知的障害と精神障害の違いをわかりやすく解説|2つの病気は併発するか










「知的障害」と「精神障害」はどちらも耳にする言葉ですが、その違いを説明できる人は少ないかもしれません。

知的障害と精神障害は、原因や症状が全く異なる別の病気です。

違いを理解していないと必要な支援を受けられず、本人や家族の負担が増える可能性があります。

2つの障害の違いを知り、理解を深めましょう。

この記事では、知的障害と精神障害の違いを5つの視点から解説します。正しい知識を身につけ、あなたや周囲の人がよりよく過ごすための準備を始めてください。

知的障害と精神障害の違い

知的障害と精神障害の違いには、おもに次の5つがあります。

2つの違いを正しく理解しておくことは、周囲から適切なサポートを受けるための第一歩となります。

それぞれについて見ていきましょう。

「病気と障害ってどうちがうの?」と気になったときは、下記の記事もご覧ください。

原因

知的障害と精神障害では生じる原因が異なります。

知的障害は脳機能の障害がおもな原因ですが、精神障害は心理的・身体的・環境的な要素が関係し合って起こるものです。[1][2]

知的障害
脳の機能に障害を受ける
具体例:感染症・頭部外傷・染色体異常 など
精神障害
心理的・身体的・環境的な要素が関係し合う
具体例:ストレス・人間関係・家庭環境 など

知的障害の原因は胎児期から18歳までの間に、脳に障害が生じることです。

一方、精神障害の原因はひとつに特定できないケースがほとんどです。心理的や身体的などの要因が関係し合って発症すると考えられています。

たとえば、強いストレスをきっかけにうつ病を発症したり、遺伝的な要因が関係して統合失調症に至るケースなどがあり、原因は一人ひとり異なります。

種類

種類において、知的障害と精神障害で違いがみられます。

知的障害は障害の程度によって区分され、精神障害は病名に分類されるのが特徴です。[3][4]

知的障害
・軽度
・中等度
・重度
・最重度
精神障害
・うつ病
・双極性障害
・統合失調症
・パニック障害など

知的障害には、病気ごとの種類分けはありません。知能指数(IQ)や日常生活を送るうえでの適応能力に応じて、軽度~最重度の4段階に区分されます。

区分は、どのような支援が必要かを判断する目安として使われるのです。

一方で精神障害は、症状や経過によってさまざまな病気に分類されます。

幻覚や妄想などの症状があらわれる「統合失調症」、気分の落ち込みが続く「うつ病」や、気分の波が激しい「双極性障害」などがあります。

症状

知的障害と精神障害では、症状が異なります。

知的障害は認知機能の困難さが中心で、精神障害は身体面と精神面の不調が症状としてあらわれます。[1]

知的障害
・計算
・読み書き
・コミュニケーション
・複雑な話や概念の理解
精神障害
・幻覚
・妄想
・食欲不振
・意欲の低下
・気分の落ち込み

知的障害のおもな症状は、知的機能の遅れに伴う困難さです。たとえば、複雑で長い話を一度に理解したり、計画を立てたりするのが苦手なケースがあります。

一方、精神障害の症状は病気によってさまざまです。うつ病では、気分の落ち込みや意欲の低下、食欲不振などがみられます。統合失調症では、幻覚や妄想といった症状があらわれます。

診断方法

診断方法において、知的障害と精神障害ではアプローチが異なります。

知的障害は知能検査が行われるのに対し、精神障害は診断基準にもとづく診察が中心です。[3]

知的障害
知能検査
精神障害
診断基準(DSM-5やICD-11など)

知的障害の診断は、まず本人の生育歴や発達の過程についての問診から始まります。

ウェクスラー式知能検査(WISC/WAIS)や田中ビネー知能検査などを実施し、知能指数(IQ)を測定します。

精神障害の診断は、医師による問診がほとんどです。

医師は患者さんの訴えや様子を観察しながら、「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)」や「ICD-11(国際疾病分類第11版)」などの診断基準に照らし合わせて、どの病気にあてはまるかを判断します。

