と家庭の両立が難しく産後うつになるのです。
女性の産後うつについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
男性が産後うつになる原因
「産んでもないのに、なぜ男性が産後うつになるの?」と思う方は少なくありません。
以下のようなできごとが重なると、男性は産後うつを発症しやすくなります。[1][3]
- 高年齢
- 睡眠不足
- 長時間労働
- 妻の健康状態
- うつ病の既往歴
- 妻と対立関係にある
- 家族や友人からのサポート不足
- 赤ちゃんが生まれた環境の変化
- 父親という新たな役割へのプレッシャー
なかでも、大きく関係しているのが「妻にうつ症状があるかどうか」です。
妻が産後うつを抱えていると、夫は「自分が支えなくては」と今まで以上に強く考えムリをしてしまい、気づかないうちにこころが限界を迎えてしまうことがあります。
また、男性は赤ちゃんが生まれて嬉しい反面、育児や家事がうまくできずに自信をなくしていくことも少なくありません。
たとえば、赤ちゃんが泣いていたから抱っこしたのに泣き止まなかったり、食器を洗えば「泡がついている」と注意されたりもするでしょう。
さらに、職場でも「父親になったんだから」とプレッシャーを感じることもあります。
このように、家でも職場でもプレッシャーを感じることが多い男性は、こころの疲れをひとりで抱え込みがちです。こうした状態が続くと、産後うつのリスクが高まるとされています。

「しっかり育てなくては」という思いもあるでしょう
男性の産後うつが子どもに及ぼすかもしれない変化
男性の産後うつが、子どものこころや成長へどのように関係するのか気がかりになるでしょう。
父親が産後うつになると、子どもは乳幼児期に情緒不安定になったり睡眠障害になったりすることが多いと言われます。[1]
ある調査では、産後うつを経験した父親の子どもは、3歳半までの問題行動や大きくなったときに自殺を考える割合が高くなる可能性があると報告されています。
しかし、育った環境や子どもの性格などほかの要因も関係するため、一概に「父親が産後うつになったせいだ」と決めつけてはいけません。
大切なのは、今からできるサポートやかかわり方を考えることです。
男性の産後うつを予防するには
男性の産後うつを予防するには、妊娠中に妻に対する関心を高めることがポイントです。[6]
男性は、お腹を痛めて出産したりお腹の赤ちゃんを守りながら生活したりはできません。
そのため「新しい生活が始まるんだな」「家族が増えるんだな」と妊娠している妻のお腹へ関心を高める必要があるのです。
生まれてくる前から一緒に子育てをする意識することで、夫婦のコミュニケーションが増え、妊娠中~産後の夫婦関係もよくなるでしょう。[6]
ただ、「もう遅い」「夫婦関係は戻らない」というわけではありません。
夫の産後うつに妻ができることについては、次で詳しく解説します。
夫の産後うつに妻ができること
夫の産後うつは、仕事や家庭のストレス、睡眠不足など複数の要因が重なって起こります。
妻の精神状態や夫婦のコミュニケーションが関係する場合もありますが、それは決して「妻のせい」ではありません。
むしろ、産後の大変な時期を夫婦ふたりで支え合い、関係を少しずつよくしていくことが大切です。
たとえば、夫がつらそうなとき以下のような声かけをしてみてはいかがでしょう。
- 「大丈夫?」ではなく「最近どう?」と声をかける
- 夫の気遣いを見つけて「ありがとう」と感謝の言葉を伝える
- 責めるのではなく「もっとこうしてもらえると嬉しいな~」と気持ちを伝える
- 専門家への相談をすすめるときは「一緒に行こうか」と協力する姿勢を伝える
- 父親向けの育児相談や自治体の支援情報を「わたしもちょっと気になって」とさりげなく伝える
最近は、産婦人科でも父親学級のように父親が子育てについて学べる機会も増え、医療機関や行政も父親支援に少しずつ力をいれています。
男性の子育て支援は、女性に比べると進んでいませんが2024年に「父親支援マニュアル」が作成されました。
産後は心身ともに大変ですが、ムリのない範囲で支援情報を共有することも、夫婦で育児を乗り越える助けになるでしょう。
男性の産後うつと育休の関係
育休取得は、男性の産後うつ予防に有効です。
育休の取得は、夫の精神的な負担を減らし産後うつの予防にも役立つのです。
スウェーデンでは、男性の育休取得を進める改革のあと精神科入院数が減少したという報告があります。[1]
近年、仕事・家事・育児に追われる男性も少なくありません。
育休取得は、父親の精神安定だけでなく、妻との関係がよくなったり子どもとかかわる時間が増え絆が強くなるきっかけにもなるでしょう。
「最近夫が疲れてるな」と思ったら、育休取得も考えてみてください。
まとめ|気づいたことが第一歩です
「夫が少しおかしいかも…」と感じるあなたのその気づきは、とても大切なサインです。
男性も産後うつになることがあり、その背景には仕事と家庭のプレッシャーやサポートの少なさ、夫婦関係の変化など、さまざまな要因が重なっています。
そして、夫の産後うつは、決して妻のせいではありません。
大切なのは、夫と共に「どうしたらよいか」を考えていくことです。
産後でこころも身体も疲れている時期なため、できることから少しずつムリのない範囲でサポートしていきましょう。
気になる状態が長く続くときは、病院に相談することも考えてください。おおかみこころのクリニックは、男性の産後うつの相談もできます。お気軽にお問い合わせください。
24時間予約受付中
おおかみこころのクリニック
【参考文献】
[1]男性の産後うつと育児休業|今西 洋介
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrsj/42/4/42_42_324/_pdf
[2]うつ病等の精神疾患合併妊産婦の診療と支援についてp15|岡井 崇
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000134647.pdf
[3]日本の父親における精神的な不調の頻度とそのリスク要因|竹原 健二
https://www.ncchd.go.jp/scholar/assets/7a9c3db5c293e8016ca72df23efe9877.pdf
[4]父親支援マニュアル|今和6年度こども家庭科学研究費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業
https://www.ncchd.go.jp/scholar/section/policy/project/papasupport_manual.pdf
[5]令和3年度母子保健指導者養成研修 父親をとりまく子育ての現状と父親支援についてp3|竹原 健二
https://boshikenshu.cfa.go.jp/assets/files/history/r3/tr6_lecture_4.pdf
[6]生後1か月児を育児中の父親における精神健康度の関連要因とサポートニーズ|中村愛美、朝澤恭子、筒井志保
https://www.thcu.ac.jp/research/pdf/bulletin/bulletin15_06.pdf
- この記事の執筆者
- 柚木ハル
作業療法士として精神科で17年の臨床経験を積み、現在は訪問リハビリに従事。経験を生かしメンタルヘルスを中心に、やさしく寄り添う文章を心がけて執筆しています。