治療方法

知的障害と精神障害では治療方法が違います。

知的障害では生活がしやすくなるサポートが中心で、精神障害は症状の回復を目指した治療が行われるのです。[5]

知的障害
集学的支持療法 など
精神障害
・薬物療法
・心理療法 など

現時点において、知的障害を根本的に治す治療法は見つかっていません。

そのため、治療よりは患者さんをサポートする「療育」が中心となります。

療育では一人ひとりの特性や発達段階に合わせて、日常生活に必要なスキルを身につけるトレーニングや、作業療法士によるリハビリテーションなどが行われます。

精神障害のおもな治療は、薬物療法と心理療法の2つです。

薬物療法では、抗うつ薬や抗精神病薬などを服用し症状をやわらげます。
心理療法では、カウンセラーとの対話を通じて考え方のクセを修正したり、ストレスへの対処法を学んだりします。

知的障害と精神障害は併発することがある

知的障害と精神障害は別の病気ですが、併発するケースがあります。

知的障害のある人はその特性からストレスを感じやすい状況に置かれます。そのため、ストレスをきっかけに精神障害を発症することがあるのです。

たとえば、周囲とのコミュニケーションがうまくいかなかったり、環境の変化についていけなかったりした結果、うつ病やパニック障害などを発症してしまいます。

もし2つの病気が併発していると診断されたら、治療は精神障害の回復を優先させることが一般的です。

知的障害には根本的な治療法がない一方で、精神障害は薬物療法や心理療法によって症状の緩和を目指せるからです。

精神面の状態が安定すれば、本人の不安がやわらぎます。その結果、知的障害の特性に応じた支援もスムーズに進められるのです。

知的障害と精神障害の手帳

知的障害と精神障害のある人は、それぞれに対応した障害者手帳を取得することで、さまざまな福祉サービスや支援を受けられます。

手帳の種類が異なり、受けられるサービス内容にも違いがあるのです。

知的障害の人は「療育手帳」がもらえます。
手帳を持っていると、障害福祉サービスや公共交通機関の運賃割引、公営住宅の優先入居といった支援が受けられるのです。[6]

一方、精神障害のある人には「精神障害者保健福祉手帳」が交付されます。
手帳の等級は障害の程度に応じて1級から3級まであり、公共料金の割引や税金の控除などが可能になります。[7]

下記の記事では精神障害者保健福祉手帳で受けられるサービスを一覧で解説しているので、あわせてご覧ください。

なお、知的障害と精神障害を併発しているときは、療育手帳と精神障害者保健福祉手帳の両方を取得することも可能です。

まとめ

知的障害と精神障害の違いについて、5つの観点から解説しました。

違いを理解することは、本人だけでなく周囲がかかわることにも役立ちます。

もしあなた自身や身近な人のことで気になる点があれば、ひとりで抱え込まずに医療機関や、自治体の担当窓口などに相談してみてください。

おおかみこころのクリニックでは夜22時まで診察しているため、仕事帰りでも受診できます。
24時間来院予約を受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。

おおかみこころのクリニック

【参考文献】
[1]障害の理解 本ハンドブックの目的|内閣府
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/s_kaigi/b_11/pdf/ref3-2_p2-3.pdf

[2]精神障害ってなんだろう?|日本精神保健福祉士協会
https://www.jamhsw.or.jp/ugoki/hokokusyo/20110219-kenri/20-23.pdf

[3]調査の結果|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/101-1c.html

[4]障害について知ろう|TOKYO障害者雇用支援ポータル
https://www.shougai-portal.metro.tokyo.lg.jp/about/01

[5]知的能力障害 – 23. 小児の健康上の問題|MSDマニュアル家庭版

[6]療育手帳制度の実施について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000712219.pdf

[7]障害者手帳・障害年金|こころの情報サイト
https://kokoro.ncnp.go.jp/support_certificate.php

執筆者:浅田 愼太郎

監修者:浅田 愼太郎

新宿にあるおおかみこころのクリニックの診療部長です。心の悩みを気軽に相談できる環境を提供し、早期対応を重視しています。また、夜間診療にも力を入れており、患者の日常生活が快適になるようサポートしています。




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